【後編】建物とランドスケープの境界を希薄にするために、建築の軸である「交流のグリッド」をランドスケープに拡張。新校舎内部の魅力的な室内風景を連続的に屋外のセントラルパークにも広げ、全体計画の骨格とした。
設計事設計事例:山口県「梅光学院大学セントラルパーク」

■新しいグリッドをランドスケープに拡張する

── 「梅光学院大学セントラルパーク」は、どのような経緯で関わることになったのでしょうか。

古家:建築家の小堀哲夫さんからお声がけいただいたのがきっかけです。梅光学院大学のキャンパスは東西に細長く、県道と陸上競技場の敷地の間に挟まれています。敷地内の既存の一部の建物をなくして集約し、新校舎を建てる計画があり、空く予定の場所に「セントラルパーク」と名付けたスペースをつくりたいということでした。
小堀さんが設計した新校舎「CROSSLIGHT」は、既存の敷地形状から生まれるグリッドに対して、45度振った新しいグリッドを軸に空間が構成されています。この”交流のグリッド”と呼ばれるグリッドによって動線や視線が三次元的に交わり、CROSSLIGHT内部ではさまざまな活動や交流が生まれているのですが、その魅力的な室内風景が連続的に屋外にも広がっているようなセントラル
パークをつくりたいと考えました。
そこで、「CROSSLIGHTはセントラルパークの中に建っている」、さらにいうと「CROSSLIGHTはセントラルパークに屋根をかけて生まれた空間である」と捉えることにしました。そうすることで、CROSSLIGHTの1階とセントラルパークは地続きの一体的なランドスケープとして、多様なアクティビティを誘発する場になるのではないかと考えたのです。
この交流のグリッドをセントラルパークにも拡張して、全体の計画の骨格としました。上から見た平面では、グリッドが建物の軸の延長線上に打ち込まれているような構成になっています。

CROSSLIGHTとセントラルパークをつなぐ「交流のグリッド」。
ベンチや飛石、植栽などが混ざり合うキャンパスの風景。

■グリッドに外構の機能を重ね合わせてデザイン

── そのランドスケープのグリッドに、複数の要素が組み込まれているのですね。

セントラルパークとCROSSLIGHT、奥にはスタージェスホール(チャペル)が見える。

古家:グリッドの線の部分には、一人でも複数人でも滞在しやすいベンチ、スケートボード対策として表面に凹凸をもたせた石張りといった機能を付加しています。グリッド内部の面については、使い方や用途に応じたマテリアルを当てはめました。人の通行量が多いエリアには歩きやすく透水性のある舗装、イベントや軽い運動など多目的に使えるエリアにはクッション性のある芝、学生や教職員が憩うエリアには素材感のある木目タイルといった具合です。また、季節ごとに色づく草花や紅葉がきれいな樹木を植栽し、居心地の良い公園のような環境をつくることを意識しました。
また、「スタージェスホール」というチャペルの正面に、クリスマスツリーを植栽しました。キリスト教系の大学なので「クリスマス時期にイルミネーションをしたい」という要望があり、その木を引き立てるような木の基壇を設けています。ミッションスクールらしさを演出する存在として、セントラルパークのシンボルにもなっています。
また、陸上競技場との敷地境界沿いに連なる植栽帯は、CROSSLIGHT側からはセントラルパークにおける彩りのある背景となり、陸上競技場側から見るときには「大学の顔」として華やかさが感じられることを意識しています。

チャペル近くにキャンパスのシンボルとなるクリスマスツリーを植栽。

── ベンチエリアの設計は、どのようにされましたか?

古家:芝生のエリアに、地面から少し高さを上げたひな壇状のベンチを設けています。日常的にはもちろん普通にベンチとして使えますが、イベントの時には観客席になります。ひな壇状になっているのでステージにもなり、バンド演奏などに使っていただいてもいい。前号でご説明した宮崎駅前のアミュプラザみやざき設計事例と同じですが、こうした設えについては使い方を一定にせずに、使う人の想像力を喚起するようなつくり方をしたいと思っています。そのため、形だけではなく置き方など、全体の構成の中で多様な展開ができる可能性をもたせることは、いつも意識しています。

CROSSLIGHTから見たセントラルパーク。
セントラルパークから見たCROSSLIGHT。

雨水排水の処理施設も、グリッドに取り込んでいます。外構の設計をすると、どうしても側溝のラインがプランとは別に出てきてしまいます。それをこのグリッドの中に取り込むことで、機能的な要素も、一体的なデザインとしておさめることができました。ベンチの立ち上がりについても、全体がこのグリッドの中に統合される構成にしています。
今回はグリッドの形が強いので、見た目の派手さ、表面的なグラフィックだけで捉えられたくないと思いました。そこに意味や機能などをどう込められるか、ということを基本的に意識しています。グリッドというリジットなフレームを「地」としながら、その中に多様な使い方を受け入れる寛容さや居場所としての快適さを織り込むことで、キャンパスの新しい風景をつくろうとしたのです。

CROSSLIGHTと連続する「交流のグリッド」がセントラルパークにも広がり、ランドスケープに様々な領域を形成している。

── 舗装などの色の選定では、建築側との調整はありましたか?

古家:通行量の多い部分ではコストを下げる必要があり、カラーアスファルト舗装にしました。何色に塗るかはずいぶん悩み、小堀事務所とやり取りしながら色を合わせていきました。小堀さんがCROSSLIGHTの外壁に好んで用いていたのは、紫でも茶色でもない、小豆色のようなニュアンスの色です。その外壁色と同じ色を調合して塗装することで、建築とランドスケープをできるだけつなげて一体感を持たせる、一つのアプローチと思っています。

── 竣工後の様子などは聞いておられますか?

古家:大学の方には、喜んでいただくことができました。また、Instagramなどで見ていると、卒業式の後にセントラルパークに出て写真を撮影する卒業生たちの様子が上がっていました。みんなに愛着を持って使ってもらえているというのは、嬉しいですね。日常的にも、気候がいい時にはこの広場でランチをするなど楽しんでいただいているようです。
最初の提案時は、南に隣接する陸上競技場の敷地との間を行き来できるようにしたいと考えていたのですが、現実的にはなかなか難しかったようです。ただ、キャンパス内の賑わいや活気が周辺地域にも波及して、ゆくゆくは大学と地域を繋ぐ、公益性の高い開かれた場所になってほしいというのは、今も変わらず思っていることです。

■建築とランドスケープの境界をつなげるデザイン

── 建築とランドスケープの一体化について、プロジェクト全般でどのようなアプローチを取られていますか。

古家:なるべく境界をなくして一体感を持たせたいと考えています。どうしても建築は与条件が多いためボリュームと配置の検討が進んだ状況から我々が参画することが多いのが現状です。そうした隔たりをなるべく解消したいと思います。梅光学院大学のプロジェクトもそうしたアプローチをしようと思い、建物とランドスケープの境界をできるだけ希薄にするために、建築の軸をランドスケープに拡張するという考えを採用しました。

── 建築の外構ではコスト面での圧力を受けやすいことに対して、どのように対処されていますか。

古家:どうしても外構は最後の工程になるので、コストの削減対象とならないように、早い段階から外構の工事費用もできるだけコストを見込んでもらうようにしています。そして、ランドスケープとしての背骨となるコンセプトがきちんとあれば、VECDのときにも「何は削ってもよく、何を残すべきか」の手がかりができるのですよね。それを自分たちだけではなく、最初の提案段階からクライアントや設計者に伝えることを意識しています。共有ができていれば、「ここはちょっと削れないね」「ここは調整しましょうか」という判断ができます。それがないと、本当は何をつくるべきかがわからなくなってしまいます。

── エクステリアの既製品について、選択で意識されていることや要望はありますか?

古家:ベンチなどの屋外ファニチャーは、自分たちで設計することが多いですね。既製品も使いますが、雨風に耐えられること、盗難されないことなどが求められるので、屋外用ファニチャーは意外と選択の幅は狭いと感じます。フェンスやバリカーなどは既製品を使うことがよくありますが、床材も含めて決まったものになりがちなので、既製品の素材が増えるといいなと思います。
また、建築とランドスケープの境界をなくしたいということでいえば、屋内と屋外の両方で使える製品があるといいですね。タイルなどでは機能上、屋内用と屋外用で分けられていますが両方に共通する製品もあり、そうした製品を使うことで、屋内外が一体となった空間をつくることができます。エクステリア製品でも、内と外の両方で使えて空間をつなげられるような製品があると嬉しいです。

■幅広い地域や用途でのランドスケープを手掛けたい

── これからデザインネットワークとして取り組んでいきたいことを聞かせてください。

古家:さまざまな地域のランドスケープを手掛けてみたいですね。今は、本社のある九州を中心としたプロジェクトに関わることが多いですが、遠くに行けば行くほど、いろいろな文化や風土があって、その人たちの暮らしがあることを実感します。そうした環境に対してどのようなデザインができるか、海外も含めて仕事をしてみたいです。今は、あるホテルのプロジェクトにも関わっていますが、そこではランドスケープが全体計画を規定するくらいの関わり方で最初から入っていて、ランドスケープと建築側でお互いにキャッチボールしながら進めています。

私自身は建築を学んでいたところもあるので、建築に対する考え方や思考を持ちながら、外の空間を一緒につくる立ち位置でプロジェクトに関われることが、今後の強みになると思っています。
用途も、ホテル、庁舎、文化施設、商業施設、オフィスビル、複合施設、マンションなど、幅広く手掛けています。将来的には、小さな施設を含めて建築まで一貫してできるようになるといいなと思っています。現在は建築事務所登録していないので許可申請などができず、小さな建築物でも建築事務所にお願いしなくてはならないこともあり、完全に自分たちでコントロールできないところがあります。いつか建築とランドスケープを両方やりたいという思いはあったので、そこに少しずつ近づいていけたらと考えています。

── 最後に、ランドスケープデザインにおいて一番大切にしていることを教えてください。

古家:やはり愛着を持って長く使っていただくというのが一番かな、と思います。簡単に壊されてしまわないことは、環境的にも大事です。私たちランドスケープの立場からは竣工してから3年後、5年後をイメージしながらデザインし、時間が経つにつれて魅力が増していく空間を目指しているので、完成は竣工の日ではなく、その先にあると思っています。

古家俊介(ふるいえ・しゅんすけ)
有限会社デザインネットワーク | DNA
代表取締役

1980年福岡県生まれ。2007年慶應義塾大学大学院 理工学研究科修士課程終了後、2008年有限会社デザインネットワークに勤務、2016年取締役就任。一級建築士。

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