【後編】物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン。 「TOWN STATION」や「TOWN AVENUE」、「TOWN PARK」などで繋ぐことで、地域に根差した設計事例紹介。

設計事例:東海エリア最大の物流施設「ロジポート名古屋」

 

Q. ほかにもランドスケープが地域に開く施設の計画で、重要な役割を果たした事例があるようですね。

「ロジポート名古屋」は「まちなか」に計画された、東海エリア最大の物流施設です。こうした施設はこれまで、ランドスケープにコストをかけることはほとんどありませんでした。でも地域の人たちに「できてよかった」と言われるために、ランドスケープが一つの鍵となりました。

物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
ランドスケープコンセプト提案

というのも、物流施設ができるとトラックの交通が近辺で増えるなどネガティブなイメージがあるなかで、地域に敷地の一部を開放して歩道を広げ、散歩やランニングができるなど、魅力的なアメニティがあれば良い口コミが広がっていくからです。また、施設内で働く人材の募集にもつながります。

この敷地はもともと零戦や工業部品などを製造していた工場があり、物資を運ぶ鉄道が通っていました。敷地の南西角にはかつて線路とプラットホームがあり、現在では地域の歩行者にとって「まち」の入口にあたります。機能性と土地の記憶と掛け合わせた「TOWN STATION」として、プラットホームのようなベンチや人を導く線路のような緑道などをデザインし、人の滞在や活動を促す計画としました。

物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
かつての線路の記憶をデザインモチーフに
物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
プラットホームをモチーフにした住民のためのベンチ

住宅地に面する敷地西側は、地域住民の安全な交通と休息のエリア「TOWN AVENUE」(まちの大通り)としました。フェンスを敷地の内側にセットバックして開放し、歩道状の空地と緑地で快適な歩行空間をつくっています。バス停付近にはベンチを設置したほか、角にはシンボルツリーとしてクスノキを配置し、シンボルツリーを取り囲むように東屋とベンチを設え、人が集える広場としています。舗装材には天然骨材が表出する脱色アスファルトを用い、ベンチには自然石を充填した蛇篭を用いるなど、自然素材を多く取り入れて都市の中に自然を感じる空間としました。

物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
歩道を拡張し、バス待ちのベンチを設置
物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
シンボルツリーを囲んで住民、従業員が集える車窓とベンチ

敷地の南東側には、地域を象徴するモニュメントパーク「TOWN PARK」を計画しました。ここでは子供たちが自由に遊べる「地域の公園」のような広場としています。近隣にある古墳群の円墳をモチーフとしたマウンドをつくり、マウンド周囲にはオーナーが開発してきた物流施設シリーズの竣工年・延床面積をグラフ状に表現した園路を配置しています。

物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
子供たちが自由に遊べる地域の広場

敷地の境界にフェンスを立てて囲うのではなく、広場をつくりながらオープンにすることは、クライアント企業側の理解が必要です。そこで、ここには企業の歴史が線路とプラットホームを 模した設えやグラフィック、サインなどを通じて分かるようにすること、またこの土地のポシャルを直感的に理解してもらえることを重視し、社内での説明材料となるようにとも考えました。

物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン
この土地の歴史をサインで表現

Q. エクステリアの製品については、どのように使用されていますか?

エクステリアの既製品では、フェンスや門扉を使うことがあります。その際には「何を見せたいか」「何を感じて体験してもらいたいか」をもとに製品を選択していきます。

機能的に必要なものは現れてきますが、メインで実現したいことや見てもらいたいところ以外の存在感は消していくことを考えます。例えば、扉を透明にしたいときにはシンプルにガラスのみとしたいところですが、実際には枠が何重にも出てきますから、こうした要素はなるべく目立たないようにしていきます。私たちは製品については、主役を引き立てる、名脇役のような存在を求めているといえます。

また既製品は、それぞれデザイン的に主張が強いものを並べていくと空間がうるさくなってしまいます。空間の中でメリハリや侘び寂びをどのように効かせるのかが、特にインテリアデザインでは求められているように感じています。「上質な静けさ」をつくることが、今後はますます大事になるでしょう。

ランドスケープデザインでも、同じことがいえると思います。生活空間で木があればいいというものではありませんし、施設のランドスケープでは荒々しい自然が求められているわけでもありません。例えばグランピングのように、もっと手軽に享受できるものが求められているように思います。とはいえ緑は芽吹いて育ってきますし、手入れには手間がかかります。ランドスケープでもスペックや機能性を追求する時代は終わり、クリエイターの感覚を持ってデザインすることが大切だと思います。

── エクステリア製品に期待されることはありますか?

原田:

価値観が変わるようなものが必要ではないかと思います。例えば、腕時計は置き時計や懐中時計から置き換わっていくなかで利便性とともに緻密さが進んで高級なものとなり、所有者のステータスを表すものとなりました。こだわりを持って突き詰めてつくっていくと、違う価値が出てくる可能性はあります。

特注での一品生産でも、業者と現場で一緒に考えることで、経験や知識が組み合わさり、自分が思っていた以上の良いものができることは多くあります。メーカーの製品開発では、企業によっては縦割りで意見が通りにくくなりがちですが、部門間同士の交流や社外でのコラボレーションを通じて良いものができるはずです。フィールドフォー・デザインオフィスは清水建設の関連会社とはいえ、ランドスケープやインテリアでさまざまなプロジェクトに携わるため、立場が異なる観点からの意見を積極的に出すようにしています。

フィールドフォー・デザインオフィスの社員は、一人ひとりが専門家であると同時に、俯瞰して見ることが大事だと考えています。スタッフには専門性だけでなく、ランドスケープやインテリアを通じて社会との関わりを見出す人であってほしいと思います。情報が溢れる世の中では、何をしたいかということがステレオタイプになりがちです。デザイナーとしては、常日頃アンテナを張って観察力を培い、目を引くものがあればなぜ惹かれるのかを振り返りながらデザインを突き詰めていく訓練が必要です。そうして自分の感性に自信を持ち「絶対にこれがよい」というひらめきを大切にし、エンドユーザーの心を打つデザインを生み出していけたらと思います。

 

 

フィールドフォー・デザインオフィス

原田靖之 ディレクター/企画管理室 室長 取締役

1990年千葉大学大学院工業意匠科修了。清水建設株式会社設計本部勤務を経て、2000年よりフィールドフォー・デザインオフィス。