【後編】植栽を良好に保つため建築構造で土厚を確保。これからのまちのことを見守る灯台のような様相と、大きな植栽桝のような外観を導き出した。
【設計事例:東京・蒲田の街につくられた地域の活動拠点「niwa」】
── 街なかで纏うように緑を配された「niwa」という建物について、説明していただけますか。
「niwa」は、東京・蒲田の街につくられた地域の活動拠点的建築です。クライアントの田中裕人さんは生業である不動産、建設業の他にいくつかのコミュニティ運営に加え、まちづくりにも豊富な知見を生かして関わられています。
敷地は地域イベントの道具をしまう倉庫が置かれていた場所でした。2年ほどをかけて田中さんたちと企画設計を練り、新しい建築は1階と2階をRC、3階を鉄骨で計画し、これからのまちづくりを見守る灯台のような様相と、大きな植栽桝のような外観が導き出されました。

田中さんとの関係は25年前、私がIDÉEに在籍していたときに東急東横線多摩川駅前の「東急ラケットクラブ」跡地で行われた「田園調布パブリックガーデンフェア」というガーデンイベントまで遡ります。そこでは10日間限定でカフェを開催し、屋外にフラードームをつくるなどして展示及び飲食販売を行いました。
私が独立した後には、「さかさ川通り」の田中さんたちが再整備する歩車一体の広場的な道路空間にする事業にも参加しました。道路を広場とし、歩車が一体となる空間にする計画で、私たちはベンチや街路樹の選定などに携わりました。
「niwa」では、敷地の前面道路側の間口中央に祭具倉庫を配し、奥にはレストランのスペース、2階と3階にわたっては路地状の植物空間、3階にペントハウスのような地域づくりの集会所を設けています。安東陽子さんがデザインした外部テキスタイルが植物と手をつなぎ、外部にインテリアのような空間を創出しています。このように時間が経過するにつれて植物は生長し、建築の輪郭をぼかして建物の佇まいを変えていくことを期待しています。



東京の谷中や根津などでは、住民が路地に植木鉢を並べ、街を歩く人に見せようとすることで界隈を創造しています。そして高密度化した街では、庭は建築の外にあるというよりは、建築の中に内包化されるようになっていきます。
「niwa」というネーミングは、時間の経過や人の営みを表現することを意図していると理解しています。
ここに植える植物は、オーナーの友人である植物愛好家の川瀬瑠亜さんが行っています。
1つひとつ植物を購入して養生し、自宅の庭のように植え込んでもらうことで、会話を生むような居場所をつくっていくことが目指されています。植物を選定する知識以上に、植物がどうしたら元気に育つか、花がどういう形をしていてみんなが興味をもって親しみを感じてもらえるか、彼女は体感として習得しているのだと思います。「この植物はこう見てもらいたい」という気持ちで、植える場所や向きが変わっていく。こうした感覚は、ネットや書籍の情報だけでは身につきづらい知識です。
もちろん、植栽を健全に保つには建築の技術が必要で、「niwa」では土の種類の選定や量、厚み、灌水システムなどの設定は私たちプロが行っています。建築では逆梁工法でマス状のスペースをつくり、植栽が必要な土の厚みを確保するなどしました。

── 既製品はどのようなものを使われますか?
エクステリアの既製品で私たちが最も使うのは、スチールフェンスです。例えば境界フェンスがどうしても必要な場合や周囲が硬質な構成でトーンを合わせる場合には採用を検討します。賃貸集合住宅の「スイシャハウス」では、もともとあったフェンスを、スチール(ここでは特注フレーム)と木、竹、そして植栽を組み合わせたものに更新しました。一昔前の住宅では常緑樹の濃い緑で垣根としていましたが、緑が茂る
と重たく暗がりになり、病害虫が発生したりしているケースもありました。

日本の家屋で少し前まで見られた「大和塀」は、目隠しすると同時に通気が取れる点で秀逸だと思います。またフェンスの足元を開けるなら、地面に下草などを植えて雰囲気を和らげることができます。その際はフェンスや建築の影になりがちなので、山の木の下で自生するような、日陰が好きな植物で構成します。また、鮮やかな色の花がつく樹種やカラーリーフを混ぜることを推奨し、目隠しとともに道行く人の目を楽しませることを重視しています。
賃貸住宅では、予算内でいかに生活の質を高めるかが重要です。そのとき、植栽は設備などに比べて費用対効果が高いので、利用しない手はないと考えています。
メーカーの製品は、耐候性や構造面での品質や機能としては完璧だと思います。ただ、実は私はアルミの面材でできたエクステリアの既製品は、表面のツルツルで無個性な感じが苦手です。耐候性は高いのですが、デザインはどうしても硬くなりますし、植物との親和性は乏しく感じ、利用者や生活者に求められていないように思うのです。型材の制限もあるので表情をつけることは難しいでしょうが、やり方はあるでしょう。製品開発で建築家のアイデアを募ってオリジナリティを出していくこともできると思います。
── 古谷デザイン建築設計事務所として、これからしていきたいことはありますか?
ランドスケープは建築を含み、内と外の空間を掛け合わせながらつくるものですが、どうしても建築と切り離して考えられがちです。すると、投資的な見方や経済感覚のようなものからも切り離されて、後回しになってしまう。
個々のプロジェクトに携わるときでも、公共性をもつランドスケープとして価値をつくっていくことを、建築家やランドスケープデザイナーはきちんと考えていかなければならないと思います。
私たちはこれから、組織設計事務所やゼネコンなども含めて、ほかの設計事務所が進めるプロジェクトのランドスケープにもっと携わりたいと考えています。自分たちの作品のことだけを良いでしょうと言っていても、社会は何も変わりませんから。面的に手掛けて広がっていくことをしたいと考えていますし、意志を共にする設計者はたくさんいます。それぞれの事務所が培ったノウハウを閉じ込めることなく、少しでも考えを共有し、一緒に開いて触れ合いながら、未来をつくっていければと思います。

古谷デザイン建築設計事務所
代表 古谷俊一
1974年東京都生まれ。1997年明治大学理工学部建築学科卒業、2001年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻 修士課程修了。IDÉE、都市デザインシステムを経て、2009年 古谷デザイン建築設計事務所 設立、2022年みどりの空間工作所 設立。現在、京都芸術大学環境デザイン学科客員教授。主な受賞に「東京建築士会 住宅建築賞」(大森ロッヂ新棟 笑門の家)、「日本空間デザイン賞大賞」(深大寺ガーデン)、「日本建築士会連合会 建築作品賞 優秀賞」(スイシャハウス・スイシャオフィス)など
著書に『みどりの空間学』(学芸出版社)、『みどりの建築術』(枻出版)など
著者プロフィール

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