「MaaS」によるモビリティ革命で変わる街づくり
日本の街づくりを変える動きとして「MaaS(マース:Mobility as a Service)」が注目されている。
国土交通省の定義によると、MaaSとは「地域住民や旅行者一人一人の移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて、検索・予約・決済等を一括で行うサービス」だ。
使い方としては、Google mapなど地図ソフトでの目的地検索に近い。Googleなどの場合、現在地と目的地を結ぶ最短の交通ルートが自動車や電車、徒歩などで表示される。それに対してMaaSは、これらの検索機能に追加して、電車やバスだけでなくタクシー、カーシェアリング、シェアサイクルなどローカルエリア特有の様々な交通手段を使い目的地までの移動手段の獲得を目指している。
同時に、現地に着いたら訪れたい店舗や施設の予約や支払いなどもキャッシュレスで一括して管理できるという運用を目指している。
MaaSには鉄道や自動車等の交通事業者によるキャッシュレス化と、ローカルエリアにおける細かな交通情報のデータ化が不可欠である。また、現在のMaaSは「交通」がメインでシステム開発が進んでいるが、将来的には医療や物流、住宅やゲームにいたるまで様々なMaaS化が進むと言われている。そうした背景もあり、現在、日本では民間事業者が関連サービス商品やシステムの開発と提供に本腰を入れ始めている。
移動にも変化―「LUUP」、「TAMa-Go(たま・ごー)」
こうしたMaaSを想定したビジネスとして、大手鉄道の京王グループでは4月27日~6月20日の期間で、多摩地域おける沿線型MaaSの実証実験として「TAMa-Go(たま・ごー)」という取り組みを実施する。これは高尾山ケーブルカー・リフトチケットの発売や、青梅市内・岐阜県高山市でのサービス展開の実施、京王プラザホテルのグルメチケット等について、一連のサービスをスマートフォンアプリ上で提供・サポートするというものだ。
またMaaSが普及していく上で興味深い取り組みは、電動マイクロモビリティの活用である。これについては、「東京駅から六本木までシェアサイクルを利用したら何分かかるか」といった「LUUPでワープ!」というキャンペーンが始まっていることに注目だ。
この取り組みは、電動キックボードや小型電動アシスト自転車などの電動マイクロモビリティを取り扱うシェアリングサービス「LUUP(ループ)」を展開する企業(㈱Luup)によるもので、同社は今年のゴールデンウィークに向けて、LUUPのポートを駅に見立てて混雑や密を回避できる効率的な〝ワープルート〟を提案。展開エリア各地で交通安全講習も実施する。
キャンペーン中は〝街じゅうを「駅前化」するインフラをつくる〟を掲げて、混雑しがちでユーザーから移動に手間がかかると意見が寄せられた東京・大阪エリアの電鉄14駅と、LUUPポート50か所に駅名標を模したワープルート提案型広告を掲示。掲出場所には〝移動面倒あるある〟なメッセージとして、例えば、「六本木が最寄りなのに、徒歩だと11分。」(六本木→西麻布)、「歩くには遠い。タクるには近い。」(赤坂→六本木)、「頑張れば歩ける距離は、歩きたくない。」(梅田→淀屋橋)などを掲げる。1100ヵ所超あるLUUPのポートを利用すれば、ゴールデンウィーク中の公共交通機関の利用での三密が避けられ、人流の分散・混雑回避にも貢献する。
北欧、台湾はMaaS先進国
今後の日本でのMaaS普及において、見習うべき国はフィンランドやスウェーデン、そして台湾である。特にフィンランドはMaaS先進国と言われており、首都・ヘルシンキでは「Whim(ウィム)」と言われるMaaSが普及している。
Whimでは公共交通の電車とバス、タクシー、サイクルシェアリング、レンタカーなど複数のモビリティサービスの予約と決済をスマホで一括で行える。決済はサブスクが利用でき、活用頻度や利用形態によって月額無料プランから月額49ユーロ(6,000円)~月額499ユーロ(60,000円)といったプランが選べる(例えば49ユーロプランは、対象エリア内の公共交通機関が乗り放題で、5kmまで最大10ユーロでのタクシー利用、1日49ユーロの固定料金でレンタカー利用可能、1回30分以内はシティバイクの利用無料といった仕組み)。
また台湾の高雄では、MaaSの導入とともにシェアサイクル専用の駐輪場や自転車専用道路が数多く整備され、地下鉄の駅にはシェアサイクル駐輪場やバス乗り場などへの案内板も設置されている。まさに「MaaS利用のために最適化された街づくり」が進行中だ。
MaaSのメリットと今後の日本
MaaSには「地球環境に良い」「移動がスムーズになる」「ストレスなく支払い可能」「田舎でも都市でも安く早く移動できる」といった導入メリットがある。またフィンランドではWhimが普及した結果、自家用車を持つ人が減り、公共交通機関を利用する人が増えたといった効果が上がった。
日本で普及を阻む一番のハードルは、道路交通法や貨物自動車運送事業法、鉄道事業法など様々な規制であると言われている。また鉄道会社の多くが民営会社であり、各社の権益も調整も必要となる。
自動車メーカーのトヨタは、「自動車をつくる会社」から「モビリティ・カンパニー」にモデルチェンジすると宣言しているのはよく知られている。これもMaaS戦略の一つとして、「自動車を作る会社」から、「〝移動〟に関わるあらゆるサービスを提供する会社」への進化を目指すものであり、日本の今後の自動車産業のあり方を示唆しているのだ。
これに合わせて、当然のことながら日本の各地の街づくりは変わっていく必要がある。電動マイクロモビリティのポートや広場、公開空地などのデザイン対応など、人間の快適性と移動の環境負荷低減を両立した空間づくりのニーズが高まって来るだろう。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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