あなたのスキルアップの方法は?

大学で専門的に建築を学んだとしても、仕事を始めてみると知らないことだらけ。目の前の仕事を一つずつこなしていくだけでも経験は積み重なりスキルアップしていくことでしょう。でも、それだけでは物足りなさを感じることは無いでしょうか。今回は私の学びの道を辿ってみることにします。

商社の事務職だった私は平日の仕事を終えた後、夜間にインテリアを学び建築業界に転職しました。そう、大学で建築を学んだわけでもランドスケープや環境デザイン・造園を学んだわけでもないのです。そこにコンプレックスを感じていたから常にインプットしていたいのかもしれません。

建築業界で、大した知識も無い私を受け入れてくれたのはデザイナーズマンションやファミリーマンションなどを設計する所員4名の小さな設計事務所。まだCADの普及していない時代で、ドラフターに向かって線の引き方から教えていただきました。今思えば、よく雇ってくれたものです。

1:100平面図、1:50平面図、立面図、展開図・・・図面の基礎を学びながら日々ひたすら作図していました。デザイナーズマンションの外観デザインは、全所員がアイディアを出す形だったので、新人の私にも提案の機会は与えられ施工性や雨仕舞いを無視した素人案を出していました。(汗

しばらくして転職。ここでエクステリア業界にご縁をいただくことになります。同じ建築系の設計でも外構と建築は違いも多く、ここでもまた外構計画の基礎を学ぶことになります。

10年の在籍期間中は、資格取得を目的とした学びが多かったです。資格なんて、たくさん取得してもなんの役にも立たない。という人もいますが、資格を持っているということ自体が力を発揮することは少なくても、資格を取るための勉強は一定の効果はあると思っています。たくさん本を読んでも自分の中に残ることはほんの少し。資格の勉強になると記憶しないといけないので残り方が違う。とはいえ、試験が終わるとドンドン忘却していってしまうのですが・・・

会社から様々な研修にも参加させてもらいました。庭園見学、住宅地見学、デザイン研修、色彩セミナー、パースセミナー、照明セミナー・・・現在ほどスキルアップセミナーが乱立している時代ではありませんでしたが、ざっと思い返しただけでもいくつも出てきます。有り難かったです。

そういえば、ヨーロッパを初めて訪れたのも会社からの研修旅行でした。日本でイングリッシュガーデンブームが巻き起こっていた頃、イギリスへの研修ツアーに参加させてもらいました。ガーデンショップやナーセリー、ハンプトンコートガーデンショー、今は日本でも店舗展開している「ザ・コンランショップ」のロンドン店。日本はまだまだ園芸という垢抜けないイメージがあったので、国民の趣味1位がガーデニングという国のガーデンやガーデンアイテムのオシャレさに興奮しました。中でも一番心に残ったのは、庭での過ごし方。イギリスの夏は夕方の時間が長く、暗くなるのは22時を過ぎた頃。訪英中の夕食はパブのテラスで取ることも多く、いつまでも明るいので長い時間をツアー参加者の皆さんと過ごしていました。過ごしやすい気候もあって、その時間が本当に心地よくて、こんな時間を過ごせることが庭空間の一番の魅力だと感じたのです。この経験がなければ、私の提案する庭も少し違ったものになっていたかもしれません。

さて、多くの学びをいただいた会社を退職し独立するタイミングで、大阪芸術大学に開設されたばかりの通信教育学部建築学科に入学します。専門的に学んできていないというコンプレックスが拭えず、現場経験を積んでいても何か足りない気がしていたのです。外部空間といっても日常の暮らしを豊かにする庭が大好きな私は、環境デザインではなく建築を選んでいました。

暮らしを豊かにする空間という意味では、室内も外部も同じです。心地よい空間を追求する。アイディアを形にする。日常の仕事では制約が多くて思考が制限されがちですが、それを解き放って想像力を広げる。そんな訓練をしていたのだと思います。卒業設計は「過疎化が進む郊外住宅地の再生」をテーマに「森に住まう町」を考えました。特別に魅力的な周辺環境でなくても心地よい住まいを作るにはどうすればいい?そんな課題に向き合いました。それは今でも私のテーマで、市街地住宅地のホームオフィスで暮らしながら、どんな庭との暮らしが作れるのか何が出来るのかを探求し続けています。

もうひとつ、同時期に始めたことは「茶道」。純和風の庭を計画することは、とても少ないですが日本の住宅に和室がある間は和庭の計画はなくならないでしょう。和庭や小さな坪庭に象徴のようにおかれる「蹲」。それが何なのかよく知らなくても、それらしい絵を描くことは出来ます。でも、本当にこれでいいのかな?という不安がつきまといました。「蹲」は茶会をするための庭「茶庭」が起源です。茶庭を知るためには茶会を知る必要があると考えました。一般的なお稽古茶道では残念ながら茶会を知ることは出来ません。どこで「茶道」に触れるのかに拘りましたが、見つけることは簡単ではありませんでした。結局、若い人が集まる「茶道」のコミュニティーに入って、イメージするお稽古ができる「先生」との出会いを探しました。しばらくして当時住んでいた堺市の千利休ゆかりの寺院近くの寺院の娘さんが古民家でされている教室を紹介してもらうという幸運に恵まれました。一年目からお稽古茶会に参加させていただけたし、茶道には欠かせない着物の着付けの先生にも出会えました。季節ごとに変わる障子と御簾戸など、住まいのしつらえも体感させてもらいました。

客として和庭を着物で歩く、蹲を使う、待合で過ごす。もてなす側として水屋でお手伝いをする・・・その体験で、なぜそういうデザインなのかという理由を知ることができます。庭は一期一会にあふれているということも「茶道」は改めて気づかせてくれました。

建物平面図を見て和室に炉が切られていれば、住まい手は「茶人」のはずです。こちらから茶庭の話を始めるだけでも、住まい手からの信頼度が上がります。庭の計画をする上で、確認しておかなければいけないことが分かっていればヒアリングで戸惑うこともありません。茶会に招かれた人が部屋に入って、どう動くのか。それが庭のデザインに影響することもあります。庭を設計する仕事をするなら「茶道」を体験しておくことをお勧めします。体感する、実物を見る、その場の空気を感じる・・・自分自身で体験することは、とても大切だと思っています。

その後も建築や庭に関する学びは続いています。仕事を続けていると次々に気になることが出てきて知りたいことが尽きません。学びはとても楽しいです。

海外を旅するのも仕事をする上で良い影響がたくさんあるからです。もちろん単純に楽しいという側面もありますが。次回は、海外の旅の何が仕事に影響しているのか実際に仕事に生かしたことも交えて、ご紹介していこうと思います。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。