自分のスタイルを意識する

『わたしの体験談』6回目(最終回)

 

【 自分のスタイルを意識する 】

エクステリアの設計は、そこに住まう人の暮らしに「楽しい」や「嬉しい」や「面白い」、「美味しい」や「心地よい」・・・などという、気持ちが動き心豊かになる瞬間をいっぱい増やすお手伝いをすることだと思っています。そんな思いが私の仕事スタイルの中心にあるようになって、まだ10年くらいかもしれません。

エクステリアの仕事に関わるようになった最初の会社では、設計を担当していました。住宅メーカー・分譲事業主からの依頼、個人のお客様からの依頼、顧客に接する窓口は基本的に営業担当者。街並計画や展示場エクステリアなどコンセプトやデザインが最重要な案件に関しては設計者が出て行くこともありましたが、多くは社内でドラフター(まだCADが普及していなかった時代・・・そして未だにドラフターを愛用)に向かっていました。多くの案件は営業・設計・現場管理と分業制で動いていました。

その頃の私は必要な条件を与えられた予算の中で、機能的で安全で少し気の効いた無駄のないデザインに納めることがテーマでした。建売分譲がまだまだ多かった時代、物件数をこなすために思考と作業のスピードも重要でした。

経験を重ね注文住宅のエクステリア設計に関わることが増えてきた頃。建物の間取りも含めた敷地全体を俯瞰して見るようになりました。そこで暮らす人の毎日の行動を想像し平面図の中を歩き回りなから、時に立ち止まりながら何が見えるのか、何を切り取って見えないようにするのか、見えるようにするのか。道路からの外観を美しくするだけでなく室内で過ごす時間をいかにストレスなく快適にするのかも重要だと考えるようになってきました。

俯瞰することで周囲の街並みも視野に入ってきて、その場に建つ家が、どんな佇まいなら町に馴染むのかということも考えるようになります。

駐車スペースの取り方次第で外構デザインに変化が生まれバランスよく緑を取り入れることが可能になると気づき、車を道路や建物と並行直角ではなく、あえて角度を設けてレイアウトすることが増えました。ボリュームの多い広い花壇ではなく、小さくても敷地の道路側全体に緑をレイアウトすることが空間に豊かさを感じさせ家を素敵に見せることになります。

道路からと室内からの視線を調整し空間を豊かにする植栽は、落葉樹と常緑樹の使い分けだけでなく、どんな姿の植物を組み合わせるかで雰囲気が変わる。そんな頃、世間ではイングリッシュガーデンブームが巻き起こり、私の仕事の中でも扱う植物に大きな変化が起こり始めます。潅木・低木・高木などに加えて多様なグランドカバーや草花を取り込むようになっていきます。

植物に関する知識が増えていく中、あくまでも構築物に対する添え物的だった植栽の存在が次第に変わってきます。空間を彩り豊かにするだけでは無い。花や紅葉など四季の変化を楽しむだけでも無い。植物は眺めるだけでなく触れることで暮らしをますます豊かにしてくれる。植物を育てることで、人の心持ちが変化していくということに気づき始めます。

きっかけは、私自身が毎日の生活の中で植物を育て始め、自分自身の心の変化に気づいたからです。

植物を育て始める時、こんな風に成長していってくれたらいいな〜。この辺りに枝が広がればいい雰囲気になりそう。そんな妄想をしますが、植物たちは思い通りに成長してはくれません。雨風で枝が折れてしまうこともあります。成長に年単位の時間もかかります。時間に追われ何でも少しでも早く片付けようとする毎日の中で、待たざるを得ない。思い通りにならなくても受け入れざるを得ない。もう、大らかになるしか無いのです。すると不思議と何に対しても大らかになってきて心に余裕が生まれてきました。その感覚がとても気に入ったので、たくさんの人に感じて欲しい、知ってほしいと思うようになります。

水やりが面倒、虫が嫌い、時間がない・・・植物を遠ざける理由はたくさんあります。それでも植物に関心を持ってもらうにはどうしたらいいだろう。

植物を育てることで日常の生活に楽しみが増えたら。ハーブは料理やお茶・香りを楽しめる。ブルーベリーや柚子などの果樹は収穫も味覚も楽しめる。プラスになることが多いことを知れば育ててみようかと思ってもらえるのではないかと考え、そんな方向のアプローチを始めることになります。

生活スタイルも仕事との関わり方も多様になってきています。自宅での時間を充実させたいと考える人は確実に増えています。我が家で心地よく楽しい時間を過ごす為にお庭での過ごし方を見直す方も増えています。庭を整えるというと収入も高く余裕のある世帯だからできることと見られていましたが、ごく一般的な世帯でも自分たちの暮らしをもっと満足できるものにするために庭に手を入れるようになってきました。広い庭でなくても楽しみの詰まった空間にすることができる。そう気づいてきたのだと思います。

私はそんな方たちとの庭造りも大好きです。私の提案は必ず予算オーバーしているので、どこを優先してどこを諦めるかや、住まい手自身が自分でできること施工のプロに頼むことを選別し一緒に納得できる答えを探します。

住まいに関することは完成してからの暮らしを楽しむことはもちろんですが、作っていく過程もとても楽しいものです。住まい手には、その時間も楽しんでもらいたいと思っています。

過去に庭のリフォームをさせていただいたお客様と今、エントランスリフォームの打ち合わせをしています。ご自宅に伺うとお庭に面した窓前におしゃれなランタンが置かれていました。

日が暮れてきた庭にロウソクを灯したランタンを置くと、その景色が素敵なのだそうです。存分に庭を楽しんでいる様子をお聞きして嬉しくて幸せな仕事をさせてもらっていると感謝する瞬間でした。

奥様は私からどんな提案が出てくるのかを、とっても楽しみにしてくれていて、どこまで費用をかけられるかわからないけれど、まずは冨田さんが良いと思うものを提案して欲しいと言われます。

予算を聞いて、その範囲での提案をするという方法もあると思いますが、私はこの住まい手には、これがピッタリだなと思う提案をして実現可能なところに落とし込んでいく方法で進めています。それが私自身の納得度も高い仕事につながるからです。

エクステリアデザインの仕事に出会ってから、たくさんの経験を積み重ねていまのスタイルになっています。必要なくなったものは何ひとつなく、全てが積み重なっているからこその今の私のスタイルなのだと思います。

自分は何を大切だと感じるのか、住まい手にどんな時間を紡いで欲しいと思うのか、そんなことを意識していくことで自分なりのスタイルは作られていきます。

エクステリアデザインは住まい手の要望をカタチにするだけでも、10人いれば10通りのプランが生まれます。何も意識していなくても生み出した人の考え方価値観の塊です。そう綴りながら今、自分自身の背筋が伸びる思いです。

良いエクステリアデザインがたくさん生み出されていれば、エクステリアの価値に気づく人も増えるはずです。心豊かな毎日には心地よい庭が必ず必要と考える人を増やすにはエクステリアデザイナーの役割は大きいのではないでしょうか。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。