【後編】木と木の間や、建築と建築の間など、“あいだの空間”が美しく見えるように工夫することによって、人の営みが美しく見える風景をデザインしています。【設計・指定管理の事例】草津川跡地公園

Q. 「草津川跡地公園」も、周辺住民とともにつくってきた事例と聞きます。ご説明いただけますか?

滋賀県の草津川は、川床が周辺の民家の屋根よりも高い位置にあった、全国的に有名な天井川でした。決壊や越流を起こしたことから近代河川に替えられ、旧川は7kmにわたって長らく空き地となっていました。堤防を削って片道3車線の道路にする動きもあったのですが、多くの市民も参画する長い議論の末に、公園にしようという市長の判断があり、私たちが加わりコンセプトを支えました。

草津川跡地公園
旧草津川の草津川跡地が公園の舞台となった
草津川跡地公園
かつての「河の流れ」を「人の流れ」へと導く風景づくり

ここでも市民が公園づくりに徹底的に関わることを考え、さまざまな属性の人に向けたワークショップを数多く実施し、数えきれないほどの方々が参加しました。ワークショップの参加者は高齢者の方の比率が高くなることが多いのですが、子育て中の親が参加できるように子どもを1〜2時間は大学生に預けられるようにして、要望をいろいろと出してもらったりしました。公園のカフェのそばには子どもを遊ばせられる噴水を設けたのですが、これは「お茶をして話しながら子どもを見ていられる」という母親から出たアイデアを実現したものです。ちなみに、実際に入ったカフェやヨガ教室などのリーシングも私たちのチームが行いました。この公園づくりはパークPFI(公園の整備を行う民間の事業者を公募し選定する制度)の施行前でしたが、一部を市街化活性化区域の領域に含めることで、店舗を設けることを可能にしました。

草津川跡地公園
草津川跡地公園
広場中央に配した噴水は、身近な水遊びの場として大人気

旧草津川の敷地は比叡山に向かって軸線を持つ素晴らしいロケーションですが、アプローチに難がありました。最寄りの駅から歩いて商店街を抜けて旧川の手前に行き着くと、6mの壁のような堤防が立ちはだかり、その先に行くところがない状況だったのです。この壁の部分は、街のレベル、河床のレベル、堤防のレベルを結ぶように階段とエレベーターを絡めてデザインしました。バリアフリーにしたことで、草津川跡地公園へのアプローチを心理的にもスムーズにしています。

草津川跡地公園
階段とエレベーターによるアプローチのデザイン

公園だけにフォーカスするのではなく、商店街や街の住民の方々とも一緒に公園づくりを考えていくことを重視しました。このことが功を奏して、公園のオープン時には、イベントなどへの参加希望がたくさん集まったため、フォーラムやセレモニー、オープニングイベントなど、数日にわたって開催しました。また、リーシングしたカフェやホットヨガ等の店舗にはたくさんの人が来て繁盛し、公園の活性化に大きく寄与しています。

草津川跡地公園

Q. ランドスケープデザインにあたっての指針には、どのようなものがありますか?

ランドスケープをデザインするときにはいつも、太古から人間が住む環境をつくってきた歴史を意識しています。人は、まず平らなのか坂なのかといった地形を読み取ります。また、樹木の密度で身を置くところを決めます。そして土なのか芝なのかといった大地のテクスチャーを見ます。「地形」「樹木密度」「テクスチャー」という3つをうまく読み取りながら住み着いてきたのです。ランドスケープデザインではこの3つのマトリックスを掛け合わせることで、多様な空間ができます。さまざまな場を用意しておけば、誰もがどこかで自分がしたい活動ができる場所を発見できるはずです。

草津川跡地公園

草津川跡地公園では、地形については擁壁のほかに勾配が急なところ・緩やかなところ・平坦なところとグラデーションを付けていき、樹木の密度に濃淡を付けて異なる性格の居場所をつくり、テクスチャーについては舗装するところ・芝生・花や植栽を楽しむガーデン、水が流れる水面等と変化させ、それらを重ねていきました。また、公園内の照明器具すべてに調光をつけました。照明デザインを工夫し、暗くなってからの雰囲気もうまく演出することで、カップルが訪れるようなスポットとなっています。

草津川跡地公園
夜も楽しめる照明デザイン

私たちは、心地よい環境の器を用意することを大事にして、場所を使いこなすための道具を供給しようと考えています。そのとき、“おせっかいしない”ほうが、空間として気持ちがいい。変に意匠に凝ると飽きられますし、機能一辺倒では、その機能がいらなくなったときや時代が変化していくときに、不要になるからです。

Q. ランドスケープで用いる製品はどのように選択されますか?

設置した後に管理しやすい製品を選んでいくだけでは、その場にふさわしいものにはなりません。誰かに言われた無難なものを並べて置くというのが、最も良くないですね。もちろん予算は限られているので価格の安いものを選ばざるをえないケースはありますが、住民にアンケートをとって本当に必要とされている声があがるなど、管理サイドからだけではない要望があると特定の製品を設置できる場合もあります。

草津川跡地公園
日除けを望む市民の声をもとに設置されたテーブルセット

私たちがランドスケープで意匠から施工監理、指定管理まで一気通貫で行うのは、製品選びのためでもあります。デザインからオペレーションまでプロポーザルに組み込まれていれば、土木工事に入った段階で勝手に「同等品」に変えられることを避ける対策も取ることができます。あるいは公園も経営の対象になれば、安易に「同等品」を設置することも難しくなります。だって、流行るカフェにしたいときに、ただ座ることができるだけの椅子は選ばないでしょう? それだけ椅子やベンチで空間の雰囲気は変わるし、行きたくなるカフェかどうかが決まります。自分たちで経営していくという考えが入って初めて、製品のデザインされている意味がより問われるようになると思います。指定管理にも関わることによって、利用料や公園内の店舗等の売上から一定割合の額を公園に還元するしくみも行政に提案し、導入しています。それによって、公園をどう使うかを住民と一緒に考えて、自分たちで指定するベンチを新たに設置したり、木を徐々に増やしていくことなども可能になるのです。

草津川跡地公園

私たちは公共だけでなく、いわゆる非住宅の商業施設にも関わることがあります。商業施設では以前は「陳列されている商品の間を巡ってきれいに見られるルートをつくることが、お客さまにお金を落としてもらうためには重要」と言われていましたが、今では「お金を生み出さない床」も大切とみなされています。公共の公園のように滞留できる空間があることで、商業施設全体の売り上げが上がるということです。そうした空間には、ただ座るだけの椅子やベンチではなく、座った人が美しく見えるデザインのファニチャーを設置することが重要です。

草津川跡地公園
「なんばパークス2期・ランドスケープデザイン」で製作した腰掛けられるファニチャー

Q. エクステリアの既製品には、どのようなことを求めておられるでしょうか?

私たちはトータルにランドスケープをつくっていくので、全体の中にどう存在するかという視点でのラインナップを求めています。色や素材については、たくさんの種類を揃えてくれると助かりますね。エクステリア向け製品の素材はアルミ型枠材やハニカムパネル、ロートアイアンなどがありますが、製品の成り立ちから生まれる素材感や存在感が出ているシンプルなものが選択肢のベースとなります。あとは、すごく細いもの、すごく太いものがあると助かる場面もあります。逆に、意匠については「こんなものも、あんなものもある」といったバリエーションは必要としませんね。機能のデザインがされている工場や倉庫向けの製品には、華美な装飾は不要です。住宅向けの製品には「可愛らしいものが合う」という視点からデザインされているものも見受けられますが、やはり自分たちには必要ありません。

機能面で必要となる場面があるのは、門扉など管理が関係する製品です。ボラードやフェンスは高さを含めてラインナップが多くありますが、セキュリティの仕組みや方式はクライアントが求める方向によって変わります。既製品ではラインナップが不足していると感じますし、細かく対応するためには特注が必要になりますが、いずれにしても高価になるのが頭の痛いところです。

そしてカテゴリーとして製品が揃っているようで、意外と足りないと感じているのが「座る道具」です。椅子やベンチ、また自分たちは「どこでも椅子」と言っているのですが、折り畳み椅子ですね。少し前までは移動できるファニチャーは盗難に遭う可能性があり、管理しきれないということで行政からNGとされていました。でも今は、にぎわい創出の観点から、折り畳み椅子や移動性の高いものが評価されるようになってきました。また、2020年には「ほこみち」(正式名称は「歩行者利便増進道路」)制度が制定されて、社会実験によって精査することは必要ですが、通行エリアにおいて一定の幅を確保していれば(交通量の多い道路の場合は3.5m)、道路上であってもベンチや椅子とテーブルのセットなどを置くことができ、ケータリングカーを呼ぶこともできるようになりました。これまでは道路上に何も置いてはいけない、商売をしてはいけないというのが基本だったのですが、全国で今「ほこみち」が急増していて、道路が公共空間の新しい可能性を示すものとして大いに注目されています。

民間企業などが公共のエリアにファニチャーを置くときには、キャラクターをもつものがほしくなります。また「ウォーカブルなまちづくり」が注目されていますが、人が中心の歩いて楽しい街では、みんなが座れる道具や場所が必要です。私たちはずっと「アウトドアリビング」を創出したいと思ってきたのですが、インテリアで使う優れたデザインのファニチャーは数多くあっても、そうした製品のアウトドア版ラインナップは、実はほとんどありません。外を使いこなすための道具として、自分たちでもプロダクトを開発しようとしているところです。椅子とベンチに加えてテーブルもデザインしてセットにするとリビングの雰囲気が出せます。マルシェで使えるテントセットなども提案していきたいですね。

草津川跡地公園
「草津川跡地公園」でE-DESIGNが特注した、長さ65mにわたるストリートファニチャー

Q. エクステリアのファニチャーをデザインするときのポイントはありますか? 先ほどは「座った人が美しく見える」という話が出ましたが。

人が美しく見えるようにするには、美術品を飾ることを思い浮かべるといいでしょう。彫刻の場合は台座をしっかりとつくるように、床を強くデザインすると、その上にいる人には躍動感が出ます。額縁で縁取ると絵が美しく見えるように、木を植えるときには、木の額縁効果を意識して、木と木の間に見えるものも意識してデザインしますね。より広く捉えるなら、ランドスケープでは、建築物と建築物の間が美しく見えることも考えています。

そうした意味では、建築とランドスケープは図と地の関係にあって、どちらかだけで成立するものではありません。プロジェクトの最初の段階では特に、建築の設計者とは図と地の関係が反転しながらアイデアを出し合うコラボレーターとして協働したいと思っています。 ランドスケープは、自然でできた人の活動の舞台を提供していると思っています。木と木の間や、建築と建築の間など、“あいだの空間”が美しく見えるように工夫することによって、人の営みが美しく見える風景をデザインしています。

 

 

株式会社E-DESIGN
忽那裕樹氏(代表取締役)

忽那裕樹

▼プロフィール
忽那裕樹(くつな・ひろき)

1966年大阪府生まれ。ランドスケープデザイナー、まちづくりプロデューサー。株式会社E-DESIGN代表取締役。2025年日本万国博覧会協会 ランドスケープデザインディレクター。

公園、広場、道路、河川の景観・環境デザインやまちづくりプロデュースを各地で展開。国内外の大学、病院、学校、商業、住宅のランドスケープデザインを数多く手掛けるほか、魅力的なパブリックスペースを創出する。主なプロジェクトに「ヌーヴェル赤羽台(第2次)ランドスケープデザイン」(2012年グッドデザイン賞)、「草津川跡地公園」(第33回都市公園等コンクール 国土交通大臣賞)、「トコトコダンダン」(GOOD DESIGN賞 金賞・経済産業大臣賞、造園学会賞)、「水都大阪のまちづくり」(日本都市計画学会石川賞 共同受賞)など。編著に『図解 パブリックスペースのつくり方』(共著)。

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