【前編】 日本とは違う、中国にみるランドスケープ設計の特徴。
Q大学卒業から、現在までのご活動をお教えください。
早稲田大学理工学部建築学科で建築を学び、大学院では都市計画を専攻しました。
卒業後は、建設コンサルタント事務所に就職し、そこでランドスケープデザインの世界に出会いました。
その事務所では中国の造園を多くやっていて、入社した頃には大連の動物園や水族館、上海の植物園や公園を手がけており、その後、中国の民間大規模マンション開発をかなり手がけました。
日本では公共施設、中国では広大な民間マンション開発のランドスケープを10年程手がけ、その後は、独立して住宅の設計を始めました。
現在は、主に一戸建て住宅と比較的小規模なランドスケープデザインを手掛けており、建築とランドスケープを一体とした住宅地開発にも関わらせていただいています。
Q中国の開発は、池や公園などを作ってその周りに住宅などを配置して、かなり大規模なものですよね。
中国のプロジェクトでは何十haという規模が普通で、中には数百haの街をまるごと描くような都市計画プロジェクトもありました。プロジェクトの種類も公園から住宅地開発・動物園・水族館・テーマパーク・リゾート開発等と様々なものを経験させていただきました。
中国では大規模な物件でも小規模な個人事務所にも任せてくれます。事務所の規模によらず、個人の実績や能力に仕事を託してくれます。そのため、独立した後もマンション開発などのランドスケープの仕事に携わらせていただいています。日本ではなかなか経験できない規模やデザインの仕事に関わらせてもらえるのも、中国の仕事の魅力のひとつです。
Q大学時代からランドスケープに興味を持った理由を教えてください。
最初は純粋な建築家を目指していましたが、建物だけ考える世界だと少し物足りず、興味の対象が建築を含めたランドスケープやまちづくりに広がり、大学院では都市計画を専攻しました。早稲田大学では伝統的に建築とランドスケープやまちづくりを一体とした研究やデザインを行う先生や先輩も多く、建築からまちづくりまで全部一体でデザインして、人の生活環境全体を良くすることが最終的な目標となりました。
Qエクステリアの中でランドスケープに注目する、それはそれほど差のあることではなくて、内部空間であろうと外部空間であろうと両方とも統合して考える、ランドスケープもそういうことだというお考えなのでしょうか?
そもそもランドスケープだけをやりたいと考えたのではなく、室内と室外を分けずに全体を統一したデザインで考えたいと思いました。
今はエクステリアをやるといっても、日本だとまず建物があってその周りに外構を作ります。逆に中国では大規模なものをやるときとは、建物とエクステリアを一体に考えて、エクステリアも建築デザインに合わせた素材だとか、一体のデザインとして成立するようにエクステリアを考えていくというのが強みかなと思います。
Q当時の造園では、設計図もなく、職人的な感覚で成り立っていたようなところがなかったでしょうか?
伝統的な日本庭園の世界は植木職人が図面なしで現地で采配して作っているような場合も多かったと思いますが、我々が関わるような大規模なランドスケープデザインは、構造物も植物も綿密な設計図を描いて作られています。設計図はありますが、特に植物は最終的には現場に材料を運び、細かな位置や角度・見え方等を確認しながら完成させてゆくことが非常に重要です。
日本では独立してからマンションやセレモニーホールの外構などを手掛けています。また、建築設計者から外構のデザインを頼まれて作っているものがいくつかあります。
Q中国のやり方と日本の開発のやり方、ランドスケープを意識したようなやり方ではどのような違いがありますか?
日本のランドスケープデザインでは、施設の規模の算定やニーズの調査・設定から始まることが多いです。何人くらいの人が使うのか、どのくらいの東屋がいくつ必要で、トイレはいくつか、広場は何人くらいでどのようなイベントをやるからこれくらいのスペースが欲しい、というところからです。
一方、中国の仕事では、ニーズの考慮はしますが多少はずれていても大丈夫で、デザインが全ての場合が多いです。
だからルールがほとんどなく、設計側のイメージをそのまま打ち出せます。最小限、消防自動車が通れるようにしてという法律上の要求はありますが。その法規自体やガイドラインもディベロッパーと行政の交渉によっていくらでも変わってしまいます。建築物の容積基準すら変わることがあります。あとからここもこうしてくださいと役所の方から言われる場合も多く、法規を厳密に検討しようとしても雲を掴むような話になります。建物であっても法規がゆるく、ランドスケープの方ではほとんど無いに等しいのです。
そのため、全体のコンセプトやデザインの方向性がしっかりしていることが重要になります。
Qすると古川さんは、どんなランドスケープを開発していくと、中国の感性にあってくると思っていますか?
基本的には、やはり日本らしいランドスケープデザインが求められています。古典的な日本の庭というよりは、日本の現代的なデザインが求められています。よく言われるのは、日本のランドスケープデザインは、デザインが細かいということです。日本庭園の文化から連なる日本の造園デザインは、世界的にみると空間の作り方、石や植物の組み合わせ方等が非常に繊細で、海外のデザインとは全く異なるのです。世界から見た日本らしさとは何か、ということをよく考えさせられます。
ヨーロッパのデザイナーが描くランドスケープと、我々が描くデザインというのはスケール感が全く違うのです。フランス人だったらフランス庭園のような広大で立派なスケール感で提案を出してくるし、我々は日本庭園的なスケール感で提案を出すので全く空間の鋼製や細かさが異なります。その密度の差でマンションランドスケープや小規模な公園等では日本人のデザインが好まれる場合が多く、仕事をさせていただける機会があります。デザインの細かさが、高級感の表現につながるようです。
中国の仕事では、施主がどこかの写真を持ってきて、これと同じように作って欲しいと言われることもよくあります。しかし、結局提案を出して現実に合わせていくと当然全然違うものになるのですが、それでも構わないようで、ただイメージを伝える方法なのかなと考えています。
また、中国ではかなりの粘り強さが求められると思います。日本の仕事と一番異なるのは、ディベロッパー側による変更が多く、工事完了まで永遠に変更が続くということです。決まりが少ない分、どうとでもできてしまうのです。日本では図面が決まって工事に入ったらほぼ変更はできないですが、中国では完成までずっと変更が続くので、それについて行くのが大変です。工事が始まっているにもかかわらず、全体のデザインがスタートに戻ったりすることすらよくあります。
Qエクステリアの設計のポイントを教えてください。
少し抽象的なのですが、地域性を表現することを重視しています。
特に中国の物件で、北京と上海だったら日本人からみるとあまり変わらないのですが、現地の人からみると全然違うわけです。文化が違うし、民族や習慣からして違う。日本人からは細かいことは理解しにくいのですが、できる限り地域の歴史文化性を組み込みます。歴史文化の表現というのは彼らにとってものすごく重要なので、デザインコンセプトとして組み込んであげないとなかなか話が通りません。
日本ならば京都や鎌倉の歴史的建造物や、地域社会にも古い寺社仏閣が残されているため、日本人全体として日本文化とはこういう感じという、ある程度共通のイメージが持てます。しかし、中国では歴史的建造物が全部一回壊されてしまっているので、共通のイメージがあまりないのです。そのため、地域の歴史文化がどのようなものだったか、もう一度呼び起こして開発コンセプトやデザインに入れ込むことが重要だと考えています。
Q日本での地域性はどうなのでしょうか?
日本では、歴史文化というよりは、地域の周辺環境や建物のデザインに合わせた外構デザインをすることを心がけています。周囲の街並みに溶け込ませることや、地域や建築で用いられている材料やデザインを強調して用いる等、もっと細かい周辺環境とのつながりを大事にしています。
Q施設、美術館などを作る場合のエクステリアのポイントは?
施設のランドスケープとしては、セレモニーホールや美術館のランドスケープの経験がありますが、日常的な施設とは異なる精神性のようなものをランドスケープデザインで表現したいと考えています。昔のお寺の外構のように、砂利が敷き詰めてあって、特別な空間だと誰もが感じるような雰囲気をエクステリアで出すということを意識しています。
中国の美術館の例では、私設美術館が多いです。開発の一環として、リゾート地の中の付加価値として美術館を設けたりします。そのような場合は、やはりリゾート開発の一部として、親しみやすく快適な環境を意識してデザインします。
Q中国の「境界」に対する意識は、日本とは大分違うのでしょうか?
境界についてもスケール感が全く異なります。境界を考えるスケールが日本だと戸建て住宅のスケールで塀やフェンスはどうするか考えますが、中国は昔からタウンハウスが連なる形の住宅が多いため、外部に境界はあまりなく、建物がどこまでもつながっています。
また、境界というと中国の伝統家屋には四合院(しごういん)というのがあって、住宅の部屋で中庭を囲い込むタイプの住宅型式の伝統もあります。さらに四合院が大きくなったような、中層集合住宅で中庭をぐるっと囲んだ「円楼」という集合住宅もあり、外界から住環境を守る意識は大陸では格段に強い伝統があります。
現在の中国では、境界という意味では1ブロックのマンション群の周囲は、高さ3ⅿ以上ある鉄製のフェンスで囲われます。部外者は侵入できないクローズドタイプの都市構成です。そのフェンスのデザインにかける情熱は日本人よりも圧倒的に強く、外回りの境界をいかに凝って見せるかが、エクステリアでは焦点となります。フェンスや門のデザインが、マンションのグレードを決めてしまう側面があるのです。そのため、フェンスも門も既製品は一切使わず、全て特注のデザインです。フェンスや塀でも日本のような細かな規制はないため、自由なデザインのフェンスがつくられます。
また、まだ職人が手で作る人件費はそれほど高くないため、わざわざ既製品を使う理由があまりないので、全部作ってしまうという側面もあります。もし中国人が気に入るような既製品のフェンスを作れたら、マーケットは大きいと考えられます。
古川亮太郎
株式会社フルカワデザインオフィス一級建築士事務所 代表
略歴:
1998 早稲田大学理工学部建築学科卒業
2000 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了
(建設工学都市計画専攻戸沼研究室)
2000-2007 ㈱日本総合計画研究所
建築設計・ランドスケープデザイン・都市計画を手がける
2007 フルカワデザインオフィス一級建築士事務所設立
2013 株式会社フルカワデザインオフィス設立
著者プロフィール
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