スキルアップのための海外視察

同じ場所に行っても、人によって見えている景色は違います。景色の中で注目する部分も違います。仕事に活かせる情報を求めての旅では何を得たいのかを具体的に思い描いて出発前から行き先を決めて訪問する。でも、実はそれだけでなく思いがけず出会うものもたくさんあります。思いがけない出会いを増やすために私なりに意識していることもあるのです。

エクステリア設計の仕事をしていながらも建築が大好きだった私の海外への旅は、建築めぐりが中心でした。スペインへはガウディ建築をめぐるツアーに参加。フィンランドはアアルト建築を巡るツアーに、と申し込んだのに催行されず、やむなく一人旅に。

そのフィンランドでの写真を見返すと素材を切り取ったものが、とっても多い。

 

 

当時の興味のあり方が出ています。この頃、エクステリアやガーデンで使用する材料・素材・商品を開発する仕事に携わっていました。その仕事のための旅では決してなかったのですが、結果的にこの時に魅力を感じた素材の形状やサイズ感、使い方などを参考に新商品が産み出されていきました。

フランスへはコルビュジェ建築を。一生のうちに見ておきたいものリストに入っていた「ロンシャンの礼拝堂」へ足を運びました。早朝にパリを出て宿に帰宅したのは22時過ぎ。ロンシャンのためだけに、なかなかのハードスケジュール。

 

 

この旅での発見は「小さなスペースでもボリュームのある緑を演出することはできる」ということ。ヨーロッパの人たちは、つる性植物やバラの扱いがとても上手。

海外に限らず、日本国内でも旅をすれば新たな発見があります。日常と離れることで気持ちにゆとりが生まれているからかもしれません。フィンランドやフランスで気づきを得ると、その後の日常の中でも同様の景色に気づくようになる。その魅力を何とか取り入れようと仕事の中で工夫をするようになる。すると今までとは違った提案が生まれてきます。

フィンランドでもフランスでも、主目的とは違うところで仕事に役立つヒントを見つけることができたのは、ひたすら歩いているから。目的地と目的地の移動、駅から目的地まで、歩けるところは全部歩く。旅の間はベッドに入ると即寝です。毎日ヘトヘト。団体ツアーでバスを使っての移動だと目的地に直行するから楽ですが、それでは出会えない発見が楽しい。ついつい欲張って活動してしまいます。

フリーで好きなところへ行ける機会が少ないツアーに参加したときは、朝の時間が貴重。朝の出発前の小一時間はホテルの周辺を散策。ホテルから周辺の景色を見下ろして住宅地を探しておきます。ごくごく一般的なローカルな住まいを見るのも面白いです。ヨーロッパは日本と比べてもエントランスを緑で美しく整えている住まいが多い。決して広くない住まいも多く、発見がたくさんあります。

 

 

フランクフルトで宿泊したホテル近くの住宅地は、かなり古そうな建物でしたが緑も多く手入れもされていてキラキラしているわけではないけれど、しっかり豊かさを感じる町でした。門扉やゲートが全てオリジナルなので個性が出ていて良かった。アルミの規制品がたくさん使われているのは日本の特徴なのだと、この時に気付いたのです。そんなことも日本から出る機会がなければ、きっと気づけなかったのではないかと。

次第に旅の目的が建築物から街並みへと変わってゆきました。フランスの美しい村など、美しいと評判の町や村をめぐり始めます。古くから残る村は車が入る広い道がなく、村の入り口からは徒歩。町の中に車を持ち込まない暮らしが今もあります。日本では、すべての道を車が通れるように変えていくための法律もありますが考え方が違うようです。人々がぎゅっと集まって暮らしていて、ご近所同士の距離がとても近い雰囲気です。

 

 

日々をどんな環境で暮らしているのか、それによって感性は違ってくるだろうなと思わずにはいられない。ため息が出るほど素敵な町はヨーロッパにはたくさん残っていて、今もそこでの生活は続いているのです。

いろんな住まいや住まいの集まった村、ローカルの人たちの暮らしがある場を歩くことは私の「気づきを得る方法」のひとつなのですが、ここ数年は外から見るだけではなく実際にそこで暮らす人たちの話を聞きたいと思うようになりました。どんな価値観を持って、何を大切にして生きているのか。国や地域によって個性があるのだなと感じていて、それがデザインに影響していることも面白いです。

例えば、スウェーデンには素敵な色や絵柄の食器やキッチンアイテムがたくさんあって日本でも人気があります。古くから、そのようなデザインが多かったわけではないそうです。

現在のスウェーデンは大人になれば男女問わず働くのが当たり前の国。そうなったのは深刻な人材不足が発端。現状まで成熟するには60年以上もかかっています。女性にも働いてもらわなければ社会が維持できないとなった時、家庭内のことはどうしよう?できるだけ無駄な時間を無くして効率良く、でも気持ちの豊かさは無くさず暮らしたい。

キッチン周りの道具は棚に収納せず出しっ放しの方が便利。ならば見せたくなる素敵なデザインにすれば良いのでは?雑誌で見る北欧のオシャレに飾られたキッチンダイニングの様子は部屋を素敵に見せるための飾りではなく、毎日使うものを並べている日常を効率良く過ごすための工夫なのです。そんな暮らしの工夫から、数々の素敵なデザインが生まれてきているそうです。

気候の違いによる住まいの違いや暮らし方の違い、気候が人の価値観に及ぼす影響。まだまだ知らないことばかり。興味はつきません。これから新たに知ることがたくさんあるということは、まだまだ伸び代があるということかなと思うのであります。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。