【前編】あえて“デザイン・オリエンテッド”でデザインしない。“かたち”と“しくみ”と“うごき”を同時に考えるデザインの視点【設計事例】「赤羽台団地」の建替事業「ヌーヴェル赤羽台」
Q. ランドスケープデザインで大切にされていることは、何でしょうか?
E-DESIGNは、あえて“デザイン・オリエンテッド”でデザインしない、ということを是としています。私自身、リバーサイドや公園、広場、道路といったパブリックのデザインをするランドスケープ・アーキテクトであるとともに「まちづくりプロデューサー」として数多くのまちづくりにも関わってきましたが、形をデザインすることから始めるのではなく、「かたち・うごき・しくみ」のすべてを同時にデザインすることを常に考えています。

こうした姿勢に至ったきっかけは、阪神淡路大震災が起こった後に、神戸の商店街で活性化のチームを有志で発足し活動した経験にあります。商店街側からはアーケードをかけ替えたいという要望が出てきましたが、私たちは街のコミュニティ再生を先にすべきではないかと考え、グラスに火を灯す鎮魂イベントや復興市を小学生と一緒に行うなどしました。また地域の子どもたちに「街の未来を一文字で表してください」と募集して審査会を催し、それらの文字を旗に仕立てて商店街に掲げる「一文字フラッグ」というイベントも行いました。選ばれた文字を考えた子どもたちが親やおじいちゃん、おばあちゃんを連れて見にくるなど、多いに盛り上がりました。アーケードのかけ替え予算は5億円でしたが、旗は1枚5万円で合計55万円です(笑)。商店街という空間の使いこなしの提案から仕組みづくりまで市民と一緒に活動することで、営業を再開する店舗も増えていきました。“かたち”だけでなく、“しくみ”と使いこなす“うごき”を同時に行わなければ、まちづくりやランドスケープはできない。その想いを強くし、独立して自分の会社を興すことにしたのです。


独立後は今に至るまで、地域の方々と実施したワークショップの結果を反映する形で公園等のデザインをするほか、その後の施工監理や指定管理まで積極的に関わってきました。例えば公園をデザインする場合、まずは周辺住民の方にたくさん集まっていただいて、ワークショップで「自分がやりたいこと」のアイデアや意見をいろいろ出していただきます。すると「火起こしをしてバーベキューしたい」など、普通の公園ではできないことばかり出てきます(笑)。禁止する条例や慣例はありますが、どうやったらルールや規制を変えることができるか、使う側の立場から構想を描き、まずルールや規制を変えてから、“しくみ”や“うごき”をデザインし、最後に“かたち”をデザインする。こうした順番でプロジェクトを手掛けていけば、おのずと新鮮で地域性を獲得したものができます。そして、市民が自分たちで責任をもって公共のデザインに参加したり、その後の管理にも関わっていくと、できるものは本当に変わっていきます。
Q. 「赤羽台団地」の建て替え事業について、教えてください。
「赤羽台団地」のUR都市機構による建替事業「ヌーヴェル赤羽台」では、計画の初期段階からUR都市機構や各街区の建築設計者、照明デザイナーで構成されるデザイン会議に参画しました。赤羽台団地は南面平行で住棟が並ぶ典型的な団地でした。建て替えに伴う住民アンケートでは、「また戻ってきたい」という方が全体の90%近くにのぼるほど愛着を持たれた団地です。住棟が建て替えられるなかで、高台で昭和30年代から育ってきた樹木が残る住環境が魅力的であることは明らかで、「このみどりの環境を守りましょう」と働きかけました。
「赤羽台の杜」という標語を掲げ、樹木をできるだけ残しながらいかに新しい景色を創造するかを考えていったのですが、そのひとつが中心軸となるイチョウ並木です。建築を担当するシーラカンスアンドアソシエイツCAtと協働し、車道を歩行者専用道路に変え、以前は奥にあった集会所を並木に面するように配置しました。以前から行われていた夏祭りなどのイベントが開催できる交流スペースとして、並木通りの活用を図ったのです。盆踊りには、真ん中で踊る場所に加えて、休憩する場所、カップルが離れて眺める場所などがあると誰もが楽しめる空間が生まれますので、それぞれにふさわしい環境をつくっていきました。


設置するファニチャーは、広場を使いこなすための道具として用意しました。ベンチとして座ろうと思えば座れるし、ボラードとしても機能します。また集会所は電源と上下水道がありますから、そばの広場で行われるイベントの開催能力を上げる施設となります。そして、並木は駅とつながっているので、帰宅する人と集会所にいる人たちとの間で会話が生まれ、新旧の住民が交流することを思い描きました。竣工後にURの担当者は「忽那さんが言ったとおりになっていますよ」と喜んで伝えてくれましたね。イチョウ通りは団地のシンボル空間となり、新旧住民の新たな地域コミュニティ活動を支える環境をつくることができたと思います。


株式会社E-DESIGN
忽那裕樹氏(代表取締役)

▼プロフィール
忽那裕樹(くつな・ひろき)
1966年大阪府生まれ。ランドスケープデザイナー、まちづくりプロデューサー。株式会社E-DESIGN代表取締役。2025年日本万国博覧会協会 ランドスケープデザインディレクター。
公園、広場、道路、河川の景観・環境デザインやまちづくりプロデュースを各地で展開。国内外の大学、病院、学校、商業、住宅のランドスケープデザインを数多く手掛けるほか、魅力的なパブリックスペースを創出する。主なプロジェクトに「ヌーヴェル赤羽台(第2次)ランドスケープデザイン」(2012年グッドデザイン賞)、「草津川跡地公園」(第33回都市公園等コンクール 国土交通大臣賞)、「トコトコダンダン」(GOOD DESIGN賞 金賞・経済産業大臣賞、造園学会賞)、「水都大阪のまちづくり」(日本都市計画学会石川賞 共同受賞)など。編著に『図解 パブリックスペースのつくり方』(共著)。
著者プロフィール

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