一緒に作り上げる感覚を持ってもらえるように

『私の体験談』2回目です。

【 一緒に作り上げる感覚を持ってもらえるように 】

 

「妻の好きなように」

打ち合わせの際、ご主人からよくお聞きする言葉です。

エクステリアだけでなく「住まいづくり」に関しては女性が主導権を持つことが多いのではないでしょうか。女性の方が家で過ごす時間が長いという時代でもないと思うのですが、私の出会う住まい手は、まだまだ「奥様の在宅時間が長い」というスタイルの暮らしをしている方が多いようです。家に長くいる妻が心地よく、ご機嫌に過ごせれば、それが一番良い。ご主人は、そんな風に思われているのですね。

それならば、私たちは奥様に気に入ってもらえる、満足してもらえる提案をすることが重要になってきます。

どんなデザインを提案するかは重要です。でも、その前に私が意識しているのは「私のことを解ってくれている」と奥様に感じてもらうこと。

「私のことを解ってくれている」と感じると安心感が生まれるのでしょうか、率直にいろんな思いを話してもらえるようになります。奥様と二人で打ち合わせをするときに、ご主人への思いをお聞きすることも多いです。ご夫婦で同席されている時には口にされないことを話してくれたりします。

お二人の関係性が感じられて、住まい手の顔を思い浮かべながらデザインを考えている時、様々な判断に影響を与えます。

できるだけ最初のデザインを考える前のタイミングで、ご自宅を訪問させていただくようにしています。

住まわれている部屋を見ると今の暮らしが見えてきます。趣味や趣向が感じられます。これから計画する空間の素材・照明・門扉や表札を選んだり、色を決めたりするときは、感じた雰囲気に馴染むものをと意識します。デザインは直線ベースなのか曲線ベースが良いのか、そんなことも部屋を拝見すると答えが見えてきます。

写真はお客様宅での打合せ時のものなのですが。このようなインテリアにお住いの方に、シンプルでモダンなデザインを提案することはないですよね。落ち着いた雰囲気を保ったデザインを意識するはずです。

この訪問時にその場で、いくつかのプラン案を出していく中で反応を見ながらデザインの方向を探っています。奥様の話に共感することを大切にしていますが、奥様から出た要望とは違う考え方や捉え方を話すことで拘る部分が見えてきたりもします。

私自身の暮らしについて、お話しすることもあります。そこに共感されるか、共感されないか、違いが見えてきます。私が自分のことを話すことで奥様も話やすくなるということもあるのではないかと考えています。

デザイナー自身が年齢を重ね生活スタイルも変化していき、様々な生活体験が増えていくことで住まい手の暮らしをイメージする力も養われていきます。なので、住まい設計に関わる仕事において、歳を重ねていくことはメリットだと感じています。庭を提案するなら自分自身も庭と付き合う暮らしをしていた方が良いし、豊かな暮らしを提案するなら自分自身も豊かさを意識した毎日を送っている必要がある。自らの体験があるからこそ、住まい手とリアリティーのある会話が成り立つのだと思います。

訪問して打ち合わせを終えた時点の奥様は「私のことを解ってくれているに違いない」と感じている状態です。そこから「私のことを解ってくれている」と信頼に変わるのは、やはり最初の提案内容にかかっています。打ち合わせで要望を的確に捉え、作り上げたプランを気に入ってもらえたら一安心。あとは細かな反応を見逃さないように住まい手に寄り添い計画を詰めていきます。

私は、義理の両親が住む家をリフォームして同居を始めました。そのリフォームの際、工務店さんに気を使って伝えられないことがいくつかありました。現場監督がイライラしているのを感じたり、こちらの要望に迷惑そうな反応をされたりすると、どんどん言いたいことを言えなくなっていきました。そんな残念な経験から、私が提供する立場の時には住まい手にそんな思いをさせないように、気兼ねなく何でも話していただける状態を作っておきたいと考えています。

奥様のこうしたいという思いが構造やスケジュールや予算的に実現が難しいと感じても、すぐに否定はせず、そうしたい理由を聞き出しながら生じる可能性のある問題点を丁寧に説明し、代替え案を提案することで、全ての思いを受け止めてもらえていると感じてもらえるのではないかと思っています。

例えば「目隠しフェンスで庭を全て囲ってプライバシーを確保したい」という要望があったら。
本当に全てを囲ってしまう必要があるのか、無くても良い部分があるかどうかを検討します。もし必要がないと思う部分があれば、無くすことでどんな良いことがあるのか、無い方が魅力的な空間になるというデザインを提案します。要望を言葉どおり叶えることを優先した提案よりも必ず喜んでもらえます。

あれが欲しいこれが欲しいという要望をそのまま形にする前に、なぜそれが欲しいと思っているのか、それがあると生まれるどんな時間が欲しいのか。そこをきちんと汲み取れるヒアリングを心がけています。奥様の感性に寄り添っていくことで竣工まで、とてもスムーズに良い関係性を保ったまま進むことを実感しています。

今では当たり前の流れですが、昔からこの形を作れていたわけではありませんでした。次回は、住まい手の「〇〇が欲しい!」という要望にジレンマを抱えていた頃のことから始めたいと思います。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。