【後編】北欧のフィンランドの建築「ルイジアナ美術館」からのインスピレーションを得て、建築とランドスケープが融合を目指すという建築設計者との共通の認識のもと、隣接する住民や地域に応えつつ、丘のような園庭と開放的な園内空間を設計した。
設計事設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」

── もう一つ、保育園の事例について教えてください。

(稲垣さま)

「新庄さくら保育園」は、先ほどの「野村病院」と同じ建築設計事務所と協働しました。建設の条件として、道路を隔てて隣接する住民や地域から「敷地境界に壁を立ててほしい」と要望されていました。それに応えて高い壁をただつくると、園内は囲われた閉鎖的な空間になってしまいます。

そこで、境界側の壁はRC造としたうえで、園舎の前から壁に向かって徐々に土を盛り上げていき、丘のような園庭とすることになりました。園舎の外にはデッキを設けて、建築と園庭がシームレスにつながるようにしています。園舎に入ると正面からはガラス窓を通して、シンボルツリーのヤマボウシと、斜面を利用した遊具がセットで見えます。壁の中はトンネルのように通れるようにし、壁の上も通路として、園舎の屋上につながるように計画されています。

設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(道路沿いの壁面)
設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(木デッキに囲われた中庭)
設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(玄関ホールから見た中庭)
設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(道路沿いの壁の中の通路)

(塚田さま)

この園庭は年長さん用で、年少さん用の園庭は別に設けられています。園児は年齢によって行動の速度などが違いますし、この園では小学生の学童保育も行うために、年長と年少の園庭を分ける計画となりました。運動会など園全体での行事がしにくいデメリットはありますが、目が届く範囲で園児を見る安心感があり、園舎が近く一体感のある庭となるメリットを優先することになりました。

設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(計画平面図)

(稲垣さま)

この園の計画では、建築設計者も自分たちも、北欧の建築からインスピレーションを得ています。特にフィンランドにある「ルイジアナ美術館」は建築とランドスケープが融合しているという共通の認識があり、目指すべき姿が一致していました。直接的ではありませんが、遊具も北欧の街並みを意識し、色はビビットでありながらガチャガチャと悪目立ちしないように心がけました。間に木の緑を挟むことで、原色が浮き上がるようにと考えています。

設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(北欧の建物をイメージした中庭の木製遊具)

(稲垣さま)

子どもは年齢によって遊び方が変わりますが、総じて、秘密基地のようなスペースや隅っこが好きなものです。年少さんの園庭にはトンネルになる士官(ヒューム管)を設けたり、年長さんの園庭に面しては長さ5m弱のベンチを設けたり、壁の高いところに上がれるようにしたり、空間に変化をもたせることを意識しました。自分たちの居場所を見つけながら、好きに使ってもらえるようにしています。

設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(年少クラス用の庭)
設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(年少クラスの庭の遊具とトンネル)
設計事例:富山市の「新庄さくら保育園」
(中庭の斜面遊具)

── メーカー製品はどのような場面で使われていますか?

(塚田さま)

アルミ加工品を使うことはあります。ただ、現場で溶接や切断の加工はできず、強度が求められる場面では使用しにくいといえます。軽量であることのメリットは大きいので、可能性をもっと考えたいですね。

また、アルミ建材は規格材があるようでない、という特殊な状況があります。ステンレスやスチールは共通の規格があるのに対して、アルミの規格材はメーカーごとにもつ押し出しの型に応じたものです。公共の案件では、どこのメーカーか明らかに分かる材は選びにくいといえます。

そして、公共の外部ではハードな扱いに耐えられる強度や耐久性が求められます。この点で、アルミ製品ではなくステンレスを用いる場面が多くあります。

(稲垣さま)

既製品は、設置してから何年か経って補修するときに部品を入手できることのメリットが大きいですね。以前にベンチで、製品の座板とオリジナルのアルミ鋳物の脚を組み合わせて制作したことがありました。座板の交換は何年かに一度行うとしても、製品で対応できるので管理上ネックにはならないのです。メーカー製品で、製品同士や他の部材を組み合わせることがもっとできれば使いやすくなると思います。

(塚田さま)

ストリートファニチャーなどの製品は、都会的なシャープなものはビルの外構には合っても、緑が多い広場型の公園などでは雰囲気が合わせづらい場合はありますね。都市部以外のプロジェクトも多いことをふまえると、アルミ製品であってもマットな質感や色合いの製品がもっとあってもよいのではないかと思います。

── 都会とそうでない地域でのプロジェクトで、製品選択の違いはありそうですね。植物で地方色を出すようなことはありますか?

(塚田さま)

動物園や植物園で、各地の植物を持ってくることはあります。日本で流通する植物は多種多様で、指定すればどこからか入手できます。温暖化の影響で、温暖な地域の植物を持ってくることができるようになったこともあると思います。

植栽の世界でも、流行り廃りが多少はありますね。少し前であれば、ツバキやサザンカなどを植えることは一般的でしたが、人を刺すチャドクガが来るので、新しく植えることはなくなりました。一方で、30年ほど前はなかったシマトネリコは今ではシンボルツリーなどで人気の樹木になっていますし、最近ではハリーポッターの影響で、プリベット(セイヨウイボタ)の木がよく植えられたりします。

ただ、いずれにしても地域であまりにも違和感があるものは、使わないように気をつけています。

株式会社LAU公共施設研究所
設計部 設計主任 塚田和男
登録ランドスケープ・アーキテクト(RLA)、一級造園施工管理技士、一級土木施工管理技士

株式会社LAU公共施設研究所
設計部 設計室長 稲垣 聡
RCCM(造園)、一級造園施工管理技士

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事務局
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