【前編】「伝統・自然」と「ビジネス・革新・未来」という明確な二面性を持つ敷地の文脈を深く読み解き、それをデザインに反映。
都心のオープンスペースにおいて、人の流れとアクティビティーを重要視し、場の多様性と魅力を高めるように13のゾーンを構築するサイトフレームワークを設定。舗装、植栽、水景、照明、ファニチャーなどのデザインを通して、空間特性を演出した。
設計事例:東京 大手町「Otemachi One Garden」プロジェクト
■ランドスケープ・アーバニズムという視点
── まず、オウミさまが設立されたoffice maの理念について教えてください。
私たちの事務所名「ma」は、日本語の「間(ま)」から来ています。この「間」という概念は、我々のデザインアプローチの根幹をなすもので、異なる要素間のバランスや関係性を見出し、その場所が持つ物語性を構築することを意味しています。
私がハーバード大学大学院在籍時の1999年から2000年頃に出会った「ランドスケープ・アーバニズム」という考え方が、この理念の基盤となっています。それは、敷地やプロジェクトを取り巻く経済性、環境性、社会性、文化性、歴史、人工的・自然的要素など、あらゆるものを「その場所の力」として捉え、それらの力関係が将来どのように変化していくかを読み解き、場所らしさや未来像を描いていくデザインのアプローチです。
当時、私は一人のデザイナーの作家性によって空間がコントロールされるアプローチに違和感を感じていました。ランドスケープアーバニズムは、個のデザイナーがその場所に形を落とすのではなく、その場所にあるべきものを定義するための視点です。この考え方に深く共感し、現在の設計思想につながっています。
── アメリカでは、どのようなキャリアを積まれてきたのでしょうか。
16歳で交換留学生として渡米し、そのままアメリカで高校、大学、大学院と教育を受けました。オハイオ州立大学を経てアトリエ事務所で経験を積み、その後ハーバード大学大学院GSDへ。在籍中にランドスケープアーバニズムを実務として取り組むために友人とアトリエ事務所を設立しました。その後組織事務所に移籍し経験を積んできました。ランドスケープデザインの専門知識や経験は、すべてアメリカで学んだものです。
独立のきっかけとなったのは、前職時代に携わった「東京ミッドタウン」(2007年竣工)のプロジェクトでした。このプロジェクトをきっかけにアジアでの仕事が増え、特に中国のクライアントからの後押しもあって、2013年11月にoffice maを設立し、独立しました。現在はサンフランシスコと東京の二拠点で、パートナーやディレクターと共に活動しています。この国際的な視点が、私たちの強みの一つだと考えています。
■敷地の二面性を読み解いた大手町プロジェクト
── 近作の「Otemachi One Garden」プロジェクトについて詳しく教えてください。
このプロジェクトは、アメリカの著名な設計事務所SOMが建築コンペで勝利した後、私がSOMと「東京ミッドタウン」で協働したことから、ランドスケープデザイナーとして声をかけてもらい参加したものです。このプロジェクトは敷地の立地が非常に興味深く、皇居側の「伝統・自然」と、日比谷通り・大手町側の「ビジネス・革新・未来」という明確な二面性を持っていました。
この敷地の二面性はSOMの建築デザインにも反映されており、ランドスケープの計画においても重要な要素として捉えました。皇居側では非日常的な出会いや伝統的な要素を、大手町側では日常性やビジネスの革新性を表現し、さらに三井物産本社ビルとしてのプライベート性と、一般に開かれたパブリック性の両立を図りました。
ランドスケープデザインは敷地の中だけでは完結するのではなく、また、境界線があってないようなものです。それで、敷地が持つ文脈を深く読み解き、それをデザインに反映させることを心がけました。約6000㎡におよぶ屋外空間は、敷地の形状や周辺環境との関係、施設内の機能と配置、人の視線や流れなどを考慮しながら、場の多様性と魅力を高めるように13のゾーンに分けて構成しました。それぞれのゾーンでは場所のあり方や役割を考慮したうえで、空間のスケールや性質を計画し、舗装、植栽、水景、照明、ファニチャーなどのデザインを通して、空間特性を演出しています。

── 従来の大型開発の公開空地とは異なるアプローチを取られたそうですね。
従来のオープンスペースのように「見て楽しむ」だけでなく、人々が緑やランドスケープの「中に入って過ごせる居場所」を創出することを重視しました。季節や雨風などの要素を介して新しいリズムに触れられる場所があれば、その方たちの日常の生活に余裕が生まれるきっかけになるはず。そうしたオープンスペースができないかということを目指して計画しました。
具体的には、出勤前に少し早く来てコーヒーを飲む、木陰で打ち合わせをする、ランチタイムに芝生でピクニックをする、帰りがけにリラックスするなど、利用者の多様なアクティビティを想定しました。日常の行為であっても、非日常的な環境で行うことで、新たな気づきや生活の豊かさが生まれると考えたのです。
実際に、敷地の奥へ向かう途中に設けた芝生広場では、計画段階から想定していた通り、ランチタイムに多くの人が靴を脱いでくつろぐような使われ方がされています。大手町における新しいオープンスペースのかたちを提案できたのではないかと考えています。

■自然の要素でグラデーションをつくる
── 多様な空間体験を生み出すために、どのような設計手法を用いましたか。
地形、植栽、素材、水といった要素を複合的に用いて、空間のグラデーションを作り出しました。まず地形については、敷地を囲い込むように新しいランドフォームを造成しました。皇居の内堀通り側のゲートウェイ的なパブリック空間から、奥のプライベート性の高い空間へと、地形の高さを変えることで囲まれ感を演出し、空間に変化を与えています。


内堀通り沿いには、テーブルとチェアを常設する「サクセッションフォレスト」という休憩スポットを設けました。ここでは1.7mのグリッドで高木を列植し、緑のパーティションとして機能させることで、座っている人々が隣り合わせでも心地よい距離感を保てるプライベート的な空間を創出しています。このサクセッションフォレストの地面には、あえて砂利を採用しました。事業者からはヒールのある靴では歩きにくい、靴が汚れるといった懸念が示されましたが、都会の硬い舗装面とは異なる歩行感や、歩く時の音によって、五感に訴えかけ、リラックス効果や非日常感を演出したかったのです。解決策として、砂利の下にはハニカム状の基盤材(具ラベルフィックス)を設置しました。この材料は工法や効果を検証したうえで取り入れたのですが、砂利の動きや沈み込みを抑制し、歩きやすさを確保できました。

また、皇居の堀を意識し、水の要素を多用しました。空間のフォーカルポイントとしてだけでなく、空間同士の境界や分断の役割を持たせることで、一つの敷地内に多様な空間の関係性を構築しています。



これらの手法により、利用者は敷地内を移動しながら、様々な空間体験を楽しむことができるようになっています。それぞれの空間が異なる特性を持ちながらも、全体として調和の取れたランドスケープを形成しているのです。

office ma 代表取締役
オウミ アキ
16歳で交換留学生として渡米し、その後30年以上にわたり米国に在住。オハイオ州立大学でランドスケープ・アーキテクチャーを学び、ボストンにて3年ほどアトリエ事務所に勤務。その後、ハーバード大学Graduate School of Designにてランドスケープ・アーバニズムというアプローチに出会い、プログラムの2年目に友人と共に独立。ランドスケープ・アーバニズムを実践するオフィスとして「StoSS Landscape Urbanism」を設立。その後、サンフランシスコのEDAW、AECOMを経て、2013年「office ma」設立。2019年より東京にも拠点を置き、現在に至る。
著者プロフィール

最新の投稿
パブリックエクステリア2026.01.27【前編】「伝統・自然」と「ビジネス・革新・未来」という明確な二面性を持つ敷地の文脈を深く読み解き、それをデザインに反映。
都心のオープンスペースにおいて、人の流れとアクティビティーを重要視し、場の多様性と魅力を高めるように13のゾーンを構築するサイトフレームワークを設定。舗装、植栽、水景、照明、ファニチャーなどのデザインを通して、空間特性を演出した。
設計事例:東京 大手町「Otemachi One Garden」プロジェクト
パブリックエクステリア2025.12.23【後編】 駅ビル商業施設の既存建物のリニューアル。施設全体を「公園」と捉え直し、豊かなランドスケープによる動線の再整理で施設全体の活気を創出。 設計事例:韓国ソウルの「HDC I’PARKmall」リニューアルプロジェクト
パブリックエクステリア2025.11.25【前編】 地域に開かれたランドスケープ、カフェ、広場、通り抜けできる道。まちの一部としての施設と外構を設計。
設計事例:アクティブシニア向けレジデンス「パークウェルステイト湘南藤沢SST」
パブリックエクステリア2025.10.28【後編】地形や周辺環境、地域の歴史などの土地の調査分析から提案。建築家や事業者も含めて、地域の歴史背景を共有しながら、早い段階から部分ごとに外構のグレードの差をつけ、広い敷地の保育園を地域に開いた。
設計事例:愛知県半田市「にじいろ保育園花園」