【前編】「親水性の高い水辺空間の創出」「結界となる水のシンボルゲート」「回遊性を高める動線計画」など、公園を計画し整備するにあたっての7つの基本方針を設定。美しい水環境と回遊性の高い公園として圧倒的な開放感を創出した。
設計事例:富山県の富岩運河環水公園
■環境建築家として環境デザイン領域をつくり、考える
──環境デザイン研究所は、他の設計事務所とは少し異なるアプローチをとられています。まず、事務所の成り立ちから教えていただけますか。
(仙田さま)
私はもともと建築出身なのですが、造園やまちづくり、遊具の計画など、多様な領域に興味があり、幅広い分野に取り組んできました。多様なデザイン分野を横断する、新しい環境デザイン領域を確立したいと考え、環境デザイン研究所を設立しました。今から50数年前の1968年です。当時、日本造園コンサルタント協会(現・ランドスケープコンサルタンツ協会)の前身の新しい協会という形にかわっていない頃からランドスケープアーキテクトの小林治人さんたちと一緒に活動してきました。そのなかでも環境デザイン研究所は独特で、建築・造園・都市計画・遊具を横断しながら施設全体を一体で考えることをずっと続けてきました。都市や自然、人の行動を総合的に読み解き、環境としてデザインする姿勢が当初からあります。私自身、環境建築家として自称し、1990年から1年半ほど、朝日新聞の日曜版にエッセイを連載した時に肩書として環境建築家をつけさせていただきました。
──佐藤さんは造園のご出身ということですが、環境デザイン研究所のランドスケープ部門について教えていただけますか。
(佐藤さま)
京都大学の農学部に林学科という学科があり、その中に造園研究室がありました。学生の時に住宅の庭園設計や公園の設計の課題に取り組み、大学卒業後に環境デザイン研究所に入社しました。現在、どのような建築プロジェクトでも建物周りの外構はあり、園庭や校庭を含めて基本的には社内で担当します。都市的に規模の大きなプロジェクトになると、他のランドスケープ事務所と協業することもあります。
環境デザイン研究所の根本的な思想は、その土地の持つ文脈、物語を大切にするということです。プロジェクトに取り組むにあたっては敷地を見に訪れることを基本としていますが、そこにある資源をどう活かしていくのか、建築を建てるにしても周りとどのように調和を図るのか、建物のボリュームをどこに持っていくのがいいのか、そうしたことを検討しながら設計しています。
■20年をかけて育てるようにつくった都市公園
── 代表的なランドスケープのプロジェクトについて伺います。まず富山県の「富岩運河環水公園」ですが、設計と実施には長い期間がかけられたということですね。
(仙田さま)
1989年に「富山県カナルパーク指名設計競技」というコンペがありました。審査委員長は故・芦原義信さんで、そのほかランドスケープデザイン、アーバンデザインの都市計画出身の方々が審査員でした。私たちの案が最優秀案として選ばれ、そこから約20年をかけて、土木工事のように少しずつ進めていったのです。建築ではどれほど大規模でも5〜6年で竣工しますから、そうとう長い期間ですよね。1999年に環水公園のシンボルとなる歩道橋「天門橋」が竣工した後、1990年代後半には水辺の循環システムが整い、その後も継続的に整備が進みました。
この一帯はもともと貯木場でしたが、産業の変化によって運河は打ち捨てられたドブ川のようになっていました。我々は導水路で新たに水を引き入れて循環をつくり、美しい水環境と回遊性の高い公園として再生することを提案しました。単なる運河沿いの公園ではなく、全体をぐるりと歩くことができ、さまざまな水景を視線に取り込める。天門橋からは、水面越しに立山連峰がくっきりと見えます。都市の中心に写真を撮りたくなる水景を創出したことが、後の賑わいにつながったと思います。

(佐藤さま)
公園を計画し整備するにあたって、大きくは7つの基本方針を設定しました。
1つ目は、「親水性の高い水辺空間の創出」です。公園は以前の船溜りの広い水面を軸として構成され、護岸改修によって両岸に水辺のボードウォークやプロムナードを設け、背後に勾配が10~20%ほどの緩やかな芝生斜面を整備し、明るく開放的で緑豊かな水辺空間をつくりました。また芝生斜面の随所にはシェルターや高木植栽、ベンチなどを設け、緑陰の休憩スペースを提供しています。


2つ目は、「結界となる水のシンボルゲート」です。公園の入口となる箇所には、直径約35mという大きな水盤と水のカーテンからなる「泉と滝の広場」を設け、富山の湧水による豊かな水資源を象徴するシンボルゲートとして来園者を迎え入れます。水盤と運河では水面を視覚的に連続させることで、開放的な水景を演出しています。


3つ目は、「回遊性を高める動線計画」です。公園の中央付近には両岸を結び、2つの展望塔を持つ長さ58mの「天門橋」を整備し、歩行者や自転車はもちろん、エレベーターを利用して車いすでの横断も可能としました。これにより、水辺のプロムナードに沿って船溜りを一周する回遊動線が形成され、公園全体の利用活性化を図っています。


4つ目は、「水景を眺める様々な視点場」です。富岩運河へのシンボルゲートである天門橋と2つの展望塔からは、公園全体や水面、隣接する都市MIRAIゾーンと背後の立山連峰、神通川などを一望できます。ほかにも「泉と滝の広場」や「見晴らしの丘」、「水辺のカフェ」など様々な視点場を設けました。


5つ目は、「島状の空間の創出」です。船溜りのバイパスとなる幅12.5mの小運河と人工島「あいの島」をつくり、バードサンクチュアリや野鳥観察舎、野外劇場も併せて整備し、親水性がさらに向上しました。「あいの島」には天門橋のほか湊橋・入船橋という2本の橋が架けられ、特別な場所へと渡る体験を演出しています。


6つ目は、「環境保全と景観調和」です。舟溜りには以前から水鳥の飛来が多く見られたことから、先ほど挙げたように鳥たちの生息空間を確保しました。また舟溜り周辺のサクラ並木を保存または移植し、住民の憩いの場所としています。さらに「天門橋」や「泉と滝の広場」をはじめ、隣接する都市MIRAIゾーンの「自遊館」や「市立体育館」などの建築物の外壁はレンガタイルで統一することで、調和の取れた都市景観を創出しました。


7つ目は、「新たなにぎわいの創出」です。環水公園は1997年の部分開園以来、美しい水辺景観により周辺住民の憩いの場となっていましたが、当初はにぎわいはもうひとつで、県民に広く存在を知られる公園ではありませんでした。そこで公園利用を活性化させるために飲食・休憩やイベント・子どもの遊び場機能などの充実を図りました。


■水を起点とした親しみやすい計画
── 全体として、水を起点に考えられたのですね。
(仙田さま)
最初にこの公園に入った時の圧倒的な開放感は、他の公園ではあまり味わえません。水面もこれだけ広いですからね。我々の案がコンペで採用された大きな理由は、将来的に遊覧船が来た時のために小運河を提案したことと、「天門橋」を計画したことだと思います。この小運河には、本当はもう少し商業的な賑わいがあってもいいのではないかと提案したのですが、様々な事情で今のような形になりました。その代わり、「見晴らしの丘」のところに県立美術館が移ってきたので、賑わいの創出は継続されたのではないかと思います。
橋には2つの展望塔の間に赤い糸を張って、「縁が赤い糸で結ばれる」というストーリーを作りました。最初に我々のほうでマスタープランを作って基本設計まで環境デザイン研究所で行い、野外劇場や野鳥観察舎の実施設計は地元の方にお願いしました。
── 水を近くに感じられる工夫はありますか?
(仙田さま)
手すりは、水面を大事にして親水性をもたせたいということで、フラットバーの縦桟にワイヤーネットを張りました。開放的なデザインの手すりで、水辺への見通しを確保しています。高さは900mmほどで少し低めです。今、同じ仕様とするのは、なかなか難しいかもしれませんね。その代わり、水際から手すりの位置は少し遠ざけています。


── グリーンについては、どのように計画されましたか?
(仙田さま)
低木はあまり使わずに、芝生と高木を基本としました。沿いには桜の木がもともとありましたが、島の中にも移植や新植をして、桜の名所となることを狙いました。3月や4月から人を公園に呼び込み、夏に向けて使っていただくという意図があります。
また園路は、人が歩きやすい形状にすることにこだわっています。曲がり道は、半径が5〜6mほどなければ歩きにくいという研究があります。直線やジグザグした園路よりも、緩やかなカーブのほうが意識せずに歩けますし、進むごとに視線が変わって写真を撮りたくなるような景色になります。景観的にも馴染みやすいのですね。ほかのプロジェクトでも、だいたい歩道は緩やかなカーブとしています。

── 舗装には、どのようなものを使われたでしょうか。
(仙田さま)
運河沿いは、天然木のウッドデッキとしています。この頃はジャラという硬い材を用いていました。経年で木肌が少し荒れてくることもあって定期的に張替えが行われていますが、基本的には今でも天然木が使われています。
(佐藤さま)
デッキの部分の横には、樹脂系の舗装があります。最初は樹脂固化舗装という、厚さ1cmほどの豆砂利を樹脂で固めた舗装としたのですが、経年劣化ではがれてしまうので、コンクリート系の舗装材に変えました。富山の企業が開発したリサイクル製品で、瓦の廃材を混ぜ込んで固める舗装材です。
園路や広場の階段には御影石を用い、天門橋前の広場にはカラフルな斑岩を採用しました。全体的にはアースカラーをベースとして、自然石の色がストライプ状に入っています。
(仙田さま)
色合いは、できるだけ自然に見えるようにと考えました。「天門橋」の壁仕上げもレンガ調としています。隣接する県の建物なども、環水公園の色調に合わせてくれたので、調和した風景になっています。

(佐藤さま)
スターバックスについても富山県からは意見を聞かれ、「外壁はこういう素材をできれば使ってほしい」という話をしましたね。
■都市公園が観光地になる稀有な事例
── 長い年月の間に、全体計画の変更などは1回もなかったのでしょうか?
(仙田さま)
細かいところで変わったところはありますが、根本的なところはだいたい踏襲できていますね。野外劇場やバードサンクチュアリのあたりは、最初の提案からありました。県には埴生雅章さんという東大農学部出身の造園技術者がいて、彼にずっとこのプロジェクトを一緒に伴走していただいて何かあると相談してくれたことが大きかったです。彼はコンペを企画した中心人物でしたし、彼自身がランドスケープマインドを持っていてすぐれた造園家でした。彼と時間をかけて、一つ一つを丁寧に議論しながら作ることができたのです。長期的なプロジェクトでは、発注者の担当者も変わらずにいてもらわないと、なかなかうまくいきません。
──環水公園の竣工後の変化は、どのようなものだったのでしょうか。
(仙田さま)
都市公園が観光地になるという、稀有な事例だと思います。もともとは富山駅北側の都市開発の中で、この環水公園が位置づけられていました。我々は公園の中にレストランなどの施設を設けることを提案していましたが、それまで公園には商業施設はほとんど排除されていたのですね。しかし、時代が私達の考えに追いついてきて、公園にもイベントなどを積極的に誘致するようになりました。そして当初からカフェとして想定していた場所にスターバックスコーヒーが入ったことが転機となりました。それまでの公園の来園者数は年間約70万人だったのですが、「世界で最も美しいスターバックス」というキーワードで注目を集め、140万人に跳ね上がりました。さらに新幹線が富山駅に延伸してからは、約240万人となっています。新しい富山の名所となったのです。


また、ここから富山港に至る運河についても、途中までの景観整備もお手伝いしました。そのエリアにはオフィスビルなどが開発され、富山を代表する企業が移転してくるなどの影響がもたらされています。


仙田 満(せんだ・みつる)
環境建築家・環境デザイン研究所会長
1941年横浜生まれ。1964年東京工業大学卒業。工学博士。菊竹清訓建築設計事務所を経て、1968年環境デザイン研究所を設立。琉球大学・名古屋工業大学・東京工業大学・放送大学教授、日本建築学会会長、日本建築家協会会長、日本学術会議会員(第20・21期)・連携会員(第22・23期)、こども環境学会会長を歴任。現在、東京工業大学名誉教授、こども環境学会代表理事。
代表作品に「富山県こどもみらい館」「愛知県児童総合センター」「茨城県自然博物館」「国際教養大学中嶋記念図書館」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」「軽井沢風越学園」「小田原三の丸ホール」「石川県立図書館」「広島サッカースタジアム(エディオンピースウィング広島)」「長崎スタジアムシティ」などがある。

佐藤文昭(さとう・ぶんしょう)
環境デザイン研究所 環境設計部 マネージャー
1969年東京生まれ。1995年京都大学大学院農学研究科卒業後、環境デザイン研究所入社。主な担当プロジェクトに「富岩運河環水公園」「秋田市太平山自然学習センター」「高尾の森わくわくビレッジ」など。全体の敷地計画やランドスケープ・遊具の仕事を多く手がけ、既存の自然資源と調和した一体的な施設・景観創出を目指す。技術士(建設部門、総合技術監理部門)
著者プロフィール

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