【後編】「場づくりを自分ごと化する」

場づくりにおいて、私たちが大切にしていることのひとつとして「場づくりを自分ごと化する」というものがあります。関わる人たちが、場ができるプロセスから関わり、育くむ段階では主体となっていけるような空間のあり方と仕組みづくりを合わせて考えるようにしています。

Q2022年のグッドデザイン賞を受賞された「さいき城山桜ホール周辺地区」をご紹介頂けますでしょうか。

大分県佐伯市大手前地区で取り組んだプロジェクトです。かつて、城山と呼ばれる小高い丘の頂上に豊後佐伯城がありました。丘裾には門前町が広がっていて、いまでも武家屋敷、寺社、蔵などの古い町並みが残っています。計画地のある場所は地区の南側にあたり、かつての門前町の要所のひとつでした。近年までは百貨店があり、まちの賑わいの中心となる場所でしたが2002年に撤退となった後、途中で計画案の白紙撤回などがあり、長らく空地の状態が続いていました。

プロジェクトは、私たちの関わらせて頂く前に佐伯市と福岡大学景観まちづくり研究室柴田久教授らが中心となって開かれていた市民会議で議論がされていました。そこでは、かつての賑わいを取り戻すこと目標とし、新旧のまちをつなぎ、回遊性を高めるような賑わい施設の整備が掲げられました。プロポーザルで久米設計さんが選定され、私たちがランドスケープ空間の設計者として関わることとなりました。開発面積は約1.82haで、施設として新設のホール、情報発信館、公園、広場、街路整備、バスロータリーがあります。私たちは、屋外空間の設計やデザイン監修を担当しました。中でも、街路空間やバスロータリーといった土木のデザイン監修に関わり、領域を超えた風景づくりに挑戦したことは、私たちにとって良い経験となりました。(野田さま)

整備のコンセプトのひとつに「日常的に人のいる風景」が掲げられています。日常的に人が居ることができる「ケ」の場と、お祭りやマルシェなどワクワクするような出来事が生まれる「ハレ」の場が共存できる計画を目指しました。私たちはいつも、非日常の出来事は日常の延長にあると考えています。ある人にとって日常の出来事でも、他の人(はじめてくる人、たまにくる人)にとっては、非日常と感じることもあります。私たちの生活の中で、日常と非日常のシーンは混在していて、明確に分ける事ができないものだと考えています。

空間も同様です。ランドスケープ、土木、建築など領域が分かれてしまったり、何かに特化しすぎてしまわないよう気をつけています。(石井さま)

「場づくりを自分ごと化する」

城山から計画地全体を俯瞰する(撮影:佐伯市)

 

Qランドスケープ空間では、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。

日常的に人が居る風景をつくるために、木陰とセットにしたファニチャーを計画地の至る所に点在させました。どこにいても人の気配を感じつつ、思い思いに過ごすことができるような、程よい人と人の距離感を大切にしました。

「場づくりを自分ごと化する」

水景のあるステージ「さくらごろごろパーク」奥のパーゴラにも人が休む様子がみられる(撮影:佐伯市)

その中でも調整に時間を要したことは、基本構想にはなかった並木とベンチの整備を提案したことでした。並木は千鳥配植となっておりホールと向かいの施設との視線を和らげています。グランドレベルでは、ベンチや木の足元に人の滞留がおき、商業施設の賑わいに寄与できると考えました。検討の過程では、落ち葉清掃など日常的な手間が掛かることが課題にあがりましたが、その姿を含めて、人がいつもどこかにいる風景が生まれるのだと考えました。提案後、熱心に市役所の方々が地権者の方に説明をしてご理解をいただき形にする事ができました。数十年後に子供たちが大人になっても、木の下で語らいあう姿がみられることを願っています。

「場づくりを自分ごと化する」

城山を印象づける街路空間 木陰をつくる並木の下にベンチを計画(撮影:川澄・小林研二写真事務所 船来洋志)

非日常の設えとして、広場にはキッチンカーやテントを設置するマルシェイベントの利用を想定した可動できるファニチャーを整備しました。ファニチャーはスタンド席のように段々にもでき、通り全体を使うイベントで利用する事が可能です。

「場づくりを自分ごと化する」

可動式ベンチが点在する「さくらぱくぱくテラス」(撮影:川澄・小林研二写真事務所 船来洋志)

 

Qタイトルにある「自分ごと化する場づくり」に関わる出来事を教えてください

市民会議での議論を経てできたプロジェクトであったこともあり、地域の方々の注目度や期待が高い場所でした。竣工後は毎月のように多くのイベントが開催され、まちの人々が場を育みはじめています。これからもまちの人々にとって自分ごと化されていけばと願っています。(野田さま)

計画では、事業に関わる身近な人たちにとっても場づくりが自分ごと化されているかを気にしながら進めています。思いを込めてつくられた場所は、必ず使う人に伝わると信じているからです。そのためには、身近な人たちからビジョンを共有し、その方々が担い手の一人になってもらう必要があると考えています。

計画のプロセスでは、特に市役所の方々の熱意に取り組まれている姿に心を動かされました。「このプロジェクトが、まちの未来を左右するのだ」とおっしゃっていて、本当に沢山の議論を重ねました。公園と広場のネーミングだけでも何度も打合せを行い、最終的には市役所で働く方々やその家族も巻き込みながら投票し決定していきました。ネーミングの一つに「さくらぱくぱくテラス」があります。過程では「ぱくぱく」を2回繰り返すのが良いと熱弁されたときは、笑いもありながら、本当にまちの未来のために真剣に向き合っているのだと実感しました。

公園の美しい芝生の管理は、市役所の職員の方がボランティアで手を入れられています。この輪が広がり、まちの人にとって自分ごと化することを願っています。(石井さま)

「場づくりを自分ごと化する」

美しい芝生の広場。廃校になった学校から移植されたエノキが広場のシンボルとなる
(撮影:川澄・小林研二写真事務所 船来洋志)

 

Q屋外の構造物についてどんなお考えを持っていますか?

屋外空間に対して、一般の方が求めるクオリティーが上がっていると思います。その理由のひとつに、コロナウィルス感染拡大の影響を受け、公園の様な屋外で過ごす時間が増えた事が大きく影響していると考えています。外出を控える中で、身の回りの環境や居場所への解像度があがったのではないでしょうか。(野田さま)

ストリートファニチャーをはじめとする屋外の構造物は、風景を構成する大切な要素です。プロジェクトではその場所、過ごし方に合ったオリジナルのファニチャーを提案する様にしています。日本は四季の変化が豊かで、多くの土地が夏場は高温多湿で梅雨もあります。そのため、熱を帯びる金属や、腐食がおきる木材など、環境を考慮しながら材料を選定する必要があります。その土地の風土に合った材料と形状とが組み合わせることで、その土地らしい在り方を示す事ができると考えています。(石井さま)

 

Q屋外の構造物を特注でつくられることですが、既製品を使用する際に気をつけていることはなんでしょうか?

フェンスや門扉の構造物は、そのものが主役になるのでは無く、風景に馴染むことができるものを選ぶようにしています。機能として、フェンスや門扉などセキュリティの構造物も出てくる場合でも、外部からの視点にも立ち、街並みとして適切なあり様を考えるようにしています。

製品を選定する上で、日頃から勿体無いと感じていることは、工場が離れており遠い土地に選んだ品物を運ばなければならないことです。例えば、舗装材も離れた工場のものを関東に持ってくるなどが起こります。地場の素材で、地元の方がつくったモノが地元に設置されると本当はいいですよね。地元の工場でつくったものが地元で使われるということが理想的だと思います。(野田さま)

出来る限りメーカーや地場の工場の方とコラボレーションして、製品化する試みをしています。栃木県那須塩原市黒磯駅前の広場では、地元企業さんと舗装材つくりました。少し長尺物の平板100×400㎜となっていて、他には無いサイズ感を生み出しています。地域の骨材を混ぜて、職人さんのさじ加減で研磨しているため、とても良いむら感が生まれ、ひとつひとつ同じものが無い愛着が沸くような素材となっています。(石井さま)

 

Q環境配慮の時代の中で、注目しているものはありますか?

終わり方を含めたデザインを考えることです。

先日、北海道を訪れたときに利用した、BBQの焼き台(デンマークのCASUSGRILL社の製品でクラフトグリル)が印象的でした。焼き台は段ボール素材、網は竹串、着火材は竹炭となっており、徹底した環境配慮型のプロダクトでした。

ランドスケープの資材においても、土を混ぜてつくられた舗装材(日本興業つちみちペイブ)が開発されました。両者に共通していることは、最終的にゴミになるのでは無く、土に還ることができるということです。最近は、サーキュラーエコノミーなどの取り組みも注目されています。地球上の有限な自然資源をどのように活用するのかは大きな課題です。次世代の人たちに何を残すべきか真剣に向き合う必要があると思います。(石井さま)

 

Q屋外の構造物の素材に目を向けると、アルミ、ガラス、木といろいろなものがあります。それらの使い方で面白いと感じるものや、関心があるものがあれば教えてください。

エイジングを感じる事ができる素材です。

自然素材は、常に変化しています。樹木は新芽が出て成長し、枯れたりします。石は、黒ずんだり、苔むしたりします。金属の中にもコールテン鋼のように傷ついた被膜を自らで覆うような治癒力をもった素材もあります。

変化によって唯一無二の姿に変化をとげる素材は、魅力的だと考えています。(石井さま)

 

QYKK APの製品を最近使いましたか?

最近使用する機会がなかったのですが、YKK APさんで以前につくられていたアルミキャストのボラードが印象に残っています。鋳物の型を抜く関係だと思うのですが、だんだん上になると細くなっていく形をしていて、とても合理的で美しいものでした。「ものづくり」のプロセスが形に現れるというのも面白いと感じています。(野田さま)

現在は3Dプリンターなどの色々な技術が進んでいます。このような状況で、もう一度アルミの鋳型の製品開発などやりやすくなっているのではないかと考えています。最後のひと手間は職人さんの手によるとおもいますが、新しい技術を取り込みながらこれまでに無い世界が開かれる事を期待したいと思っています。(石井さま)

 

Q最後になりますが、エクステリアメーカーさんに何か、望むこと、注文など何かございますか?

世界中で愛されるような汎用性のある製品ができればと考えています。

汎用性のある製品とは、これまで話してきた特別感のあるあり方とは真逆に感じるかもしれません。私たちが考える汎用性とは、「終わり方を考えたデザイン」「エイジングを感じる」ことが反映された製品ができれば、もっと地域ごとに個体差が生まれ、風景を支えていく存在になっていければと考えています。

高温多湿の気候条件や地震など、たくさんの難しい要件をクリアしている日本の製品は、海外のどこでも通用するはずです。我々としては日本の磨き上げた職人の方々の技術の極みを海外の人に見せたいと考えています。ぜひ世界中の風景を支えられるような挑戦をご一緒できればと考えています。(石井さま)

 

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

石井秀幸
株式会社スタジオテラ・代表取締役
略歴 :ベルラーへインスティチュート修了。株式会社スタジオテラ設立。2015年より、パートナーの野田亜木子氏と共同運営。
登録ランドスケープアーキテクト。一級造園施工管理技士。自然再生士。雨水活用施設設計士。

野田亜木子
株式会社スタジオテラ・パートナー
略歴 :関東学院大学工学研究科修了。2015年より、代表の石井秀幸氏と株式会社スタジオテラを共同運営。
登録ランドスケープアーキテクト。一級造園施工管理技士。自然再生士。

 

「終わらない場づくり」「自分ごと化する場づくり」を掲げ、人の原風景づくりに取り組んでいる。

ランドスケープデザインを軸足においた設計活動およびプロジェクトディレクションを全国で行っている。町田薬師池公園西園四季彩の杜ウエルカムゲートにて造園学会賞(作品部門)を受賞、石巻・川の上プロジェクト、能作新工場・社屋、那須塩原市図書館みるる+駅前広場、さいき城山さくらホール周辺地区にてグッドデザイン賞を受賞、近作は大阪中之島美術館、リーフコートプラス他