「モノ売り」ではなくて、「コト売り」
日ごろ、たくさんのエクステリア店さまに取材しています。 先日、とある店舗を取材して感じたことを今回はお話ししようと思います。
その店舗は、長野県小布施町にある老舗の栗菓子屋さんです。お店の特長は、約3年前に数億円かけてリニューアルした伝統木造の建物と、ゆったりとしたテーブルと椅子で構成されるインテリア。そして、ガラス越しに見える本格的な日本庭園です。
そこのオーナーさんの言ったことがすごく印象的でした。
「リニューアルの際には、敢えて店内は無駄な動線を作り、テーブルも椅子も大きくして、ゆっくりと寛げる店にしました。さらに庭を作ったことで、お客さんは食事をされた後もなかなか席を立たないから、回転率は下がりました」
通常は、回転率が下がると売上も下がります。駅前のコーヒーチェーンの椅子は小さくて座り心地が悪いから、回転率はどんどん上がります。
しかしこの栗菓子屋さんのオーナーさんはこれとは逆に、回転率を下げることを選択しました。「勇気が必要だった」とのことです。
さてこの栗菓子屋さんですが、リニューアル後も売り上げは下がっていないということです。どうしてでしょうか。
理由その1
庭を愛でる空間を作ったことで、食事を済ませたお客さんが「なかなか席を立たない」ので、その後の「甘味」や「喫茶」の売上が増えたそうです。
理由その2
スタッフのモチベーションが上がり、特に庭の手入れを自主的に行うようになったそうです。そして庭の草木を手で触れていると、心も安らいできます。
その心が、お客さんに伝わり、ホスピタリティが向上していったというのです。
いまエクステリア業界でブームのように言われているのが、「モノ売り」ではなくて、「コト売り」という言葉です。
これは、「実際には商品というモノを売ることには変わりないが、その方法として、強引に『買わせる』のではなくて、最初にイメージとして物語を創造させて『その商品が欲しいなあ~』と思わせること」です。
栗菓子屋さんが最初から「甘味」や「喫茶」を前面に押し出して、「買ってください」とやるのはモノ売りです。しかし、その店に行くと体が安らぎ、良い庭を眺めて、「お茶でも飲もうか・・・」となるのが、コト売りです。
今回紹介した栗菓子屋さんの場合は、「ゆったりした空間を実現する無駄な動線」と「眺めていられる日本庭園」でした。これは回転率を高めたい通常の飲食経営のセオリーと反する試みです。しかしお客さんの心は掴んでいます。
つまり、「コト売り」が意味しているのは、錯覚とか、心理学とか、そんな話かもしれません。売り込まなくても、相手から「買わせてください」「その商品を売らせてください」とお客さま自らが来店してくれる状態を、エクステリア業界も目指しましょうということです。
コト売りのためには仕掛けが必要です。その仕掛けは、エクステリア専門店が独自に、編み出していく必要があります。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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