一躍注目されている「グランピング」。ホテル施設の外部と内部での体験を促すことによって、アウトドアニーズを喚起、新しいエクステリアへの興味関心を生む予感がある。

観光庁による最新の観光統計では、令和3年1月の宿泊者数1681万人(前年同月比61.0%減)となり、コロナ禍の打撃を相変わらず受けている。外国人宿泊客に至っては、45万人(同95.4%減)とさらに厳しい数字だ。コロナ禍が収束しない中、日本各地のホテル・旅館などの観光産業は、これまでのインバウンド需要や団体ツアーなどを見込んだ代理店依存型のビジネスからの脱却を迫られている。

そうした中、旧来型ビジネスモデルからの脱却を図る上で、屋外や室内空間を活かした「グランピング」が一躍注目されている。

一躍注目されている「グランピング」

この流れは地域密着の地場施設だけでなく、全国のビジネスホテルチェーンなどでも採用が始まっており、これから本格的なホテル設計のリノベーションが起きてくることを予感させる。外部空間を活かすことで、そこに関連した様々なレクリエーションも融合してくるようになった。例えばグランピングに合わせた釣り、ハイキング、登山、バーベキューといった関連産業も活況になっている。また戸建て住宅がメインの市場であるエクステリア業界でも、ジャグジーやプールのあるガーデンに、簡易型のテントサウナを設置するなど、アウトドア産業と人の心身の癒しが融合した新しいビジネスが生まれている。

さらに、外部空間ビジネスは、自然豊かな地方だけでなく、そもそも豊富な自然が存在しない都市部の内部空間としても採用され、注目されている。

一躍注目されている「グランピング」

例えば、ホテル室内でのグランピング疑似体験の部屋(宿泊プラン)が登場し、また東京都心では、オフィス街のど真ん中にあるビルの室内でグランピング体験施設ができている。

 

こうした身近な施設で疑似体験をした都会人は、今度は本物のグランピングを体験しに、本物の自然を求めて外に出かけるようになる。これは今までアウトドアに興味関心のなかった人々に、「体感」を販売する手法であり、これがいま、新しい経済を静かに牽引しつつある。

一躍注目されている「グランピング」

コロナ禍で、人々は自らの心身にじっくり向き合う時間の過ごし方に目覚め始めている。それに伴い、建築や商業施設といったハードと外部空間のソフトとの融合が、「体感」ベースで静かに進んでいる。

旺盛なインバウンド需要や爆買いといった一時期のブームが去り、「黙っていてもお客さんは代理店が連れて来る」観光産業バブルは残念ながら一時停止している。これまでのインバウンド需要や団体ツアーなどを見込んだ代理店依存型のビジネスからの脱却を迫られていると言える。ただし、危機感からはチャンスも生まれる。コロナ禍は、観光業自らが「攻め手に転じて価値観の分かる顧客に理解されるようなホテルづくりをする」という姿勢への変化を促すことで、さらなる進化を遂げる可能性が出てきている。今、注目されているグランピングは、そのひとつの進化の機会として考えられる。

著者プロフィール

株式会社住宅環境社
株式会社住宅環境社佐倉慎二郎
佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。