【後編】地形や周辺環境、地域の歴史などの土地の調査分析から提案。建築家や事業者も含めて、地域の歴史背景を共有しながら、早い段階から部分ごとに外構のグレードの差をつけ、広い敷地の保育園を地域に開いた。
設計事例:愛知県半田市「にじいろ保育園花園」
地域性と子どもに適応したランドスケープ
── 「にじいろ保育園花園」について、教えてください。
愛知県半田市にある保育園で、運営は東京都内で保育園や幼稚園を多数運営されている会社ですが、最近では地方都市での展開が増えています。背景には、市営の保育園や幼稚園を民間に委託する流れがあり、こうしたケースでは自治体が運営事業者を選定するプロポーザルが行われます。以前に都内の区立保育園の民間委託案件で関わった際は、すでに事業者として選定された後の段階から我々が入りましたが、園庭だけでなく地域に開いた植栽の考え方を提案しました。それを非常にご評価していただき、今回はプロポーザル段階から関わせていただくことになりました。
このプロジェクトでは、広い敷地の保育園をどう地域に開いていくかという点が大きなテーマでした。半田市はミツカンの本拠地がある土地で、運河沿いには古いレンガ造りの倉庫群が残っています。江戸時代には、ここでつくったお酢を船で江戸まで運んでいたという歴史があります。建築家のアリアデザインさんとはそういった地域の歴史背景を共有しながら、黒壁の倉庫をイメージさせる黒い外壁、赤茶系の外装材など、地域の要素を取り込むことを意識しています。

さらに、この保育園は認定こども園で、0歳から5歳までの子どもたちが毎日過ごす場所です。だからこそ、園内の空間にも地域の物語性を感じられるようにしたいと思いました。調べる中で見つけたのが、新美南吉の『ごん狐』の物語です。この物語で描かれている何気ない村の風景をモチーフに、「ごんぎつねの森」というテーマで空間づくりを進めることになりました。最初の提案段階では、必ず土地の分析から始めます。このときも、地形や周辺環境、地域の歴史を調査しました。敷地は台地の突端に位置し、近くには『ごん狐』の舞台と呼ばれるエリアがあります。その場所との関係性も含め、物語を敷地内にどう織り込むかという視点でプランを立てました。
園庭は、年齢によって体格や遊び方が違うため、0〜2歳児用と3〜5歳児用に分けられています。0〜2歳児の園庭では、ハイハイやよちよち歩きの子どもたちが過ごす空間なので、触感や質感にこだわりました。ゴムチップ、砂場、芝生など、異なる素材を組み合わせて、手足でさまざまな感触を体験できるようにしています。3〜5歳児の園庭では、より身体を動かすことが重視され、広く走り回れるように設計しています。素材や空間構成も、年齢に応じて変化させています。


私たちは「学びの森」と名付けた、年齢を問わず使える共用の屋外スペースも提案しました。これは屋内の多目的ホールとつながっていて、室内外をシームレスに行き来できるようになっています。「学びの森」では、「ごんぎつね」の世界観をベースに、沢沿いの環境をイメージして、土着の植物を使った「レインガーデン」をつくりました。これは、屋根に降った雨水をいったん集めて、その水で湿った環境をつくる仕組みです。狐が暮らす森のような空間を演出し、遊び心として狐のシルエットサインをこっそり設置しています。子どもたちが「ごんぎつねを探せ」といった楽しみ方ができるような仕掛けです。

── 関わる期間が長いなかで、外構を現実的におさめていくにはどのような工夫がありましたか?
実務的な検討事項はたくさんあります。例えば「柵」のような部材は意外と総距離が長く、何百メートル単位で設置するとなると、当然コストが大きく跳ね返ってきます。それで、最初から「メリハリをつける」ということを考えておく必要があります。すべてのグレードを高くしようとすると予算を圧迫し、結果として全部が中途半端になってしまう。そうならないように、「ここはしっかりつくりましょう」「ここはコストを抑えましょう」という判断を、早い段階からクライアントと共有しておくことが重要です。
この園では、入口付近は園の顔になる場所なので、園のサインを入れた「デザインウォール」はしっかりとデザインしてコストもきちんとかけましょうと伝えました。杉板の型枠を使ったコンクリートの打ち放しで仕上げ、目地の入れ方や型枠の組み方、セパ穴の配置なども、こちらで細かく指示して調整しました。特注の小さな屋根もスチールでつくっています。また園庭と道路が接する場所での目隠しフェンスは、地域の人の目にも触れる場所ですから、見た目の良さを重視しました。一方で、園庭の裏側など人目に触れない部分については機能性重視という判断をしています。通り沿いの長い壁面は、建築と調和しつつ、ある程度のグレード感を保ちながらも、コストとのバランスをとった設計にしています。


「松・竹・梅」のように、部分ごとにグレードの差をつけていく。そして建築家や事業者も含めて、早い段階からその意識を共有しておく。こうしたアプローチは特に民間施設で大事です。民間のプロジェクトでは、どうしても最後に外構にコストのしわ寄せが来てしまう。そのため、「とにかく安く」となってしまうと、ランドスケープのやりたいことが実現できなくなる、ということが起こりがちだからです。
── 植栽の計画はどのようにされましたか?
基本は在来種を中心に選び、エリアによって少しずつ変えています。入口には紅葉の枝ぶりが特徴的なイロハモミジを選び、シンボルツリーのように配置しました。園庭では、どんぐりの実がなるコナラなどの樹木を取り入れています。樹種の選定は保育園によって意見が分かれるところで、「どんぐりはNG」「匂いがする花はダメ」と言われることも多いのですが、この園の場合は任せてもらえましたので、土着の植生を活かすことができました。0〜2歳児エリアには「ツリバナ(吊花)」という木を植えています。果実が下向きに咲くので、まだ立てないような小さな子どもでも、下から赤い果実を眺めることができます。
園庭では木陰をつくる必要があるため、生長の早い落葉樹を選んでいます。遊具や砂場の近くに木陰ができるように配置し、夏でも外で過ごせる環境を目指しました。「学びの森」では、土着の風景を再現するというテーマを持ち、具体的には川辺にあるような植物、例えばコリヤナギやチガヤなどの植物をあえて使っています。
また、園庭には菜園をつくるという話もあって、子どもが自由にその周囲に出入りできるようにしたいと考えました。地面をガチガチに舗装で固めると空気感までが堅くなってしまうので、芝目地を使い、さりげなく芝が入り込むようなつくりにしました。決して広い場所ではないので、きっちり整えるよりも余白を残すような、馴染みやすい雰囲気を大切にしました。
── 植栽のメンテナンスは、どのように考えましたか?
保育園に専門業者が定期的に入るということはあまりないので、メンテナンスの手間は事前に考慮しておく必要があります。例えば芝は芝刈りが必要になりますが、この園では、保育士さんが自分たちで作業しているそうです。夏場は月に1回、子どもが使う頻度を考えると、2週間に1回くらいは必要になることが予想されました。保育士さんは忙しく、水やりすらままならないというのが現場の実情ですから、他の植物も、なるべく手間がかからず、丈夫で育ちやすいものを選ぶようにしています。
私たちは、竣工時に「どこにどんな植物が植わっているか」がわかる簡単な冊子をお渡しするようにしています。「この植物の水やりは、夏は1日1回、冬は週1回で大丈夫」といった手入れの目安も添えています。咲いている花を見て「これは何だろう」と興味を持ってもらえるようにすることが、植物との関係性の入り口になると思っています。紅葉した葉っぱを見て「きれいだね」、春になって花が咲いたら「名前は何だろう」と会話が生まれる。そういう体験を通じて、少しでも植物への理解が深まるようにという願いを込めて、できる範囲で工夫をしています。
人工的な環境と地域の物語を調和させる
── もう1件の事例を紹介ください。
外車ディーラー内の中庭と背面の坪庭「Audi Rinku Park(当時)」は、独立して最初のプロジェクトでした。場所は愛知県常滑市のりんくう地区で、中部国際空港へ向かう途中にある埋立地です。当時のクライアントは「ライブラリーをつくりたい」と希望されていて、図鑑や写真集などを揃えて、車について深く知ってもらうための空間を設けたい、という構想がありました。ショールームにはドイツ本国の厳密なレギュレーションがあり、建築に関してはほとんど自由がききません。一方で、「ライブラリー」はレギュレーションにはなかった要素だったので、自由に設計できる余地がありました。そこで私たちは、「アウトドアライブラリー」というコンセプトを出しました。中庭と屋内のライブラリーが連続し、本を持ち出して読んだり、諸手続きの合間にお茶を飲んだりできるような、内と外がシームレスにつながる居場所をつくりたいと思ったのです。

この地区は平坦な埋立地ですが、すぐ近くには常滑の焼き物の街があって、山の地形と昔ながらの街並みが残っています。人工的な造成地と歴史ある焼き物の街というコントラストを、設計に取り込めないかと考えました。一つは「段差をつくる」こと、もう一つは「焼き物を使う」ことです。
テラスというとフラットにつくるのが一般的ですが、あえてレベル差をつけ、いろんな居場所のバリエーションを設けています。低いところにはテーブルセット、高いところにはソファセット、さらに高い位置にはパーゴラ付きのL字ソファと、場所によって過ごし方や佇まいが変わるように設計しました。家具も私たちで選定しました。対面で会話できるセット、ラグジュアリーにゆったり座れるソファなどを段差のある構成と組み合わせています。クライアントからは「パーティーで使うかもしれない」という話もあったので、広く使えるパターンも意識しました。

プランとしては、ライブラリーとテラスを軸線上でつなぎ、その正面に壁を立てて奥に桜を植える、という構成にしました。カウンターの背面にも植栽スペースがあり、そこから桜まで一本の線で風景がつながっていくイメージです。照明計画も夜の使用を想定し、ライン照明や足元照明など、さりげないけれど印象に残るデザインを心がけました。
── 素材や細部について、特に配慮したことはありますか?
地域性を反映させようと、空間の一部には常滑のタイルメーカーに依頼してつくった特注のモザイクタイルを使っています。地元の土を使い、浅い色から深い色まで、6種類ほどの色味で構成されたタイルで、基壇のような場所をつくりました。ここにはパーティーのようなときには大皿を置いたり、花瓶を飾ったりと、使い方をユーザーに委ねる意図でデザインしています。

デッキの立ち上がり部分には、アルミの厚さ3mmの型材を使いました。再生木材とコンクリート、そして常滑焼の茶色いタイルと組み合わせています。アルミの型材は、鉄のように塗装が必要なく、沿岸部でも錆びにくい特性があります。光沢は控えめでウェットな質感があります。アルミ型材は現場からの提案だったのですが、実際に使ってみて「けっこう面白い素材だな」と思いました。
建物自体が、スパンドレルのようなシャープな線を持つ構成になっているので、外部空間もその印象に呼応するように、細い線を意識したデザインを展開しました。例えば、コンクリートの階段も、塊で見せるのではなく、間に縦目地を強めに入れて壁から離す操作をしました。植栽も、白砂利を敷いたスペースにボーダー状となるように植物を配し、縦ラインを空間のさまざまなところに展開していく構成を意識しました。

素材を活かした「ちょうどいい」製品がほしい
── 既製品について伺いたいのですが、どのように選定されますか? 要望も含めて教えてください。
正直なところ、あまり既製品は使っていません。柵や車止めはメーカーの既製品を使いますが、立ち上がりで目に入る場所などには、できるだけプレーンなもの、あるいは素材感がしっかり伝わるものを選ぶようにしています。構造的にはしっかりしていて、コストも高くない。それでいて見た目にも変な主張がない、という製品ですね。例えば型枠ブロックでも質感があり、サイズは標準的な400mmや200mmよりも少し細長くて手に収まりやすいサイズ感のものを選ぶようにしています。
手すりも、製作でつくることはありますが、既製品を使うことももちろんあります。ただ、色のバリエーションに関しては揃えてほしいですね。柵とベンチが同じメーカーであっても同じ色がラインナップされていないといったことは、やめてほしい。製品同士で色の統一感を出せるようにしてほしいと思います。
── アルミ製品については、どう見ていますか?
フェンスなどのアルミ製品は比較的コストが安いのでよく使われていますが、いわゆる「無垢のアルミ」は少ない印象があります。多くが表面にシートを巻いていたりして、素材そのものの質感が見えません。個人的には、そういった加工は余計で、しなくてもいいのではないかと思っています。「〇〇調」や「〇〇風」といったものではなく、もっと素材のままの方が本来の良さが出ます。
例えばグレー系で数種類、ベージュ系で数種類といった色の選択肢だけで構成される素地のシリーズがあってもいいと思います。実際、インターロッキングブロックではそうした傾向の製品が出てきていて、レンガ調とか木調とかではなく、“黒が5種類”とか“ベージュが5種類”といったシリーズが存在します。柵や手すり、立ち上がりの部材、自転車スタンド、屋外のテーブルやベンチ、スツールなどでも主張せず、空間に合う味付けはこちらにまかせてくれるような製品シリーズがあっていいと思います。必要なのは“目立たないけど実用的で手頃なもの”で、既製品で良いものがあれば使いますが、「ちょうどいい」製品が本当に少ないと感じています。
使い方から始めるランドスケープデザイン
── 今後、ランドスケープではどのようにデザインしていきたいですか?
初期段階から入ることができるプロジェクトを増やしたいですね。今も「敷地のここに建物を建てますから、外構を何か考えてください」と依頼されるケースが多いのですが、それでは私たちのできることはすごく限られてしまいます。本当は「この敷地にどう建物を置くか」というところから関わりたい。どこにアプローチをとり、どこから人を迎え入れて、どんなふうに風景として見せていくか。室内からの見え方も含めて、そうしたことがランドスケープとしてはすごく重要だからです。配棟から相談してもらえると、本当にやりがいがあります。いろいろな事情があるのは理解していますが、ランドスケープデザインが持っている幅の広さや可能性、多様性のようなものを活かすことができればと感じています。
── 一般の方も含めて、ランドスケープの役割がもっと知られるといいですね。
最近は「ランドスケープ」の概念が広がってきていると感じています。つまり、建築まわりをただ“きれいに整える”だけではない、「社会的な価値を上げるランドスケープデザイン」です。私たちは「ランドスケープでこういうことができる」と、もっと伝えていく必要があります。建築は、建てることで価値が生まれます。でもランドスケープの場合は、何かをつくらずに「ちょっと間引きするだけ」でも、価値を生み出せることがある。「こういうふうに使ってみない?」という会話からでも、場づくりが始まる。それくらいの柔軟性があります。だからこそ企画次第で、どこまでも広がる可能性があると思っています。それから、私も所属する「JLAU(ランドスケープアーキテクト連盟)」というランドスケープの実務者が集まる団体があって、10年くらいの歴史があるのですが、まだまだ小さな組織です。会員向けのサービスだけでなく、一般向けの情報発信がさらに重要になってくるでしょう。
日本の地方の風景には、今もまだ美しい場所が多く残っています。地域内で経済が循環する仕組みをつくりながら、どのように風景を守っていくことができるだろうかと思いを巡らせることがあります。花壇づくりのような小さなことからでも、土や植物、自然と生活をつなげるようなデザインの実践が必要だと感じています。都市と自然、日常と植物のつながりを実感できるきっかけを多くの場所に生み出していく取り組みがもっと増えていけば、未来の風景を守ることにもつながっていくと信じています。

株式会社 オットー・デザイン 代表取締役
大木 一(おおき・はじめ)
1976年生まれ。1998年東京農業大学農学部造園学科卒業。2002年早稲田大学芸術学校都市デザイン学科卒業。2004年早稲田大学大学院修了。アプル総合計画事務所などを経て、2016年オットー・デザインを大木道子と設立。早稲田大学都市・地域研究所招聘研究員。(一社)ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU)常任理事。
技術士(建設部門 都市及び地方計画)、登録ランドスケープアーキテクト(RLA)、自然再生士。
著者プロフィール

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