【前編】「芝生のグリーンマウンド」や、安全・安心な歩行者空間など、敷地内外の新たな繋ぎ方をランドスケープから提案
【設計事例:愛知学院大学名城公園キャンパス】

Q.クロス・ポイントの特徴や理念から、教えてください。

堀川:

クロスポイントは、今年、設立してから15年というを節目を迎えます。私は土木系の都市計画を、山﨑は建築系の都市計画を学び、前職は二人ともゼネコンに勤務してランドスケープデザインを担当していました。現在は、公園や学校のキャンパス、住宅地などの企画・計画・設計をベースに、コンサルティングやコーディネートなど幅広い業務に携わっています。住民参加のまちづくりでアドバイザーなどとして関わる仕事も増え、ハードだけでなくソフトも併せて考えます。どのプロジェクトでも対象となるエリアや場所に足繁く通い、どのように利用されているかを観察し、さまざまな人と関わりをもちながら進めています。

山﨑:

住民との話し合いの場では、自分たちの考えやこれまでの仕事をまとめた小さなコーポレートブックを持参して参加者に渡しています。その本にも書いていますが、プロジェクトを進行するうえで私たちが常に意識しているのは「ユーザーファースト」です。子どもや女性、高齢者を含めて多種多様なユーザー(利用者)の声に耳を傾けることからプロジェクトは始まります。そしてユーザー主導の運営システムを組み込み、行政とユーザーが手を組んでプロジェクトを育てていくことを目指します。一般的にランドスケープのプロジェクトでは管理者目線になることが多いのですが、私たちは住民と対話しながら利用者と一緒につくっていきたいと考えています。事務所名の「クロス・ポイント」は「交差点」という意味で、私たちはさまざまな人や技術などをつなぐ存在でありたいという思いを込めています。

設計事例:愛知学院大学名城公園キャンパス
クロス・ポイントの姿勢をまとめたコーポレートブック

Q.ランドスケープデザインを担当された「愛知学院大学名城公園キャンパス」から、経緯や計画の具体的な内容を聞かせてください。

堀川:

このプロジェクトには、企画段階から入りました。もともと大学側からは建物を寺院の伽藍配置のように配する案があり、サイトプランのベースとなっています。敷地の境界には塀やフェンスを設けない計画を提案しました。土を小高く盛り上げた「芝生のグリーンマウンド」を大津通との境界に配置し、フェンスがなくても人が心理的に入りにくい構造としながら、目線は敷地の内と外の景観が緩やかにつながるオープンなキャンパスとしました。グリーンマウンドに面して配置した低層の食堂棟では、学食の椅子に座ると道路を通る車のタイヤが視界に入らず、安心感をもって外を眺められるよう配慮しました。

第1期Site Plan
食堂棟とグリーンマウンドの関係
敷地境界に配置したグリーンマウンド
グリーンマウンドで休息する学生たち
食堂棟2階からは名城公園の豊かな緑が目に飛び込む

山﨑:

屋外で過ごしやすい季節は、学生たちがグリーンマウンドに上り、思い思いに過ごしています。設計者としては、これほど使われると思っていませんでしたが、学生たちが上手に空間を使いこなし、見ていて嬉しくなりました。

また、名古屋市中心の名城公園に隣接するこの敷地には、既存の大きなケヤキがあり、ケヤキはこの地域の歴史になっていました。干渉する樹木すべてを伐採するのではなく外観診断と精密機械診断をしたうえで、一部を移植して全体を整えていきました。

既存樹木による日陰を活かした歩行者のための道は、現地を視察したときに、近隣の幼稚園に親子が登園する様子を見て、小さな子どもたちが安全に移動できるところをつくらなければいけないと思ったのが発端です。既存樹の根を傷めないよう、樹木が根を張れるスペースを確保してウッドデッキを張り、ベビーカーでも安心して通れるバリアフリーな移動空間にしました。この歩行者空間は、道路より高い位置にあり、子どもも車を見下ろすことができて楽しそうです。

既存樹を生かした歩行者空間
既存樹の根を保護しながらウッドデッキを施工

堀川:

計画が進む過程で提案したのは、地下水を有効に使うことでした。もともとは名古屋城のためのため池があった場所でもあり、この敷地は地下水位が高いのです。そこで、建物の空調はクールピットという地下水活用型を採用しました。一方で地下水位が高いと樹木の根が地下水につかり、根腐れを起こしてしまうため、根が地下水につからないギリギリの高さとなるように設定しています。

既存樹の移植(大径木移植)
水とのつながりを意識した親水空間

山﨑:

配棟は、建物を縦に並べて、名城公園からの風を敷地に取り込む計画となりました。ランドスケープは建物配置に沿って計画し、東西方向に風が抜けることを意識してベンチを置くなどしています。ただ、ベンチを置くにも、人がどのように使い、どこに人が溜まるのか、設計時点ではわかりません。そこで一期工事のベンチは最低限の設置とし、開校後に人がどう動くかを観察しながら二期工事でベンチを設置しましょうという長期的な提案をし、大学に受け入れて頂きました。

第2期整備で配置したベンチ
山﨑正代堀川朗彦

山﨑正代

1969年兵庫県生まれ。日本大学理工学部建築学科(企画経営コース)卒業。株式会社熊谷組を経て2010年株式会社クロス・ポイントを設立、代表取締役。技術士(都市および地方計画)、RLA(登録ランドスケープ・アーキテクト)、一級建築士、東京都市大学 総合研究所 応用生態システム研究センター客員研究員。JLAU(一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟)理事。

堀川朗彦

1956年北海道生まれ。室蘭工業高校土木科卒業。株式会社熊谷組を経て2010年株式会社クロス・ポイントを設立、代表取締役。技術士(都市および地方計画)、RLA(登録ランドスケープ・アーキテクト)、一級土木施工管理技士、三鷹市景観審議会委員、景観アドバイザー、東京都市大学 総合研究所 応用生態システム研究センター客員研究員。