【前編】医療と共に介護のニーズに応えて慢性期以降の患者にサービスを提供。修景して鑑賞する対象となるだけでなく、リハビリの一環として、病院を利用する患者と面会者、職員が一体で機能する「庭のある病院」を組み込んだ。
設計事例:富山市のリハビリ・病院施設「野村病院」
── LAU公共施設研究所の特徴を教えてください。
(塚田さま)
LAU公共施設研究所は、複数の建築事務所が集まった一つのグループとして1978年に始まりました。「LAU」はランドスケープ・建築・都市計画の英語の頭文字をとったもので、建築設計を行う建築部門とともに、造園部門と都市計画・まちづくり部門をもっていることが特徴です。
(稲垣さま)
プロジェクトのなかで、ランドスケープは決して副次的なものではありません。私たちは初期の段階からランドスケープを建築と一緒に考えることで、充実した空間をつくりたいと考えています。また、どのようなプロジェクトでもランドスケープと建築を一体で考え、ランドスケープだけの仕事であっても建築の視点を持つことを心がけています。会社の成り立ちとして、3部門が独立して存在しながら、お互いに相談しながらプロジェクトを一貫して最後まで進めるようにしています。
── ランドスケープの具体的な事例を教えていただけますか。
(稲垣さま)
「野村病院」は、富山市の海に近い立地で新築された約300床の病院です。病院側は最初から建築の外部空間について積極的な見方を持たれていて、「庭のある病院」が要望されました。この病院では、医療と共に介護のニーズに応え、慢性期以降の患者にサービスを提供しています。「庭」は、修景して鑑賞する対象となるだけでなく、病院を利用する患者がリハビリするためのメニューも組み込んだかたちとすることが求められたのです。
そこでリハビリの歩く工程で利用できるように、周遊できる1周100mほどの園路を通す庭を計画しました。1周が長すぎる方のために、途中にも園路を通して半周のルートも設定しています。庭には、地下水を利用した小川と池を設けることにしました。水の流れがあり、ランダムに配された木が季節ごとに花を咲かせる庭があることで、患者の五感が刺激されて感情が動くきっかけになればと思って計画しました。
庭の一部には、周りの地面よりも床を高くする花壇「レイズドベッド」を制作しました。これは、車椅子の利用者などさまざまな人が、花植えなどの園芸作業が容易にできるようにするためです。このエリアは地方の街なので、入院する人は農家の人や庭仕事をする人が多いのですね。普段は職員にみてもらう患者さんが、園芸作業では職員へ教える立場になって活き活きとし、コミュニケーションが生まれていると聞きました。
(稲垣さま)
庭は、建物内のリハビリルームに面して設けています。建物に沿って設けた足湯コーナーに腰掛けると、庭の景色が眼の前に広がります。庭はリハビリの一環として室内からアプローチしやすいようにと考えられており、家族の人が面会に来たときには患者と一緒に庭に出て散策できるようになっております。憩いの場ともなるように、休憩できるベンチなどもバリエーションをつけて設けています。
── リハビリや病院施設ということで、通常の設計とは異なる点がありましたか?
(塚田さま)
園路の床は滑りにくく、もし転ぶことがあったとしても支障がないようにゴムチップを採用しています。テラスのデッキ材にもなるべく柔らかい木材を用い、周囲にはゴムチップブロックなどを敷き詰めています。また、リハビリの患者は足を引き摺りながら歩く方もいます。通常のブロック舗装材では少しの目違いで足の引っかかる段差が生じてしまうことがあるので、練り物の舗装材とした個所も多くあります。また、車椅子での利用もあるので、園路の幅は広めにとっています。
手摺りの高さは、通常の85cmよりも低く設定しています。JISなどでの基準は健常者向けですが、この病院の庭ではお年寄りがメインで使うことを踏まえたためです。ほかの施設では、ベンチの高さは通常よりも上げて600mmとしたところもあります。通常の400mmだと座ってから立ち上がることが難しい方でも、ちょっと腰掛ける程度の高さに設定するとラクになります。休み休み歩くことも多いので、座り込むことは必要ないのですね。いかにもベンチというものでなくても、天板を大きめにした縁台のようにしておけば、少し腰掛けられます。施設や場所ごとに、必要とされることを見極めて設計することが大切です。
(稲垣さま)
この病院のように、民間でランドスケープへの意識が高い施設はメンテナンスへの理解もありますが、公共の施設では維持管理を含めたランニングコストをなるべく抑えるように求められます。一方で、民間の介護施設の計画で、公開空地を地域の人も積極的に使えるようにした事例に関わったこともあります。民間でも公共でも、ランドスケープは長い時間にわたって地域の人々が関わる空間として位置づけられますし、地域の活性化につながる大切な役割があると思います。
株式会社LAU公共施設研究所
設計部 設計主任 塚田和男
登録ランドスケープ・アーキテクト(RLA)、一級造園施工管理技士、一級土木施工管理技士
株式会社LAU公共施設研究所
設計部 設計室長 稲垣 聡
RCCM(造園)、一級造園施工管理技士
著者プロフィール
最新の投稿
- ビルガーデンエクステリア2024.11.26【前編】医療と共に介護のニーズに応えて慢性期以降の患者にサービスを提供。修景して鑑賞する対象となるだけでなく、リハビリの一環として、病院を利用する患者と面会者、職員が一体で機能する「庭のある病院」を組み込んだ。
設計事例:富山市のリハビリ・病院施設「野村病院」 - ビルガーデンエクステリア2024.10.29【後編】未来のために、あえて作り込みすぎず余白を残す設計思想「余白のデザイン」を提唱。
【設計事例:角野栄子児童文学館(魔法の文化館)】 - ビルガーデンエクステリア2024.09.25【前編】「芝生のグリーンマウンド」や、安全・安心な歩行者空間など、敷地内外の新たな繋ぎ方をランドスケープから提案
【設計事例:愛知学院大学名城公園キャンパス】 - ビルガーデンエクステリア2024.08.27【後編】物流施設に、ランドスケープというアメニティをデザイン。 「TOWN STATION」や「TOWN AVENUE」、「TOWN PARK」などで繋ぐことで、地域に根差した設計事例紹介。