新しい非住宅エクステリア市場を創造するランドスケープデザインの可能性

1.商業施設は、人が快適に過ごせる場所として見直す

いま日本の各地でよく見られる商業施設の形は、敷地ギリギリまで建物を建て、塀やフェンスで建物の周囲を囲んで行き、余ったスペースに駐車場や駐輪場を整備するという方法だ。歩道をまたぎ自動車が車列を連ね、それを歩行者が恨めしく見つめながら、周辺道路が渋滞するといった光景は未だに各地で見られる一般的な光景である。

これが象徴するように、高度成長時代以降、日本の公共空間は〝移動〟の合理化が命題であった。その主役は自動車であり土木の世界が中心だった。道路のデザインは自動車移動の効率性が優先されてきた。歩道では、安全面の観点からヨーロッパのようなテープルや椅子を置いてのカフェ営業も出来なかった。
※写真参照(出典:月刊エクステリア・ワークス2018年12月号記事より以下同)

しかし最近、そうした従来型のものとは全く発想の違う商業施設が登場している。従来と一番大きく異なるのは、外部空間デザインだ。直接的には、公園法と道路法の改正がある(これは改めて触れることにして今回は割愛する)のだが、大きな背景としては、少子高齢化と人口減少による生活スタイルの変化がある。

新設住宅着工数が減り、ガソリン燃料の自動車も減ると、敷地が余る。この傾向は住宅産業にも見受けられる。ハウスメーカーの多くは、庭は建物の脇役ではなく、快適に過ごせる場所として再定義している。商業施設も同様、外部空間は人が快適に過ごせる場所として、新たにデザインし直さなければならないと考え始めている。魅力的な外部空間が、その施設の集客に寄与することも分かっている。

 

2.施設の外周やランドスケープ計画の中でエクステリアの感動を広げる

この非住宅市場は、造園会社などが主に手掛けているランドスケープのカテゴリーでもある。そのため、幾多の造園会社が参入し、競合も激しく既に成熟している市場だと誤解されやすい。確かに多くの商業施設や道路には、大きな敷地に立派な植栽や樹木、ベンチだってある。

商業施設や道路には、大きな敷地に立派な植栽や樹木、ベンチがデザインされている

しかしその中で、本当に「人が快適に寛げる」ことを主眼としてデザインされた外部空間は、どれだけあるかと言えば、まだまだ少ないのではないか。非住宅市場をもっと魅力的にするためには、ランドスケープデザインそのものが「主役」となる仕事がどれだけあるかが重要なのではないかと思う。「元請会社の計画図面通り外構と造園を作る」というスタイルでも立派なランドスケープは出来るかもしれないが、これから手掛けるべき仕事は、元請も感動するようなデザインである。提案規模としては、おおまかな施設の外周やランドスケープ計画の中に、細かな居場所を丁寧に作っていくような仕事を提供(提案)するのがエクステリア業界の得意技である。

 

3.非住宅市場の新しい世界を創造するエクステリアの役割は大きい

非住宅市場は、エクステリア業界にとっては、ランドスケープデザインの細分化をもたらすものとも考えられる。それはランドスケープの洗練化につながり、今まで単に「緑を植えるだけ」「塀を建てるだけ」といった下請け的発想を超える。エクステリア業界による〝ランドスケープ革命〟とは過言だろうか・・・。それだけ非住宅の新しい世界を創造するためにエクステリア業界の役割は大きい。本連載ではそのような様々な事例も可能な限り紹介もしていきたい。

著者プロフィール

株式会社住宅環境社
株式会社住宅環境社佐倉慎二郎
佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。