【前編】清水建設の設計・施工案件に関わり、ランドスケープからインテリアまで一体でデザインした設計事例紹介。
1.公共的な「パブリックガーデン」とプライベートな「フォレストガーデン」の庭空間を演出。設計事例:「グランドメゾン浄水ガーデンシティ」
2.「ガーデン・ホスピタル」をコンセプトにしたランドスケープとインテリアの設計。設計事例:兵庫県川西市の「川西市総合医療センター」
Q. フィールドフォー・デザインオフィスの特徴と大切にされていることから、教えてください。
フィールドフォー・デザインオフィスの最大の特徴は、ランドスケープからインテリアまで一緒にデザインしていることで、広い視点から手に触れるところに至るまで考えられることが強みです。清水建設の100%子会社で、清水建設の設計・施工案件に関わるほか、フィールドフォー・デザインオフィスが単独で設計するプロジェクトもあります。
ホテルや病院、オフィス、R&D施設など、さまざまな用途を手がけ、扱う分野は幅広くなっていますが、共通することは「すべてはエンドユーザーのため」ということです。生活の中で人がどう利用して役立ててもらえるか、どのように新たな価値観をつくり人の幸せにつなげられるかを考えています。
Q. 最近手掛けられた主なプロジェクトの背景と設計の内容を教えてください。
「グランドメゾン浄水ガーデンシティ」は、福岡市有数の高級住宅地に位置する3ヘクタールの敷地に建つ集合住宅を中心とした施設です。清水建設が10数年にわたって関わっている大規模な開発プロジェクトで、2023年夏に完了しました。
集合住宅は、住棟5棟・駐車場棟・施設棟の8棟で構成されます。配棟をどうすべきかを検討するにあたり、土地の背景とポテンシャルを読み解きながら「浄水の森」というコンセプトを立てました。
もともとこの敷地には、周辺住民のほか近隣の小学校と高校生の学生が通り抜けることのできる通路がありました。こうしたフットパスを引き継いで遊歩道をつくりながら、既存のケヤキの樹木を残し、どのようにランドスケープをつくれるかを検討しました。大きな特徴は住棟を細長い形状として周辺道路に対して斜めに振り、敷地に緑を多く入れていることです。建物のエレベーションは、緑があることでより魅力的に見えてきます。また、敷地の一部を人工地盤として下には駐輪場や駐車場を設け、上には土を盛って植栽を施しながらライブラリーラウンジもつくっています。
居住者にとってリゾートのような別世界と感じてもらうために、自然は重要な要素でした。周辺住民も利用できる「パブリックガーデン」をつくるほか、住民だけが利用できるプライベートな中庭「フォレストガーデン」を用意しています。
居住者用のラウンジや、ゲストを呼んでパーティーや宿泊もできるゲストハウスは、この中庭の緑を眺められるように配し、互いの存在が感じられないように緑を豊かに配しました。また、外のスペースと内側をどうつなげるかを考え、インテリアをランドスケープ化する、反対にランドスケープをインテリア化するアプローチを試みました。
床の一部を掘り下げて天井高を上げたり、ステンレスの波打ちパネルを天井仕上げとして外の景色を取り入れたり、室内と室外の素材を共通して用いたりするなど、建築の設計者と話し合いながら設計した個所もあります。内と外のどちらとも取れないスペースを多くつくり、内と外をつなげて融合することは、配棟からランドスケープ、インテリアまで一体で考えることで実現したものといえます。
なお、このプロジェクトは「グッドデザイン賞」や「緑の都市賞」などを受賞しました。積水ハウス様と長年にわたって協働することで、樹木を植え、緑を豊かにする価値観を共有しながら進めることができています。
Q. 次に、大規模な病院のプロジェクトについて教えていただけるでしょうか。
兵庫県川西市の「川西市総合医療センター」は、2つの病院を1つに統合する要項のコンペ形式で、清水建設が選定されたプロジェクトでした。ランドスケープとインテリアについて、弊社が担当しています。
周囲には里山が残り、炭の生産地として有名なエリアです。敷地に隣接して公園があり、駐車場は近所のショッピングモールの駐車場を利用できるという条件であったため、公園を病院の庭のように扱う方向を検討しました。建築の設計者と話し合い、公園や周囲の里山とのつながりを重視して「ガーデン・ホスピタル」を全体のコンセプトとしてデザインしています。
建物では里山が見える位置にデイルームや休憩所を設けたほか、公園に面した東側のメインエントランスでは公園の樹木と植栽を揃えて緑をつなげ、病院と公園、さらに里山を一体化させる計画としました。さらに公園とつなげるため、さまざまな方角に出入り口を設けています。病院からは外へ自然に足が向かい、外部からは公園の延長として気軽に入れるようなエントランス空間としています。
そして、公園に向かって建物のボリュームを下げていきながら外部テラスをつくり、人が外に出られるように計画しました。テラスには周囲の里山で自生する豊かな緑を配置することで、地域の自然を感じられる空間としています。ヨーロッパの病院での調査では、緑があることで病気の治癒の速度が異なるという結果が出ています。外に出ていかに気持ちよく感じるかパースをつくりながら検証しましたし、カラースキームやサイン計画でも、周囲の自然から抽出した色や植物のモチーフを用いて計画しました。
エントランスの舗装などでは、「菊炭」や葉の模様を用いたパターンをPC平板に施すなど、さまざまなアイデアを出し合いました。残念ながら実際にはコストの壁の前に、特注材のほとんどは実際に採用することが叶わなかったのですが…。
フィールドフォー・デザインオフィス
原田靖之 ディレクター/企画管理室 室長 取締役
1990年千葉大学大学院工業意匠科修了。清水建設株式会社設計本部勤務を経て、2000年よりフィールドフォー・デザインオフィス。
著者プロフィール
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