【後編】一般的なゲートで囲われた住宅開発とは異なり、オープンな交流ができる「居場所」を目指して、「ウェルネス」「アート」「ロマンス」「コミュニティ」「ネイチャー」という5つのテーマを設計、あえてそれぞれに異なる機能を持たせることで、敷地全体に多様な目的地となる場を生み出した。
住宅、オフィス、美術館、商業施設、ホテルなどが含まれる大規模な複合開発。
設計事例:中国杭州市「Light of Future」プロジェクト

■中国で開かれたコミュニティの創出を行う

── 中国でのプロジェクトについて教えてください。

「Light of Future」プロジェクトは、中国杭州市北部の良渚(リャンチェン)エリアに位置する大規模な複合開発で、オープンスペースのマスタープランを担当しました。デベロッパーの万科さんとは長年の協力関係にあります。住宅、オフィス、美術館、商業施設、ホテルなどが含まれる複合開発で、ハイテク研究施設や工場が近く、主なターゲットは若い世代です。

このプロジェクトで特に重視したのは、中国でも一般的なゲートで囲われた住宅開発とは異なり、周辺に対してオープンな計画を採用したことです。スマートフォンを常に見ながら生活するなど内向きになりがちな若い世代が、外で交流できる「居場所」を作ることを目指しました。

そのために、中央の大きなセントラルプラザのほかに、それぞれ異なるテーマを持つ5つのコートヤードを設計しました。「ウェルネス」「アート」「ロマンス」「コミュニティ」「ネイチャー」という5つのテーマです。通常、各住棟に付随するコートヤードはその住民だけが利用することを想定するので画一的になりがちですが、ここではあえてそれぞれに異なる機能を持たせることで、敷地全体に多様な目的地となる場を生み出しました。

街区の中心に位置するセントラルプラザには、コミュニティーのアイデンティティーとなる多様なアクティビティーを内包する芝生広場がステージ上にデザインされている。

例えば、友人とバーベキューをするためにコミュニティコートヤードへ行ったり、運動をするためにウェルネスコートヤードへ行ったりと、住民が自分の住むエリアだけでなく、敷地全体を行き来するライフスタイルを提案したのです。気分や目的に応じて選べる5つのコートヤードにより、住民が敷地内を回遊し、多様な時間の過ごし方ができるようになっています。

ウェルネスコートでは、エクササイズ器具や卓球台などが配置され、コミュニティーのウェルビーイングを促進する場となっている。

■光をテーマにした空間演出と環境改善への取り組み

── プロジェクト名にもある「光」は、どのようにデザインに反映されているのでしょうか。

「未来の光(ライト・オブ・フューチャー)」というプロジェクト名から、「光」を重要なテーマとしてデザインを展開しました。光と影、そして光によって知覚される「色」を効果的に用いています。夜間の照明だけでなく、日中の自然光も活用し、空間を演出する仕組みをデザインしました。

具体的には、縦長のポール型のカスタム照明器具をデザインし、その内部にはエリアごとに異なる色のガラス板を設置しました。それで、歩く場所によって光の色が変化します。川沿いはクールトーン、広場は明るいトーン、北側は緑のトーンといった具合です。これにより、照明は単なる明かりでなく、場所を示す「道しるべ」の機能も果たしています。

キャナルを渡るゲートウェイとして配置されたブリッジ上には、クロマティックフィルムをガラスで挟んだパネルを持ちいった照明器具をカスタムでデザインした。このゲートウェイポールは日中も光を受けて多様な光を放つ。
セントラルプラザでは、色の異なるガラスパネルが配されたマーカーポールが広場に彩りを生み出し、またウェイファインディングとしても機能する。

また、地下鉄駅へのアプローチとなる新設した橋やオフィスタワーの中庭には、光の当たり方で色が変わる「クロマティックフィルム」をガラスに挟んで使用しました。日中は太陽光がこのフィルムに当たることで、地面に様々な色が映り込みます。特に橋の上では、歩く方向や光の角度によって見える色が変わるため、まるで水面の上を歩いているような感覚を生み出します。

オフィスタワーの中心に配されたコートヤードでは、吹き抜けとなった上空から差し込むわずかな光を取り込むためにあえて暗い舗装を施すことで光のコートヤードを演出している。

コミュニティガーデンに設置したキャノピー(天蓋)は、光の入る角度を計算してデザインしています。下にいる人には影を落としますが、キャノピー自体は光を受けて軽く感じられるように角度が調整されており、空間が暗く感じないように工夫しています。

コミュニティーコートに配された長いテーブルはコミュニティーが集う場を提供する。傾斜するフィンで構成されたキャノピーは心地よい日陰を提供するとともに、その自体も光を受けることで軽やかに見える。

── このプロジェクトが与えた影響についてはいかがでしょうか。

プロジェクトの敷地は川に面し、この地域では新石器時代の古城遺跡が発掘されて古い歴史を持っており、当時から水は文明の発展に欠かせない要素でした。しかし川の水質が良くないため、当初デベロッパーは川に背を向けた計画を望んでいました。しかし、私たちは大規模プロジェクトとして周辺環境の改善に貢献すべきだと強く提案し、川に積極的に向き合う開発を実現させました。水質を浄化する水生植物の導入なども行いました。

完成後には行政が視察に来たのですが、民間開発の質の高さに触発され、対岸の整備を行政が実施することになったのです。プロジェクトで、周辺地域全体に良い影響を与えることができました。ランドスケープは敷地の境界線を越えて、周辺環境の向上に貢献すべきだと考えています。これも、先にお話ししたランドスケープアーバニズムの考え方の実践例といえるでしょう。

■制約を活かすデザイン

── 香港近郊の深センで手がけられた「Polka Dots」についても教えてください。

これは深センにある複合施設の屋上庭園プロジェクトで、商業施設の屋上に住宅用のプライベートガーデンをデザインしたものです。もともと、この屋上には、商業施設のスカイライト(トップライト)が多数立ち現れていました。私たちはこれをデザインの要素として活用することにしました。

スカイライトが表出している違和感をなくすため、周りには円形のガーデンを配置し、「Polka Dots」という名前の通り、俯瞰で見ると水玉模様のようなパターンを作り出しました。円形ガーデンには土を盛ってランドフォーム(小山)を作り、立体的な空間を創出することで、視線が抜けすぎないように工夫しました。

円を多用するシンプルなレイアウトで複数のスカイライトを囲い込み一つの風景としているが、その円の歩道が重なり交じり合うことで複雑な散歩道を作っている。

そして住民が屋上でウォーキングできるように、ゴムチップ舗装の散歩道も設置しました。外周はオーバルの周回コースとして分かりやすい構成にしつつ、円形ガーデンを縫う曲線的なパスを作ることで、多様な散歩体験ができるようになっています。円形ガーデンの縁は、木製の座面でベンチとして設えた箇所もあります。

スカイライトを囲む円形はランドフォームとして立体的にデザインされ、植栽配置により、スパイラルのような動きのある風景を作り出している。
ランドフォームの一部はシートウォールとなり、休憩場所を提供している。

■ものづくりへの新しいアプローチ

── 海外での豊富な経験から、日本のエクステリア製品についてどのようにお考えでしょうか。

私が携わってきた中国、アメリカ、日本における屋外の什器や設備の作り方には違いがあります。中国のプロジェクトでは、ほぼ全てのファニチャーはカスタムメイドとしてきました。製品を輸入するのではなく、地形の一部としてベンチをデザインするなど、プロジェクトの一部として制作してきたことが特徴です。

アメリカは既製品のファニチャーも充実していますが、カスタムで製作することもあり、ほぼ、半々の割合でした。一方、日本では日本発の屋外家具のバリエーションが少ないのが現状です。屋外で過ごす時間が増えているにもかかわらず、座り心地の良い家具や、心地よい光を作る照明器具が不足していると感じています。

中国での現場経験から学んだことがあります。時間と職人の不足により、複雑なデザインが正確に施工されない問題に直面した際、私たちはパズルのようなユニット状の屋外舗装材を開発しました。これは隣り合う材同士が決まったルールでしかはまらないようになっているため、誰が並べても意図した通りのパターンが完成します。職人のスキルに依存せず、やり直しの無駄をなくすことができました。

── 製品開発やメーカーとの協働について、どのような期待をお持ちでしょうか。

地球レベルの環境問題に対して、デザイナーとメーカーが協業して取り組むことが重要だと考えています。プロダクトもプロジェクト単位で貢献できるためで、例えばクールスポットを生み出す舗装材や、ゲリラ豪雨に対応する製品などが考えられます。

都市の緑化においても、外壁材に基材を貼り付ける手法に代わる新しい工法が必要ではないでしょうか。例えば、壁材自体に緑化の基材が組み込まれているような製品です。建築と外構、デザイナーと作り手といった業界の縦割りが、新しいものづくりを阻害していると感じています。中国でのカスタムメイドの経験のように、日本でもデザイナーとメーカーが意見交換をしたり、一緒に課題を解決する製品開発をしたりする機会が増えることを期待しています。

■国際的視点から見る日本のランドスケープ

── 今後の展望について聞かせてください。

サンフランシスコと東京の2拠点体制と海外経験が、私たちの強みです。アメリカで学んだランドスケープの視点と、日本の伝統的な造園や外構の視点には違いがあります。今後は、こうした海外の視点を持つランドスケープの価値観や、そこから生まれる付加価値を日本で発信していきたいと考えています。またコロナ禍でソーシャルディスタンスが求められたことなどによって、ランドスケープの新しい価値が再発見されたのではないかと思います。

国際的な視点から生まれるランドスケープデザインの新しい可能性を、日本の都市空間に展開していくことが私たちの使命だと考えています。そして私は都市的な文脈や、人と都市と自然の関係性という視点を重視しています。人々の日常に豊かさをもたらし、都市と自然、個人とコミュニティをつなぐ「間」を創造し続けていきたいと思っています。

office ma 代表取締役
オウミ アキ

16歳で交換留学生として渡米し、その後30年以上にわたり米国に在住。オハイオ州立大学でランドスケープ・アーキテクチャーを学び、ボストンにて3年ほどアトリエ事務所に勤務。その後、ハーバード大学Graduate School of Designにてランドスケープ・アーバニズムというアプローチに出会い、プログラムの2年目に友人と共に独立。ランドスケー

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