6.エクステリアは家とまちを繋ぐ場所

『建物からの目線でエクステリアを考える』の
6回目のテーマは
『エクステリアは家とまちを繋ぐ場所』です。

 

住まいは必ず公共の道とつながっています。家があって敷地があって道がある。家と道の間にある敷地、ここがフロントエクステリアと呼ばれる部分。フロントエクステリアのデザインは住まいの心地よさを大きく左右するだけでなく、街並みを構成する一部でもあります。個人の所有物である住まいの一つ一つが集まって、街並みが作られていきます。既存の街並みの中に、はめ込まれる新築の家。その新しいひとつの家が街並みを、より豊かにする存在になれば住まう家族自身も街に馴染みやすくなるのではないでしょうか。

住まいは「そこに住む人を現している」

フロントエクステリアでは住まう人の価値観が垣間見えてしまいます。私たちは街を歩きながら通り過ぎる家々からたくさんの情報を受け取っています。好感を持ったり、自己中心的だなと感じたり、深く考えているのではなく、なんとなくの印象を持っています。それは道路から見える生活感から受けるもの。それはそのまま、住む人自身の印象に繋がります。

門や塀は、どんな形をしていて素材には何が使われているのか、どんな車や自転車を所有しているのか、どんな植物を育てているのか、それらはどう管理されているのか。「そこに住む人を現している」からこそ、毎日の生活が続く中で雑然としてきてしまわないか、経年変化で空間は魅力的になっていくのか。機能性や素材の選択などデザインの必要性はとても大きいと考えています。

エクステリアの竣工時は完成ではなく「ベースができた」程度です。インテリアと違って、屋外のエクステリアは風雨や陽射しによって大きく経年変化します。色が変化し味わいが出てくる構築物に、成長する植物が絡んでいき次第に周囲の風景に溶け込んでいく。そんな数年後をイメージし、住まい手と共に成長していけるエクステリアデザインが理想ではないでしょうか。

十分な予算をかけられない分譲地の開発事業でも、数年かけて魅力的な街に成長できるようエクステリアをデザインすることはできると思います。歳を重ねるごとに大きく成長する植物の力は大いに利用できます。例えば、同じ樹木でも背丈の低いものと高いものでは価格が大きく違います。施工段階で必要な重機も変わるので施工費も違ってきます。高さ2Mほどの樹木なら、まだまだ苗木のようなもので根鉢も小さく狭いスペースに植え込むことが可能です。大きな木を植えるスペースの無い狭小地でも、これくらいの木を植えるスペースは確保できるのでは無いでしょうか。「そこは駐車場なのか庭なのか、どちらも諦めず豊かな空間に」で紹介した狭い隙間の緑化を取り入れるのも効果的です。

エクステリアは住まう人と街をつなぎ、住まう人同士をつなぐきっかけを作る役割を持っている。

道路沿いで育てる植物は、とても良い潤滑剤になってくれます。美しく咲く花や瑞々しい新緑が嫌いな人はいません。植物は見知らぬ人同士に会話を与えてくれます。

先日も家の前で手入れをしていると、散歩で歩いていた人に話しかけられました。「かわいい花ですね。なんて名前ですか?」そんな風に会話が始まり、ひとしきり植物の話をして、ひと枝をプレゼントすると嬉しそうに「家で挿し木してみるわ」と言いながら去って行きました。そんな、ちょっとしたコミュニケーション。人が豊かに心地よく暮らすには大切なことだと感じています。深く関わるよりも毎日の挨拶程度のつながりがストレスの生まれにくい風通しの良い関係性なのかもしれません。

全米で住みたい街No1と言われ、移住者が絶えない町には豊かに暮らす知恵がある。

ひとつ、ポートランドで出会った住宅地を紹介させてください。SOUTHEAST AREAにある1905年から1930年にかけて開発された地区。ポートランドで最も古い開発住宅地です。

樹木のサイズからも古い街だとわかります。そこはまるで、森の中を歩いているような感覚でした。視覚的にだけではなく空気が森の中のようなのです。住宅街でも緑が豊富だと、こんなに気持ちがいいのだと感じました。日射しも遮られて涼しい。ポートランドの住宅街では歩道が整備されていることが多いのですが、その歩道にある緑化スペースがユニークです。公共の場のはずですが管理は前に住む住民がしています。自宅の庭と一体感のある植栽を植えていたり、ハーブを植えていたり菜園にしていたり。均一系はなく様々なのです。

左が敷地で右側は歩道緑地。植物の色合いで一体感が生まれています。

同じく右側が歩道緑地。高齢の男性が植え込み作業を終えたところでした。

左側が歩道緑地。木枠で囲われた菜園が見えます。

公園や街路樹など公共スペースの管理は行政がするもの。今の日本では、それが一般的です。今後は税収も下がり財政がもっと厳しくなると予想されます。そうなると公共スペースを市民が管理する形が広がるのでは無いでしょうか。行政に任せず地域住民が手入れするなら、地域住民たちの好きなように作っていけるようになるはずです。ポートランドのように公共の緑地沿いの住民が管理したり、住民同士が相談してルールを作っても良いと思います。そこで生まれるコミュニケーション、それこそが公園や公共の空間が作り出せる効果です。どんなにおしゃれなデザイン空間でも人のいない場に意味はありません。地域住民が育てたい樹を選び植えると、そこに愛着が生まれます。その場を美しく保ちたいと感じるようにもなります。今よりも自分たちが共有している場であることを自覚できるようになるのではないでしょうか。

ポートランドは住民がまちづくりに積極的に参加していることでも有名な町です(市民による都市再生活動City Repair)。住宅地の交差点の一角にFree Libraryという読み終えた本をシェアするBOXが作られていたり、交差点の道路に住民たちで絵を描くイベントをしたり、住民同士がコミュニケーションを取ろうと自分たちで活動しています。

ペイントされた道路とFree Library前で本を選ぶ人

これは豊かに幸せに安全に暮らすために生まれた知恵だと思うのです。全米で住みたい街No.1と言われ、移住者が後をたたない理由のひとつです。

豊かに幸せに安全に暮らせるコミュニティーが生まれる街並みづくりを考えると、エクステリアの役割はもっともっと広がっていくはずだと感じています。ひとつの家のエクステリアでも街の一角を担い街の雰囲気をつくる。ひいては豊かに安全に暮らせる街になっていくのだという意識を持ちながらエクステリアデザインと向き合っていきたいです。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。

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