【後編】生物自然環境と歴史文化遺産をもつエコミュージアムとして重要な場所である、東京湾唯一の自然の無人島である猿島で、自然地形と調和した木造による空間構成として「ビジターセンター」を計画、歴史公園という位置づけで、島全体を整備したプロジェクト。
設計事例:神奈川県横須賀市の「猿島公園」

■無人島の自然と歴史を活かす

── 次に、横須賀の「猿島公園」プロジェクトについてお伺いします。

(仙田さま)
5.5ヘクタールほどの猿島は東京湾唯一の自然の無人島で、生物自然環境と歴史文化遺産をもつエコミュージアムとして重要な場所です。横須賀の三笠桟橋から船で10分の距離にあり、横須賀は海軍の軍事拠点でしたから、猿島には要塞跡や高射砲等の土木遺産があります。市の歴史公園という位置づけで、島全体を整備するプロジェクトでした。

東京湾唯一の自然島、猿島遠景

(佐藤さま)
砲台跡のほか、切り通しの道に沿って要塞の施設や、レンガ積みのトンネルの中に倉庫の跡があったりします。軍事マニアの人が多く訪れますし、撮影スポットとしても有名になっていて、休日には家族連れや若い人が多く、猿島にわたる船に一度に乗り切れないほど賑わっています。

猿島公園全体配置図

(仙田さま)
猿島を訪れる人のために「ビジターセンター」を計画し、散策路などを整備しました。歴史的な場所なので、建物としては目立ちすぎず、自然地形と調和した木造による空間構成としています。ただし、猿島の入口となる場所なので、来訪者が楽しめる場所にしたいと思いました。横須賀市街を対岸に眺められる船着き場の周辺では海水浴もでき、最小限で最大限の効果を出し、特別感をもたせられないかと考えました。島へのアプローチとなる桟橋の位置はずらし、桟橋で分断されていた砂浜を大きく確保する提案もしています。

(佐藤さま)
計画にあたっては行政とともに市民対話会を何回か開催し、意見を聞きながら一緒に進めました。さまざまな講師を呼んでミニレクチャーも催しました。

(仙田さま)
講師には、例えば野生動物も含めた生物多様性という観点を話していただき、自然を壊さないかたちで整えることを考える回もありました。

── 建物の構成は、具体的にどのようになっているのでしょうか。

(佐藤さま)
「管理棟」と「物販棟」を設けています。管理棟は公園の管理や休憩のため、物販棟は売店やバーベキュー道具のレンタルなどのためです。高低差のある敷地に沿って、物販棟は最も低いところに設け、その屋上はテラスになっていて、そこで休憩しながら海が眺められます。管理棟は背後の斜面に貼り付くような形で計画しました。2階建てで1階にトイレ更衣室などを配し、2階が管理事務所と多目的なオープンスペースで休憩展示などに使えるようになっています。

左側が2階建ての管理棟、右側が物販棟
物販棟屋上のテラスと管理棟(左側)

基本的にはあまり既存の環境をいじらないということで、開発面積は最低限にしました。煉瓦造りの発電所の遺産は残し、隣に斜面に沿って建物を計画しました。屋根の勾配も斜面に合わせています。建物の色と素材も、屋根は濃いグリーンのガルバリウム鋼板、外壁がグレー系の自然木として、自然景観に調和するようにしています。

自然景観と調和した屋根・外壁の素材と色彩

島内では、案内・誘導サインや歴史的遺産の解説サインやディスプレイを新たに設置しました。ただ、サインの基礎を設置しようと地面を掘ると遺構が出てきます。遺構を保護し、その上に基礎をつくるという配慮をしました。サインも色彩は焦げ茶色とグレーを主体にしたアースカラーとし、景観に馴染むようなデザインとしています。

自然景観に馴染むアースカラーのサイン(案内サイン)

── 猿島のプロジェクトは、どのような経緯で取り組まれたのでしょうか?

(仙田さま)
1982年頃から横須賀市では「10,000メートルプロムナード」という計画が立てられました。海岸線沿いの道を約10kmにわたって少しずつ開放してつなげ、横須賀の象徴的な遊歩道をつくるものです。それを提案したのは、私の恩師である石原舜介教授という都市計画の先生でした。この計画の一環として、三笠公園の戦艦三笠があるところまでの街路について、片側2車線あった車道を1本にまとめ、あいた部分を歩行者専用道路にしました。「三笠アプローチ」と呼ばれています。幅約20mの緑道を4つの性格の広場に分け、水遊びをしながら噴水に出会う歩道をつくり、連結しました。三笠公園には桟橋があり、そこから猿島に行けるという位置関係です。こうした歩道や緑道の整備は、ランドスケープアーキテクトと建築家、アーバンデザイナーの人たちが協働で取り組むべき領域ではないかと思います。

■耐久性と景観の両立を図る素材選定

── 猿島プロジェクトでの素材選定は、どのようにされましたか?

(佐藤さま)
猿島は潮風にさらされ、環境としては過酷です。外壁の木材については、年数を経て、だんだんとグレー色に落ち着いています。屋根についてはガルバリウム鋼板で、腐食などで困ったという話は今のところ聞いていません。サインはステンレスにしたのですが、飛んでくる砂鉄が付着して、もらいサビが発生するという話はありまました。
ウッドデッキはこのときも天然の木材を用いましたが、最近のプロジェクトでは木チップと樹脂を固めた人工木材の製品を使うことが増えています。人工木材は夏場の表面温度が高くなりがちですし、肌に触れる質感としては自然の木材のほうが気持ちがよいのですが、やはり腐食への耐久性が高いことや雨上がり後の乾きが早いことなどから、人工木材製品になる傾向があります。

(仙田さま)
建材も時代とともに、自然的な風合いを残しながら耐久性がある製品が開発されてきましたね。これからも、そうした方向に期待しています。

── エクステリアメーカーの製品について、選定の基準や要望などはありますか?

(佐藤さま)
すべてを制作しようとしてもコストが全然合わないので、メーカー製品を使えるところは使うようにしています。フェンス、ベンチ、舗装材などは製品を使うことが多いですね。メッシュフェンスで使う色はだいたいグレーベージュ系が多いですが、形状はバリエーションが多く用意されていると助かります。メッシュフェンスはどちらかというと、景観的にそれほど気にならない箇所に使うイメージがあり、景観的に重要なところは縦格子のフェンスを使いたいと思っています。縦格子も基本的には既製品の中から選ぶのですが、やはりバリエーションがあるといいと思います。
耐久性があってコストが低いことに加えて、あまり主張せずに目立たないと使いやすいですね。フェンスでも、柱の上にギボシが付いているような製品がありますよね。基本的に入れないようにしているのですが、何かの手違いで取り付けられたことがあり、仙田から「切れないか」と言われたことを思い出します。手すりは主役ではなく、向こうの景色や安全性を確保できればいいので、飾りのようなものは必要なくて、なるべくシンプルなデザインのものがいいですね。

■緑が後退する時代に——環境デザインのこれから

── これからの課題や展望について教えてください。

(佐藤さま)
環境デザイン研究所としてはこれまで、環境を少しでも良くすることを考えて設計活動をしてきました。ヒートアイランドで都市の環境が非常に厳しくなっているので、木が1本植わっているだけでも木陰ができて違いますよね。世界的には環境問題が叫ばれている一方で、実際のプロジェクトでは緑に対する理解があまり進んでいないどころか、後退して身の回りの緑は少なくなっている感覚があります。私が昔通っていた小学校が最近建て替えられたのですが、校庭には1本も木がないのですよね。子どもや環境にとって、それでいいのだろうかと考えさせられます。
地球温暖化抑制や地球全体のCO2排出量に与える影響に対して私たちができることは限られているとはいえ、意識を持ち続けることは大切です。我々は少しでも緑を取り入れるように努力していますが、難しいことも多い。そうした場合でも、生長を見込んで小さな木を植える方向で、なんとか緑を確保しています。
事業主体が民間か公共かによっても性格は異なります。民間の商業施設や再開発事業のほうが、グリーンに対してコストをかけることも最近ではありますね。幼稚園や保育園でも、園長の方針によって緑をどんどん増やす園もありますし、私共は積極的に森の園庭を提案しています。公共では緑化率を満たす程度として、それ以上はあまり踏み込まない傾向にあります。「維持管理の手間がかからないように」「実が落ちて汚れないように」という要望も多くあります。緑も生き物ですから、メンテナンスがかからないことはありえません。あまり手間がかからないものを求めると、基本的には年間を通じて変化が少ない常緑樹で、花も実も目立たないような植栽となります。私たちの植栽計画は、四季の変化に富んだ種類を選ぶことが根本にあります。メンテナンスの手間とは対局にある話ですが、説得しながら調整して入れていくようにしています。
ただ、最近では「グリーンインフラ」といって、自然環境の機能や仕組みを社会基盤整備に活用する考え方が提唱され、国土交通省を中心に推進されています。街路樹の植え方や、雨水を地中に還元する方策なども具体的に示されていて、都市部を含めて普及することに期待しています。

(仙田さま)
我々は建築自体が主張して目立つよりは、周りと馴染み、調和することを大事にして設計してきました。そこで生活する人々が居心地がよく、「居場所がある」と感じられる空間計画を第一としてきました。1975年に都市住宅という雑誌で「都市の木をつくろう」というスローガンをかかげた環境デザイン研究所の特集以来、一貫しています。
高速道路を「緑の道路」とする提案や、歩道橋をこども達のあそびの立体遊具としたアイディアは世界でもいろいろな場所で実現してきています。地球環境の時代で、日本の都市はもっと緑量を増やす必要があります。そして、都市における樹冠被覆率は、30%を達成しなければなりません。今後も緑・こども・建築・環境デザインは私達のテーマでありつづけます。

仙田 満(せんだ・みつる)
環境建築家・環境デザイン研究所会長

1941年横浜生まれ。1964年東京工業大学卒業。工学博士。菊竹清訓建築設計事務所を経て、1968年環境デザイン研究所を設立。琉球大学・名古屋工業大学・東京工業大学・放送大学教授、日本建築学会会長、日本建築家協会会長、日本学術会議会員(第20・21期)・連携会員(第22・23期)、こども環境学会会長を歴任。現在、東京工業大学名誉教授、こども環境学会代表理事。
代表作品に「富山県こどもみらい館」「愛知県児童総合センター」「茨城県自然博物館」「国際教養大学中嶋記念図書館」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」「軽井沢風越学園」「小田原三の丸ホール」「石川県立図書館」「広島サッカースタジアム(エディオンピースウィング広島)」「長崎スタジアムシティ」などがある。

佐藤文昭(さとう・ぶんしょう)
環境デザイン研究所 環境設計部 マネージャー

1969年東京生まれ。1995年京都大学大学院農学研究科卒業後、環境デザイン研究所入社。主な担当プロジェクトに「富岩運河環水公園」「秋田市太平山自然学習センター」「高尾の森わくわくビレッジ」など。全体の敷地計画やランドスケープ・遊具の仕事を多く手がけ、既存の自然資源と調和した一体的な施設・景観創出を目指す。技術士(建設部門、総合技術監理部門)

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