マクロ数字に振り回されず、新しい市場を自ら創る
日本の新設住宅着工戸数は、2030年には54万戸になるというシンクタンクの予想数値が出ている。この数字は、リーマンショックよりもさらに前の2005年~2006年あたりから、すでに予測されていた数字でもある。
この2005年~2006年という1年間は、現在の住宅業界の姿を決定づける上でとても大切な年であった。というのも「住生活基本法」が成立した年だったからである。
この法律は、住宅業界の「憲法」とまで言う人もいた。しかし、新たな住宅供給目標である「新五か年計画」では、持家、賃貸、公営住宅といった3つのカテゴリーについては大きな変更はなく、相変わらず「持ち家政策」を継続させたいという、政策的な意図を感じさせるものであった。
その理由こそ、長期的な少子高齢化によって、新設着工数は激減すると予測されていたからであり、それを「微減」程度に止めるために新築住宅をともかく建てさせようという政策誘導が図られたのである。
本来であれば、徐々に着工数を減らして中古住宅の流通をそこそこのレベルに上げ、リフォームによる価値保全を図っていくという住宅文化を創らなければ、人口減少社会とは釣り合わないはず。しかし、それでは厳しいという住宅生産者の立場を鑑みて、完全にリフォーム産業育成、中古住宅再生へのシフトを切らなかった。
行われたのは、住宅公庫の民営化による住宅ローン証券化事業の国策導入であった。これはアメリカの住宅金融であるファニーメイやフレディマックに倣った住宅ローン制度であった。当時は規制改革を掲げていた小泉政権の時代。アメリカ式の金融商品である住宅ローンの債権を再販して、ノンリコースを実現するという買い手にとっては夢のようなローン商品。後にこれは、サブプライムローンとして知られることになるが、アメリカではやがて信用崩壊してしまい、リーマンショックのきっかけとなったことは有名である。
少なくとも日本では住宅ローン証券の信用崩壊は起きなかった。それは日本人にとっての住宅ローンは、実直な勤務態度を背景にして、「最も安全な債務」と言われていること。そして、アメリカのように完全なノンリコース型とせずに、最後は生命保険でチャラになるという制度設計が担保となったからだ。つまり、金融システムを担保としたアメリカと、個人の命を担保にした日本という違いで、お金の使い方に対する責任感が異なるのだった。
一方でリフォーム施策はどうなったのか。こちらはシンクタンク予想によると、2030年には10兆円~20兆円という規模も出ていたが、ここ2~3年はそれには遠く及ばぬ5~6兆円で横ばいが続く。
リフォーム時代と言っても、結局は現在も強烈な「新築志向」が日本経済を支えている。やはり住宅産業は、戦後からずっとGNPを押し上げる重要分野として不変なのだ。そして新築着工数が減少していても、むしろ着工数が伸びている工務店もたくさんいる。地域工務店が担う「持ち家」「注文住宅」という市場は、そもそも最初から少ない数字。年間棟数でだいたい「20~30万戸」くらいだろう。その他は分譲、建売、マンションなどであり、じっくりと地域に根付いて商売をしていれば、マクロ数字などに振り回されることはない。ましてや、過当競争のリフォームに参入することもない。付加価値型の儲かる仕事をしていけばよい。
エクステリア業界も同様。マクロ数字に振り回されず、顧客第一で地道に仕事をこなしていくこと。そして前向きで賢明な工務店経営者、インテリア産業、商業施設オーナーなどとの付き合いを広げていき、新しく市場創造を心掛けて行くことが肝要である。こうした姿勢は、着工数が減少する時代だからこそ、逆にチャンスを生むのだと言える。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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