【前編】事業オーナーから“ニューヨークで一番の広場設計チームを入れてほしい”との要望に応えて、ザイオン氏とのコラボプロジェクトを実現。 「この“空地”は“偉大な素晴らしいパブリックパーク”だ」というコンセプトを導き、公開空地を設計しました。【JR田町駅のオフィス、住宅、商業の複合施設「Granpark 広場」の事例】

Q. 景観設計・東京での初期の重要なお仕事「Granpark 広場」について、背景やテーマ、特徴を教えてください。

(都田 徹)

「Granpark 広場」はJR田町駅の東口開発にもとづく、オフィス、住宅、商業の複合施設です。事業主体であるNTT都市開発の当時の社長がランドスケープの重要性を深く理解されており、私たちに自由に設計してほしいと一任されました。

1990年代の時代、まだ一般の人が自由に出入りできる「公開空地」を適用した事例があまりない頃でしたが、敷地のうち60%を公開空地として建築の容積率の緩和を受けました。

なお、このプロジェクトでは、オーナーのNTT都市開発から、最初の“都心での総合都市開発事業”なので、PRのために「公開空地」を設計するチームに、ニューヨークで一番の広場設計チームを入れてほしいとの要望が出ました。

そこで基本構想から入ってもらったのが、ランドスケープ・アーキテクトのロバート・ザイオン氏です。彼がこのプロジェクトに関わったきっかけは、私が鹿島建設に在籍時代、ハーバード大学に留学中にニューヨークで初めて出会った「ペイリーパーク」に憧れ、この都市公園をデザインしたZion Breen Associates(ザイオン&ブリーン事務所)で1年あまりスタッフとして働いた縁があったからです。彼への恩返しとして私は、著名なザイオン氏をプロジェクトにセットし、一緒にコラボレーションしました。

■Granpark 広場

ロバート・ザイオン氏とのコラボレーション・ワーク

第18回 緑の都市賞・読売新聞社賞受賞 1998年

「プリミティブデザイン」段階での広場鳥かん図
Granpark広場
公開空地を公共公園広場としてデザインした「Granpark 広場」竣工写真(1996年9月)公開空地を公共公園広場としてデザインした「Granpark 広場」竣工写真(1996年9月)

■「Granpark 広場」のコンセプト

フレキシブルな都市型定住住宅

都心での利便性を充分に保ちながら、良質で落ち着いた生活を支える定住性の高い賃貸住宅です。28階建てのこの高層住宅は、国際化・高齢化・価値観の多様化などによるさまざまなライフスタイルに対応できる、安全性と柔らかさを兼ね備えています。(駅前広場に近い東側に位置し、180戸を提供)

賑わいあるショッピングエリア

低層階の商業施設は、周辺を含めた人々の日常生活をサポートするだけではなく、広い範囲からの集客機能によって、街に活気を生み出します。確かな品質を揃えた専門店群や情報を発信するショールームなど、休日・夜間とも、あたたかさのある街づくりの拠点として、また四季を彩る自然を楽しみながらのコミニケーション・スポットともなります。

(多目的ホールは地域社会の集会施設であるほかに、講演会やイベントが行われ、文化交流の機会を提供)

水と緑が育む地域環境

地域の60%を占めるオープンスペースが、緑豊かな広場として誕生します。近隣者も自由に集えるこの水と緑の空間は、各施設をつなぎながら5つのエリアに分かれています。中でもグリーンパークは、春咲球根を一面に植栽するなど、季節のうつろいを告げる演出が進められています。 木々の間をゆっくりと歩いたり、木漏れ日の中で軽い食事をしたりと、自由なスタイルで自然との語らいを楽しんでいただけます。また、本プロジェクトのために、白い花が美しい梨の木の導入も検討されました。

空地につくったのは、アメリカの「プラザ」に近い、オープンでパブリックな広場です。建物以外は全てランドスケープという考えで、プラザはオープンにして、敷地内の人々だけでなく周辺の人などが誰でも使えるように計画しました。

コンセプトとしたのは、広場にどれだけ水や緑といった自然を入れるか、ということです。公開空地にはガラスを壁面に使った滝をつくり、もう一方の山手線が通っている側ではメタセコイアやモクレン、珍しい白い花を咲かせるコナシを植えました。中央部やロビー階には、世界的に有名なコロンビアの彫刻家・ボテロの作品が設置されています。

当時は公開空地の制度が始まったばかりで、日本のビルオーナーは空地に誰でも入れることに対して、セキュリティ面からあまり歓迎していませんでした。一方で、アメリカのパブリックな広場は一般に「近隣住民すべてにとってのリビング広場だ」という観念が広がっていました。ザイオン氏はその観念から「この“空地”は“偉大な素晴らしいパブリックパーク”だ」というコンセプトを導き、公開空地を「Granpark 広場」と名付けたい、と提案しました。

Granpark広場
「プリミティブデザイン」時の案では、「札の辻の辻橋」通りを隠す“8m高の滝”を前面にしてデザインしていました。
Granpark広場
実施案で提案したパース

滝は、当初の計画では道路側に高さ約8mとする予定だったのですが、コストの調整で2mほどの高さとなりました。でも、照明を仕込んだガラス表面に水が滑るように流れる様子は印象的なもので、夜も楽しめる広場での過ごし方を提供できたと思います。照明器具や噴水もデザインしましたが、照明計画は部分的にLPAの面出 薫さんに入っていただきました。

Granpark広場
通勤路は近隣にとっては近道。ただし、公開空地の中では公開広場になる
Granpark広場
公開空地のガラスの滝
Granpark広場
学校帰りの子どもたちも「水はどこから出るのかしら?」と覗いている
Granpark広場
毎日の通学路となっている
Granpark広場
公開空地が札の辻橋への近道
Granpark広場
石とガラスのコントラスト
Granpark広場
ガラスの滝の夜景。滝の照明と照明器具も景観設計のデザインによる

Q. 「Granpark 広場」でのロバート・ザイオン氏との協働について、もう少し様子を教えてください。

(都田 徹)

企画段階では、こちらからのアイデアをもとにロバート・ザイオン氏と議論し、スケッチとエスキスを通して形にしていきました。植栽した樹木については、一緒に山の裾野にある植栽のナーサリーの木を見て、樹形を確認しながら四季を通じて花を楽しめる樹種を選んでいったことを思い出します。

「Granpark 広場」では公開空地のほぼ中心部にイタリアンレストランが配置され、晴天時には室外のテーブルで食事が取れる設計がされました。滝の前で、この空間には花木を配したいと設計時に考えました。レストラン横のスペースは交通量が多い「札の辻橋通り」に接していますが、桜でも百日紅でもなく、都市の雑踏の中で清楚でキリッとした花、“梨の花”を植えるのはどうかと提案しました。「李下に冠を正さず」を反対に「梨下に冠を正す」として、花持ちのよいハナナシを選んだのです。清里の農家にもザイオン氏とともに訪れ、数本を畑の中から選ばせてもらいました。

Granpark広場
レストラン横で毎春、桜が開花してから2〜3週間後に白くキリリとした花を咲かせるハナナシ。都田氏は「公共公開空地には誰もが楽しみくつろげる“アメニティ空間”が必要です」と語る
Granpark広場
ザイオン氏との協働では、東京とザイオンオフィスと両方でデザイン打ち合わせを行った。写真はザイオンオフィスに招かれた際の様子。

ロバート・ザイオン氏の人柄やライフスタイルにも、大いに学ぶことがありました。彼はマンハッタン郊外に事務所を構えて築250年の農家を改装して住み、週休3日制で働いていました。自然や動物が好きで、仕事場へは馬で20分をかけて行き来するというライフスタイルです。彼は残念ながら2000年に交通事故で亡くなりましたが、今でも私のランドスケープの考え方に大きな影響を及ぼしています。

Granpark広場
オフィスの入り口に馬で到着したザイオン氏。通常は毎日、馬で自宅から通勤し、ニューヨークで打ち合わせの時のみ車で通勤した
Granpark広場
右端のオフィス前の道路にて。オフィスから自宅までの所要時間は馬で20分
Granpark広場
裏庭の馬場からオフィスのスタッフの車をよけて帰途につくザイオン氏
Granpark広場
在りし日のロバート・ザイオン氏
photo by Tooru Miyakoda

彼の代表作である「ペイリーパーク」では高さ7mほどの滝を設け、流れる水の音でオフィス街の喧騒を消しています。シンプリシティを極めた小公園は、滞在する人々が居心地よく佇んで憩い、楽しく語り合う場所になっているのです。

Granpark広場
ザイオン氏がデザインした「ペイリーパーク」 photo by Tooru Miyakoda

先ほど話しましたが、そもそもアメリカでは、オープンスペースや大きな公園は「市民のリビングスペース」と言われ、みんなで大事にしようという概念があります。都市公園はデザイナーが入るからといって、名声を高めようとデザイナー自らを主張するような対象ではないのです。

 


景観設計・東京
都田 徹氏(代表取締役)
都田 乙氏(専務取締役)

都田 徹 プロフィール

都田 徹
上原賞賞状

株式会社景観設計・東京 代表取締役。FASLA、FRLA。

大阪府立大学大学院農学研究科修士課程修了後、鹿島建設へ入社。ランドスケープ及び開発計画プロジェクトに従事。在職中にカリフォルニア州立大学バークレー校、ハーバード大学に客員研究員として留学。1986年 株式会社景観設計研究所東京事務所開設。

写真は筑波大学にて開催された2019年 日本造園学会にて上原敬二賞(日本のオルムステッド賞)を贈呈されたときのもの

 


都田 乙 プロフィール

都田 乙
都田 乙

株式会社景観設計・東京 専務取締役。RLA。

ルイジアナ州立大学院でランドスケープアーキテクチャ修士課程終了後、米国テキサス州ヒューストンのランドスケープデザイン事務所 TBG Partners に4年間従事。

写真はEuropean Society of Quality Reserchからの受賞の様子

著者プロフィール

事務局
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