【後編】「地形としての建築」の一つのかたち、土地の文脈から引き出した建築は、象徴性を持って風景を具象化する。設計段階から「進水式を待つ船」をイメージしてアプローチした。
設計事例:広島県福山市の造船会社社宅「seto」ほか
■地域に開かれた高台をつくる
── 建築とランドスケープを横断する、他のプロジェクトについても教えてください。
原田真宏:瀬戸内海の斜面に設計した集合住宅「seto」は、尾道と鞆の浦の間にある造船の町にあります。この地域には平場がほとんどなく、集落は斜面にへばりついています。地域振興に資する建築を求められたため、建築の屋上を使って、みんなで集って使うことができ、我が町を眺め下ろせる高台の広場みたいなものをつくってあげようと考えました。

©Ken’ichi Suzuki
3層の居住ボリュームを半ば崖にオーバーハングするように配置して、瀬戸内の豊かな景観へと開けたその屋上を、高い位置にある北側背面の道路から、大階段を介して直接にアプローチできる「パブリックスペース」として地域に開放したのです。崖上に大きく跳ね出されたキャンチレバーは、大きな屋上広場を生み出すことと、脆弱な崖地に応力が伝達されないよう、杭を崖端から必要なだけオフセットすることで導き出された形式です。3階高分の梁成とみなすことのできる3枚の主要な構造壁面と、これに直角に反復される短手方向の構造壁面に4枚のスラブ面が升目状に組み合わされることで、全体としては大型船舶の構造形式である「船殻構造」のような合理的な構造体が形成され、経済的にもリーズナブルな建築として成立することになりました。

©Ken’ichi Suzuki
自然や社会の多種多様な要求に応えながら、均衡させるように成立した建築は、明瞭かつ単純な「自律した姿」として立ち現れました。できてみると、大人たちは花見の季節になると屋上広場に集まってお酒を飲んだり、子どもはボール遊びをするようになったり。ボールが落ちてしまうので、本当はしてはいけないのですが(笑)。本当に「高台」が町に生まれたんです。

©Ken’ichi Suzuki
設計段階ではあえて言わなかったのですが、僕たちは実は「進水式を待つ船」のイメージを持っていました。あの町では2ヶ月に1回程、巨大な船が陸から海へ流し落とされる祝祭のような進水式があるんです。町の方には自分たちの象徴として見つけてもらいたいなと思っていたら、最後にはやはり「船みたいだなあ」と口にする人たちがいました。
岩とか山には昔から「烏帽子岩」や「象岩」「亀岩」など、何かの象徴性を託しますよね。土地の文脈から引き出した建築は、ちゃんと象徴性を持って風景をシンボライズするんだなと確信しました。これも「地形としての建築」の一つのかたちです。
■平坦な街に「山」と「谷」を刻む
── ほかにも、建築でランドスケープを意識したプロジェクトはありますか?
原田真宏:流山おおたかの森S・C の「FLAPS(フラップス)」は、都市の平坦な土地に「山と谷」をつくることを考えました。2005年頃から開発が始まった非常に新しい街で、もともとは関東平野の真っ平らな田んぼだった場所です。駅周辺には大規模な施設が並び、とても便利ではあるのですが、平坦すぎて自分たちの暮らしを体感し俯瞰するような「中心性」や「高低差」がありませんでした。そこでコンペの際に提案したのが、建築単体としては凸型の「丘(山)」であり、広場を含めた周りの施設と合わせると凹型の「すり鉢(谷)」となるような地形でした。
魅力的な都市には必ず、包み込まれるような広場があったり、街を見晴らせる高台があります。社会心理学的な用語でいえば「ソシオペタル(求心的)」と「ソシオフーガル(遠心的)」の状態です。湾曲したベンチの内側に座れば、みんなの中に自分がいるという喜び(ソシオペタル)を感じる。逆に外向きに座れば、視界から人が消えて一人になれる(ソシオフーガル)。これを立体的な地形として実現しようとしたのが「FLAPS」です。階段状の緑化された「山」をつくることで、賑わいと孤立の両方を都市に生み出したのです。

©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
平べったいところに山をつくる事には、参照できるものがありました。ロンドンにある「プリムローズ・ヒル」です。運河建設時の残土を盛っただけの草が生えた小山なのですが、年末などには自分たちの街を俯瞰するために、そこに行くのです。

©MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田麻魚:我々はプリムローズ・ヒルで新年を迎えた時とか、いろんな経験の中に「これいいよね」みたいな感覚があります。みんなが集まっているソシオペタルのような幸せ感を解釈して、大きな意味で建築の外側を含めて実現しようとしていますね。
原田真宏:「FLAPS」は人工的な山ですが、そこにオオタカも飛来するような緑を立ち上げて緑視率も高めることで、都市と自然が重なり合う。オオタカからすれば、もう普通の山に見えるでしょう。意味の世界だけでなく、生物的な感性の世界で「気持ちいい」と感じる場所をつくることが、都市の豊かさに直結すると信じています。

©Ryota Atarashi
■具象と抽象を往還する素材の使い方
── 建築や外構に用いる素材について、どのように考えていますか。
原田真宏:デザインとは、混沌とした現実をしっかりと観察して、その混沌から秩序や原理を抽象化して見い出す行為です。写真で見たニューヨークやアムステルダムといったどこかの様式や、バウハウスなどのスタイルをそのまま持ってくるのはトレーダーであって、クリエイターではありません。外の世界の様式で建築をつくってしまうと、郊外のよくあるロードサイドの風景になってしまう。それは僕たちはやってはいけないと思っています。
僕らは、その土地の具体的な世界から、抽象的な原理を見つけ出す。それを今度はマテリアライズ(物質化)して、もう一度「具象」に戻すことを大切にしています。そのときマテリアル(素材)はとても大事で、「具体化できれば何でもいい」ではなく、その土地や場所だから選ばれるべき素材、モノ同士の関係がありますよね。モノにはモノの原理があるので、彼らがなりたがっているかたちになるように、あるいは関係になるようにマテリアライズしていくことが至上命令としてあります。
── 具体的な例としては、先に説明いただいた「道の駅ましこ」の左官仕上げがありますね。
原田真宏:そうですね。一般的に空間を構成するときには「面」として壁は扱われがちですが、僕達は厚みと重さを持った「質量」として扱います。空間の意味だけでは、犬やカラスは魅力を感じません。でも、そこに特定の質量を持った「モノ」が存在すれば、その周囲に固有の「場」が発生します。僕らの建築でよく材料の小口(こぐち)が露出しているのは、モノの存在感を際立たせ、その「場」の力を建築に重ねて取り込みたいからです。
こういったモノが持った「自然の理(ことわり)」が建築物の中に入ってくることで、ランドスケープ的なものが立ち上がり、感性のようなものを取り扱えると思います。
空間がもつ「意味の世界」に足を置きながらも、生命的な「存在の世界」を大切にする。そうすることで、文化的な文脈を知らない人でも、あるいは動物であっても「なんかここは幸せだな」と感じられる環境が生まれる。ウチの犬はたぶん、マウントフジの環境を選んでくれると思います(笑)。
■風景を支える「バイ プレイヤー」への期待
── エクステリア製品や建材メーカーに期待することはありますか?
原田真宏:エクステリア製品は、通りの風景を直接つくっていますし、影響力を持っていますよね。だからこそ、主張しすぎない「良きバイ プレイヤー」であってほしいと思います。既製品は当然ながら、固有の土地から見出されたかたちではありません。少なくとも素材自体の声が出ていればいいと思うのですが、何かの「フリ」をしようとする「〜調」「〜風」の製品は、とても使いづらい。
特に気になるのが「色」です。僕らは、標準色でシャンパンゴールドなど中間的な色があるのは使いやすいと思っているのですが、既製品の黒はあまりに純粋な黒で、強すぎると感じます。自然界には純粋な黒なんて存在しません。もう少しトーンの優しい黒があれば、周りの風景や植栽と喧嘩せず、他のものを引き立ててくれるはずです。僕らはプロジェクトで黒を指定するときは少し黄色や赤みを入れるのですが、そうすると自然の中で馴染んでいきます。
あと、エアコン室外機のガラリは、ほしいですね。エアコン室外機って、どうしても敷地境界との間に挟み込まれると、能力が足りなくなるので道側を向きがちになり、現状では、道の風景を室外機がつくってしまっています。そこをきちんとケアしてくれるようなエクステリア商品を空調メーカーと組んで開発してくれると嬉しいです。
■大きな風景をつくりたい
── 今後の展望について教えてください。
原田麻魚:最近は、虫の目と鳥の目に両極化しているように感じます。制度や法律などマスタープランから降りてくるアプローチもあれば、植木鉢を運び、土を触りながら考えるような人もいます。中間的というか、真ん中の空いているところを自由に行来しながら両極をつなぐのが楽しいなーと。
原田真宏:地表から神様の視点まで、僕は通しでやりたいね。これからは、建築家がこれまであまりタッチしてこなかった「みんなの風景」に対して、もっと責任を持ちたいと思っています。今は渋谷の宮益坂地区で都市のスカイラインをつくるようなプロジェクトにも関わっていますし、群馬県の前橋では駅から県庁までの通りのデザインを手掛けています。これまでゼネコン組織が担ってきたような大きな風景をつくるプロジェクトについて、「いいと思うものをつくる」という確かな人格に収束する視点で向き合いたいと考えています。
── 具体的にはどのようなものを設計したいですか?
原田真宏:野心としてやってみたいのは「橋」ですね。桟橋や空港など「繋げる」施設もいい。これらはフィジカルな要因が強いものです。前橋のプロジェクトで僕たちは大きな歩道橋を提案していて、実現することになります。こうしたインフラ的なランドスケープのデザインを、きちんとしたクオリティで手掛けたいですね。5分の1や原寸で検討したような外部空間って、日本には実はあまりなくて、やるべき領域だと考えています。
僕がバルセロナで師事していたエリアス・トーレスという建築家は、都市の外構デザインがすごく上手で、たくさん仕事をしているんですよ。バス停のパーゴラや街灯のデザインもしていますし、グエル公園の改修でも階段やベンチなどを手掛けています。人が外で過ごす気持ちよさのための場所は、役所の人がカタログショッピングでベンチを置くのではなく、本当はデザインのプロがやるべきですよね。土木の基盤インフラに関わる領域は特に新しいことをするのが大変ですが、みんなが目にする存在ですから、きちんとデザインすることが大切だし、僕たちの仕事かなと思っています。

原田真宏(はらだ・まひろ)
株式会社マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所
主宰
1973年静岡県生まれ。97年芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了。隈研吾建築都市設計事務所、文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受け、ホセ・アントニオ & エリアス・トーレス アーキテクツ(バルセロナ)、磯崎新アトリエを経て、2004年 原田麻魚と共に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」設立。2016年より芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授。

原田麻魚(はらだ・まお)
株式会社マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所
代表取締役
1976年神奈川県生まれ。98〜99年 象設計集団、1999年芝浦工業大学建築学科卒業。建築都市ワークショップ所属を経て、2004年 原田真宏と共に「MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO」設立。東京理科大学、東京大学、名古屋工業大学、早稲田大学で非常勤講師の経験を積む。
著者プロフィール

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