【前編】ランドスケープデザインは、空の下の総合的なデザインと考える。「日本の美意識の源」を表現した日本のラグジュアリーホテルプロジェクトのご紹介。【設計事例:ギャリア・二条城 京都】

Q. 藤田さんのこれまでと、ソラ・アソシエイツの特徴を教えてください。

ソラ・アソシエイツはランドスケープデザイン・ライティングデザインそして環境アートを手掛けるデザイン事務所です。私自身は遡ると既に約50年前には、デザイン、そしてアートを仕事とすることを決めていたように思います。言うなれば他に選択肢がなかったと思います。プロダクトデザイン、グラフィックデザインを学び、環境アート、そして照明デザインを行ってきました。

照明の研究所に入り、照明デザインの基本は自然光であることを知りました。国内外の都市を巡り、自然の山、海に出かけ、朝から日が暮れるまで自然の光がこの大地にどのような表情を見せるか観察していました。そこで得たことを照明と素材の関わりの中で立体物、空間をいかに魅力的に表現出来ないかと考え続けていました。

しかし、職業として照明デザインといった人工光を扱うから側から一変して自然の光に照らされる空間のデザインへの意識が高まってきました。つまり、ランドスケープの世界です。太陽光、天空の状況を映し出す大地のデザインが最もやってみたいことと思うようになりました。ランドスケープこそが私がやりたかったことを統合するデザインであると気持ちがざわつきました。それから3~4年程、照明デザインと併用しランドスケープデザインをはじめて行きます。

1998年ソラ・アソシエイツを設立。私はランドスケープデザインを担当し、照明研究所時代の仲間をパートナーに事務所を設立しました。ランドスケープデザイン、ライティングデザインそして環境アートで主に建築の領域を対象にデザインを手掛けていきますが、次第に規模が大きくなり最近では都市公園においてデザインの依頼を受けています。また環境アートはアートギャラリーから依頼を受けていますが、光の現象を捉える表現や屋外世界の塊のような存在である自然石を相手に自然と人為の間で成し得ることを探究したいと考えています。

概念図『関わりのデザイン・景色』

ランドスケープデザインは、空の下の総合的なデザインと捉えています。私の考え方は自然と人間との間で行われる営みを捉え、多様なものが相互に関わって出来る景色のデザインであると思います。

ランドスケープデザインを成立させる要素として緑と捉われがちですが、それだけでなく自然現象である光・水・風・土の状況、時には火の存在、それらを捉え、その土地ならではの気候・風土、歴史文化が絡むことで豊かな物語が生まれると考えています。建築も大きな存在と捉えています。

時代のデザインの動きとしてグラフィック、ファッション、プロダクト、インテリア、サイン等のデザインの影響を受けています。また映像や音楽の存在も大きく、ランドスケープをつくる時の感覚・感性に大きな影響を与えていると思います。また、伝統工芸などに見られる普遍的なものを知る、感じることはとても重要だと思っています。私たちは、時代の早い動きのものとゆっくりと変化していくものと合わせて、常に変わってしまう存在としてのランドスケープを捉えています。

普遍性を捉えながら時代の動きを考えさせられたプロジェクトがあります。それは、海外からの視線を受ける日本のラグジュアリーホテルの存在でした。海外からゲストを迎えるにあたり表層的でない此の時代、此の場所の「日本の美」をいかに表現するか、日本人ならではの感性が問われました。

Q. 具体的な事例を通して、日本の美や感性と結びつくランドスケープについて教えてください。

「ギャリア・二条城 京都」のエントランス


バンヤンツリー・グループの「ギャリア・二条城 京都」はコンパクトラグジュアリーホテルで建築家の光井純さんとインテリアデザイナーの橋本夕紀夫さん、照明の内原智史デザイン事務所さん、大成建設さんと協働してつくりあげたプロジェクトです。二条城の南側に位置する、この敷地の中庭は、二条城の存在とその歴史が物語る気配感を意識して作庭しています。

中庭平面図 北側(上方向)に二条城

西側に位置する神泉苑は平安時代には二条城敷地まで及ぶ広大な湖であったとされています。この土地も湖でした。敷地の北側に配置されたこの庭は建築の影になり、決して自然採光に恵まれていると言えない空間です。

そこで、私たちはこの空間に水を引くこととしました。ここに自然光がどのように入ってくるか、四季を通してシミュレーションしています。奥行は16m程の距離なのですが、ゲストを最初にお迎えするラウンジからは、順光の景色が広がります。従って、水に映る景色は鮮明です。澄んだ「水鏡」の状態をつくることを狙いました。斜面の角度を分析し、3種の苔を張りながら、樹木の重なりによる奥行きを出しています。

時代を結ぶ、水の現象を捉えた「山紫水明の苑」


現場で水盤の水を満たしたときに、面白いことが起こりました。水系設備の担当の方が(言うなれば水景のプロフェッショナル)「これはきれいな水だ」と口にしました。弊社のデザインスタッフもこの瞬間息が止まったと。影の中、景色が次第に映り込んでゆく様に、私自身もデザインしたという意識が飛んでしまいました。計算・企てした末にたどり着いた、自我のない庭が生まれた瞬間に立ち会ったような、不思議な体験をしました。

中庭:右がラウンジ、左に二条城がある

プロジェクトがスタートした時、フランス人のプロデューサーからは「日本の美意識の源』を表現してほしいと言われていました。これはとてもワクワクさせる言葉でありながら、いかに解けるかが難題でした。従来のあり様としての日本庭園を持ってくるのではなく、此の場所、此の状況から生まれる現象を用いて土地の記憶と結びつけながら、今の時代のデザインとして昇華させることを考えました。自然との関わりを表現する日本の美と削ぎ落とされたシンプルなデザインとすることで、「日本の美意識の源」が内在された庭となったように思います。

中庭:中央にあるモミジの根元にある円形の「水鏡」と同囲の「水鏡」のシームレスな設え

 

 

藤田久数(ふじだ・ひさかず)
有限会社ソラ・アソシエイツ  ランドスケープデザイナー

1957年 愛知県生まれ
1980年照明デザインの株式会社LDヤマギワ研究所入所。
1993年株式会社ALS景観デザイン研究所設立に参画。ランドスケープデザイン、環境アートを担当。
1998年有限会社ソラ・アソシエイツを設立。個人邸から再開発まで広範囲にプロジェクトを手がける。

【主なプロジェクト】

新宿イーストサイドスクエア、パレスホテル東京、サウザンドキョウト、TOKYO 2020馬術競技会場、ザ・リッツ・カールトン 福岡など。

【受賞歴】

国際照明デザイン賞優秀賞
特殊緑化部門 環境大臣賞
ランドスケープコンサルタント協会 金賞
インターナショナルデザインアワード 金賞
ジャーマンアワード 特別賞など。

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