【後編】 駅ビル商業施設の既存建物のリニューアル。施設全体を「公園」と捉え直し、豊かなランドスケープによる動線の再整理で施設全体の活気を創出。 設計事例:韓国ソウルの「HDC I’PARKmall」リニューアルプロジェクト
■駅ビル商業施設を「公園」に変える
—— 続いて、韓国ソウルの「HDC I’PARKmall」リニューアルプロジェクトについて伺います。
小泉:場所は韓国ソウルの龍山(ヨンサン)駅上部にある駅ビル商業施設で、既存建物のリニューアル案件でした。クライアントから希望されたのは、施設内の賑わいを屋外空間にまで広げて施設全体の活気を創出することでした。

そこで私たちが提案したのは、施設全体を「公園」と捉え直し、公園の中に商業施設があるという構成です。当時、ソウルには屋外で楽しめる空間が少なかったため、屋外に新たな価値を提供することを目指しました。
まず屋外空間の活性化として、人々が屋外に出る「きっかけ」や「理由」を作ることから始めました。屋上にはイベントが開催できるスペースとセットで大きな階段を新設し、多目的な空間を創出しました。このスペースに面してカフェではテラス席を設けるなどして、「外に人がいる理由」をつくりました。これにより、これまで収益化できていなかった屋外空間で売上を創出できるようになりました。


また、屋上には人工芝を敷き、土を一部に盛って植栽帯を設けることで、ひとが溜まりやすい空間としました。そして韓国でも厳しさを増している暑さ対策として緑のそばにベンチを設置し、ドライミストを噴霧して暑さを和らげる工夫も施しました。このミストは予想よりも濃かったのですが、子供たちが喜んで走り回る場になっています。そして、周辺のオフィスで働く人がこの屋上でランチをとったりすることから、樹木の間にスタンディングテーブルを設けて、中庭空間を眺めながら過ごすことができるようにもしました。この改修はコロナ禍の前に行われたのですが、結果的に屋外空間の重要性が高まった時代にマッチしていたと思います。


—— 屋内空間はどう変化させたのでしょうか?
小泉:以前の屋内は店舗の間はスペースに余裕があり、少し寂しさを感じる雰囲気でした。鉄道にちなんでH鋼の造形やレンガを取り入れたインテリアとし、通路の中央にはベンチを置いて人が溜まる空間を設け、人々がコーヒーを飲んで滞在できるようにもしました。また、階段を緩やかにして建物内部まで大きく引き込み、上の階への興味を喚起するデザインとしました。一部は人工になりますがグリーンも配して、賑わいも感じられる公園のような雰囲気を出しています。


■韓国ならではのデザイン文化と植栽計画の工夫
── 韓国と日本のデザイン文化の違いはありましたか?
小泉:韓国のデザインは、赤紫色など日本ではあまり使わない色を照明に取り入れるのですが、自然な要素と派手なデザインのコントラストが面白い効果を生むという発見がありました。
また韓国には公共事業などで建設費の一定割合をパブリックアートに充てる「1%フォー・アート」という制度があり、プロジェクト初期からアートの導入が検討されました。象徴的な大階段の一部をアートの台座として活用し、写真撮影スポットにすることで、単なる動線以上の価値を持たせる提案を行いました。

—— 植栽計画で苦労された点はありますか?
小泉:現地の冬の気候は北海道に近く、常緑樹が松など一部に限られるため、冬場の緑の維持が困難でした。対策として、足元の低い樹木で緑を確保しつつ、落葉を前提としてイルミネーションで賑わいを創出するなどの工夫をしました。日本とは異なる気候条件の中で、どう年間を通じて魅力的な空間を維持するかは大きな課題でした。でも、その制約の中で新たな表現方法を見つけられたのは良い経験でした。

—— プロジェクトの成果はいかがでしたか?
小泉:これまで有効活用されていなかった屋内外の空間を、利用者のニーズに合わせながら収益性も高めて、賑わいのある場所に変えることに成功しました。屋外空間は貸し切りでイベント利用も可能になり、新たな収益源となりました。
■製品選択の基準と建材メーカーへの要望
—— プロジェクトにおける製品選択の考え方を教えてください。
小泉:デッキや舗装材などでは、目線や手に触れる部分の「質感」を重視しています。いずれにしても製品単体で見ることはないので、いかに製品の存在感を消して機能だけを残せるかと考えることが多いですね。シンプルで洗練された製品であっても主張が感じられる場合もあり、使う際にはデザインの主張の度合いが重要になります。
高宮:境界のデザインでは、まちへの貢献が重視される場合、閉鎖的な境界ではなく開かれたデザインが求められます。メッシュフェンス等の風や光を無理なく通す機構は、最小限の線の細さで境界を明確にできる「スマート」な選択肢として評価しています。
フェンスでは、「表裏のない」製品が欲しいですね。敷地の内側と外側、どちらから見てもデザイン性が損なわれない顔をもつ「ダブルフェイス」のフェンスです。現在のフェンスは片方の側から見られることを主に意図していて、敷地とまちの連続性を重視するコンセプトでは使いにくい場合があります。まちなみやテナントにとってはとても重要な要素です。
バルコニーの手すりは、内外両方からの視点を考慮してデザインが進化してきましたよね。製品の開発も進んでいますが、それでもガラスやフラットバーで特注することは多くあります。メッシュフェンスはダブルフェイスの理想に近いものの、表と裏はやはり感じられ、さらなる発展の余地があると思います。
■事業領域拡大と施工体制強化への展望
── 今後のUDSや個人としての展望について聞かせてください。
高宮:今後の事業の方向性として、2つの大きな展望があります。1つは設計領域の拡大です。現在の「敷地と道」という単位から、「私とまち」「まちと都市」といった、より大きなスケールへと設計の範囲を広げていきたいと考えています。創業時から追及している「デザインとシステムで豊かになる都市」を生み出していきたいと思いますし、人の行動範囲と生活の拡大に合わせて、ものづくりを発展させていきたいと思います。
もう1つは施工体制の強化です。COMPATHにはQBLE(キューブル)という施工チームが数年前にできましたが、現在メインである内装施工だけでなく、外構も含めた施工まで手がけることを目指しています。設計と施工が初期段階から連携することで、デザインの意図を実現しつつ、コストや実現性の観点から新たな価値を生み出す機会が生まれると期待しています。
小泉:COMPATHには建築やインテリアの設計だけでなく、ランドスケープの設計チームもあり、多角的に携わることが可能です。そこに施工も加わることで、例えば木を選びに行くような場面でも適切な判断ができ、全体のクオリティが上がると考えています。
個人的には、設計・施工して終わりではなく、完成後の空間の運営管理にまで関与していくことの重要性を感じています。特に、公園をマネジメントする「パークマネジメント」に関心があります。提案の初期段階から樹木などを含めたランドスケープ全体のプレゼンテーションを重視していますが、それが実際にどのように運営されて育っていくかまで見守りたいのです。ランドスケープは、施設などが完成した後も成長し続けるもので、都市にとって大切なものです。一人ひとりのお気に入りの公園、そして多くの人から愛されるランドスケープを増やすことが、まちの魅力を高めることにつながると思っています。

高宮大輔(たかみや・だいすけ)
UDS株式会社
取締役 兼 COMPATH 上席執行役員
千葉大学大学院卒業後、2001年都市デザインシステム(現UDS)入社。株式会社コプラスを経て2013年にUDSに復帰し、商業・宿泊施設から住宅まで幅広いジャンルの建築設計・空間デザイン・家具デザインに携わる。

小泉智史(こいずみ・さとし)
UDS株式会社
COMPATH 執行役員
大学院修了後、ランドスケープ設計事務所でランドスケープの設計に従事したのち、事業会社でまちづくりに携わり、2016年にUDSに入社。ランドスケープ担当者として、国内外を問わず屋外空間の提案を幅広く担当。
著者プロフィール

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