調剤薬局のエクステリアリノベーション事例
「未病」層を対象とした健康相談拠点づくりをしたいという使命感から、「中庭」「アプローチ」「ガーデンルーム」で新しい集いの場”サードプレイス”を創造した。
【調剤薬局のエクステリアリノベーション事例】
先般、北関東でも有数の調剤薬局が、既存のスペースを「心地よい空間」へとリノベーションした事例を取材した。その薬局では、室内に「カフェ」を設け、「中庭」と「アプローチ」、「ガーデンルーム」も施工した。
集いの場「カフェ」の入り口となる中庭
建物の北側のガーデンルーム内は検査測定室。
上州特有の強風対策も兼ねている
多くの調剤薬局は病院や医院で診察を受けた患者が処方箋を持って薬を買いに行く場所であり、医療施設の近郊にも開業している。場所によっては、一つの医療機関の周囲に複数の調剤薬局が乱立する姿も見受けられる。また調剤薬局は、医師からの処方箋を持った患者を待ち、その通りに薬を提供するという、基本的には医療機関に依存した「待ち」の経営である。しかしこれからは、それでは生き残れる保証はないというのが、今回取材した調剤薬局のオーナーである。
「今までよりももっと患者が気楽に訪れやすい雰囲気を作り、多くのリピーターを創出しなければならない。そして、患者だけでなく『未病』層であっても、病院に行く前に気軽に訪れることが出来る場所がなければならない」―そんな使命感から「調剤薬局が、医者に行く前の健康相談の拠点となることができる」と確信し、オーナーは新しい場所づくりをしたのである。
同薬局のスタッフはすべて薬剤師だが、カフェに配属したスタッフは白衣ではなく、緑色のエプロンを着ている。スタッフは、コーヒー、健康茶などこだわりメニューでお客さんを出迎えて、お茶を飲みながら雑談をする。
当然、「医者に行くほどでもないのだけど、ちょっと最近冷え性だ・・・」といった健康相談も気軽に受けられる。実際のエビデンスを発見するための血圧測定、肌測定、頭皮測定、血圧、動脈硬化、糖化(タンパク質と糖)、ストレスチェックなども受けられる。また県内では3つしかない検体測定室も完備している。
これによって、薬をもらいに来た患者だけでなく、未病で健康相談に訪れる人も、カフェで寛ぎながら自分の体の状態を把握することが出来る。まさに健康をテーマとした新しい集いの場〝サードプレイス〟の誕生である。
同薬局では、いままで薬を提供する建物と、カフェのある建物との間にデッドスペースがあった。一昨年、両方の建物とで人が行き来できる場所としてそのデッドスペースを「中庭」としてリノベーションした。同時に建物の周りのエクステリアも新しく作り直した。
エクステリアを担当したのは、同地域に根付くエクステリア専門店だ。オーナーの信頼を勝ち得て、自由に設計・施工をすることが出来た。このデッドスペースは、最初は草ボーボーの裏庭(バックヤード)という状態で、既存の汚水桝もたくさんあった。草をすべて処分し、汚水桝は調剤薬局のロゴを模したステッカーを貼り付けた。むき出しになった配管にはエクステリア商品(デザイン・シート)を巻いた。
またカフェの北側にはガーデンルームを設置。その中は検査測定室を兼ねている。さらに
舗装の一部分を改修し、ガーデンルームに繋がる乱張りのアプローチを施工。既存の窓は塞いで外から看板を取り付けた。周囲一帯は内科、小児科、整形外科、眼科、心療内科が建ち並ぶメディカルタウンであり、調剤薬局はちょうど真ん中に位置している。そのため隣の小児科医院の建築イメージ合わせて境界フェンスを撤去し、光る石をちりばめた「森の小径」も作った。「メディカルタウンという動線の中で、この調剤薬局が人々の健康状態を把握できるハブのような機能を提供できないかということです。その思いが『中庭』を作るという発想の根本となっています」と語るオーナー。
これからの日本は、人々の健康寿命をいかに伸ばすかも大きなテーマとなっている。そうした中で、同薬局は単に薬を提供する場所から、未病層へのアプローチによって新しい健康への投資価値を見出そうとしている。建物の外部空間の価値は、ますます高まっていると言える。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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