【後編】子供にとっての“価値のある居場所”を計画。敷地の高低差や安全性の確保などは逆手にとり、地域の環境に応じた具体的な仕掛けを設計する。 【設計事例】 〇愛知県「N保育園」の公設の保育園を民営化し新築するプロジェクト 〇住宅街に計画した子ども施設「グリーンホーム保育園」 〇公園の一角に遊具のような「場」をつくるプロジェクト「蓼科のあそびば」

Q. 子どもが楽しめる、具体的な仕掛けを教えてください。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
広い園庭の一角に子どもスケールのベンチを計画

(磯山)

例えばこのベンチは、敷地に高低差があることを利用して、あえてつくったものです。

私たちは、ある程度の段差も必要ではないかと考えています。

段差があると、行政や保育士からはケガの心配をされるのですが。

ここでは安全性を確保するため、視覚的に目立つようにしています。

(村上)

メリハリをつけているといえるかもしれません。遊戯場はフラットで広く安全につくり、どうしても段差が出るところでは逆手にとって、子供にとっての“居場所”になるようにと考えたり。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
階段と遊び場を融合。子供たちに人気の場所となった

例えば、1階と2階をつなぐ室内階段は、遊び場として、インテリアもエクステリア的な設えをしました。滑り台を設置したり、ボルダリングで壁を登れるようにしています。

階段の周りでは回遊性をもたせたので、子どもたちはぐるぐる走り回って楽しんでいます。

また、階段下を子どもの隠れ家にするようにもしました。

階段下はたいていの場合、頭をぶつけると危ないからといって囲むように要望されますが、子どもが入れない場所だらけになってもつまらないので、なるべく余白となる遊びの場をつくるようにしています。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
走り回る子どもの横で、読書に没頭する子どもがいる

(磯山)

穴ぐらのようになっている部分が、隠れ家のコーナーです。大人はかがまないと入っていけないのですが、子どもは難なく入ることができ、その中で本を読んだりして過ごせます。トンネルのコーナーでは、シリコンカバーのランプを壁に付けて、照度と安全性を確保しています。

この園は「ごんぎつね」の作者が生まれた街にあるので、ごんぎつねをグラフィックデザインのテーマとしています。このトンネルの中には、狐のシルエットをあしらって「ごんきつねはどこにいる?」というテーマの舞台装置のような空間も設けました。

ほかの個所にもフィルムで狐のシルエットを入れたり、園庭に「ごんぎつねの里」というコーナーをつくり、そこにパンチングメタルで狐の絵柄を表現するなども試みています。

Q. 主な部屋や個所の仕上げや製品の使い方について、教えてください。

(村上)

保育室の縁側では、軒を深く2mほどにして、保育室に直射日光が当たらないようにしています。2階の保育室は傾斜屋根がそのまま天井に現れた形状をしていて、デッキのある縁側の反対側にはハイサイドライトを設け、両側の窓を開けると風が抜けるように計画しました。 また、この園では快適性を考慮し空調に輻射式の冷暖房を床で行うシステムを導入。床下に空気の層をつくり、床面に吹き出し口を設けています。

子供にとっての価値のある居場所を計画
園舎をぐるっと囲う縁側。園庭と立体的につながる。

デッキテラスの床材には、デッキ材に天然木を使ったこともあるのですが、経年変化や長期的なメンテナンスのことを考えると、天然木はなかなか採用しにくく、再生木の既製品を採用しています。 色味は数種類の中から比較して、選びました。デッキの手すりは、スチールのパイプで特注しています。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
1階は安全性とプライバシーを確保。2階は地域に開放的に計画。

(磯山)

保育室のデッキと縁側に面した窓は、すべてYKK APのサッシを使用しました。

風を通すため、また外にすぐに出られるように、基本的に掃き出し窓としていて、網戸をパンチングパネルでカバーしてあって、触れたりぶつかったりしても事故や破損が起こりにくい構造をしている、園舎施設向けパネルスクリーン「EXIMA(エクシマ)31」という製品を採用しました。

これには、指はさみ防止用ストッパーなども付けることができ、また、以前にも使用したことがあり評判が良く、今回も使用しました。

窓ガラスにはさらに衝突防止のために、ごんぎつねのモチーフである、キツネの足跡マークをフィルムに貼りました。

(村上)

建築家がデザインするインテリアはどうしてもシンプルになりがちですが、私たちの子ども施設では、色を使うことも多くあります。

子どもたちは、色で空間を認識することもあるといいますから、例えばランチコーナーと保育室では色分けをする、といった提案をしたりします。

ただ、この施設ではクラスカラーがしっかりと定まっていたため、変更することなく採用することになりました。

Q.ほかに手掛けた子ども向けの施設について、解説いただけますか。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
中庭に向かって開けた、都市型の保育園

(村上)

都市の住宅街に計画した子ども施設があります(グリーンホーム保育園)。

主に近隣への配慮から、子どもの外遊びの活動を中庭に限定したプランとしました。

先ほどお話しした「N保育園」では外周に向かって屋外に開いていく計画でしたが、こちらは逆に、敷地の外に向けては閉じ、中央が開いています。室内では1階と2階ともに中庭に面して広い廊下をつくりその周囲に保育室を配置。中庭に面した開口部からレイヤー状に屋外に開く平面計画です。 さらに中庭には縁側のようなウッドデッキを設けて、子どもたちのさまざまな活動ができるように工夫しました。

子供にとっての“価値のある居場所”を計画
繭のような空間。子どもたちをふんわりと包み込む。

(村上)

長野県の蓼科市で、公園の一角に遊具のような「場」をつくるプロジェクトもありました(蓼科のあそびば)。

ある保育園の運営会社から、自分たちの研修施設の敷地の一角に、子どもたちのための場所をつくりたいという依頼がありました。

私たちは限られた予算内で、土地の特性を活かしてできることを考え、繭のようなかたちをした覆いをウッドデッキの上につくることにしました。

用途は特になく、森の中に子どもの居場所をつくるということです。

滋賀県立大学で建築構造の研究している永井拓生先生の研究室と協働し、直径5mmのカーボンファイバーを1本ずつ結束バンドで留めて形をつくり、木から吊るして固定しました。

雨風をしのげるわけでなく、外部か内部かも分からない、そうした感覚を抱いて自由に子どもたちが活動できるような場ができたと思います。

Q.子ども向け施設とエクステリア製品の関係性について、考えられることを教えてください。

(磯山)

子ども向け施設で必要とするエクステリア製品は、門扉やフェンス、舗装、ウッドデッキなどがあります。特注で制作することもありますが、機能を満たしながら満足のいくものをつくるために毎回悩みながら設計しています。

製品を選定するにしても、考えるべき要素はたくさんあります。

まず、耐久性があるもの。10年で使えなくなるというわけにはいきません。さらに安全性、視線制御とプライバシー、そしてコスト。それらを同時に満たす製品を探すのは、けっこう難しいですね。

(村上)

敷地の境界ラインのつくり方は、毎回悩みますね。隠すときは隠し、開くときは開くというメリハリを付けたいと思っているのですが、ほとんどの園側からはプライバシーの観点から周囲に対して閉じたいという要求があります。

ただ、1階がすべて閉じて外から覗けないようになってしまうと、地域の人にとって良い建築だろうかと疑問です。それで、N保育園のように2階では外に開いてバランスをとったり、食育や知育の庭を一部に用意してそこだけは透かして見えるようにしたり、駐車場は街に対してオープンにしたりといったことを計画しています。今設計している園では、地域の方を招待してイベントをすることも考えています。

Q.エクステリアの製品で、求めていることはありますか?

(磯山)

耐久性があり安全性が保たれている外部用の建具製品は、常に探しています。

園庭を子どもたちの活動に応じて分けるなど、その時の状況に応じて仕切るものを採用したいのですが、子どもが寄りかかると倒れてしまうし、よじ登れる高さだとよくありません。

門扉や外部用掲示板なども、住宅用とは少し異なるニーズが子ども向け施設用の製品にはあると思います。

(村上)

再生木材のウッドデッキ製品などは、どうしても各社で似通ってくるので、特徴が出てくると選びやすいです。

最近では、製造過程でのCO2排出量やリサイクル率などのクライアントの意識は年々高まっていますし、公共の施設でもサステナブルの視点がいっそう求められているので、そういた商品特徴があれば、採用しやすいと思います。

(磯山)

あとは、毎回のように「日除けがほしい」と言われるので、対応する製品があるといいですね。外での活動、運動会やプールのために日射を遮りたいというのですが、安全性のためには支柱を立てることが必要になります。

子供がぶつかっても、タープが風を受けても倒れない支柱にするとなると大掛かりになりますし、構造物になると建築面積との関係も出てきます。それでいて、取り付けと取り外しを保育士が簡単にできるようにする必要がある。

実際の設計段階ではアイデアがたくさん出るので、それを生かし、自分たちがメーカーと一緒に開発したいくらいです。

(村上)

送迎で登園した後のベビーカー置き場でも、鍵をかけられるバーを付けてみたり、毎回、考え工夫して制作しています。

開発の余地がある製品は、まだ、たくさんありそうですね。

 

 

ariadesign(アリアデザイン)

 

ariadesign(アリアデザイン)

村上佐恵子

早稲田大学大学院 建築学科 修士課程修了。Domus Academy / University of Walesにて学ぶ。組織事務所勤務を経て、2015年ariadesignを設立、代表取締役。子ども空間デザイン、建築設計、インテリアデザイン、空間アートを手がける。

磯山 恵

東京大学大学院 建築学科 修士課程修了。組織事務所勤務を経て、2015年ariadesignを設立、取締役。

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