3.そこは駐車場なのか庭なのか、どちらも諦めず豊かな空間に

3回目のテーマは
『そこは駐車場なのか庭なのか、どちらも諦めず豊かな空間に』です。

 

「今の若い人は車を持たない」と言われ始めて久しいですが、新築のエクステリア計画で「駐車場は必要ないです」と言われたことは、まだ一度もありません。車を二台停められるようにしたい。ほとんどの方が、そう言われます。庭よりも駐車スペースの確保が優先されます。

だからと言って、コンクリートで覆われた駐車スペースにしてしまうと外空間を生かした暮らしが広がりません。車を停めるという機能的な要望を叶えつつ少しでも豊かな空間を実現する方法を考えていきたいものです。

コンクリートで地面を覆ってしまうと、その下の土は空気も水も滞り微生物も住めなくなり次第に生気を失って行きます。ご存知のように土は生きています。様々な生物が暮らす豊かな大地がある場所は空気も生き生きしていて、そこで暮らす人に良い影響を与えます。

「人は自然から遠ざかるほど病に近づく」と言ったのは、医学の祖と呼ばれる「ヒポクラテス」紀元前250年のことです。人が生きていく上で自然は必要不可欠なもの。2000年以降「自然欠乏症候群」という言葉も生まれています。毎日の生活の中で少しでも植物や生物と触れ合える機会が生まれる空間づくりも住まいを提案する私たちの仕事だと思います。

住まいの周辺に小さくとも自然を確保するためには土が不可欠。狭小地で庭が確保できない住まいでこそ駐車場に土を残し、緑を取り入れる工夫が必要です。

狭小地では敷地の中に建物をどう建てるか、駐車スペースをどうレイアウトするかが重要になってきます。車を停めることができたらOKと考えるのではなく、その空間をもっと有効活用できる庭となる場所を残す計画を目指します。

【南入り敷地・二台駐車のレイアウト例-A】

ワンボックスと軽自動車の二台を並列で駐車すると、室内から掃き出し窓の外には車のお尻が見えるだけ。内から庭へと繋がる広がりを作るのも難しそうです。(上記のレイアウトAです)

【南入り敷地、二台駐車のレイアウト例-B】

ワンボックスと軽自動車の二台をL形に駐車。掃き出し窓の前にデッキが確保できました。緑を室内から眺めることができ、外からの視線を遮る役割も持たせています。室内から庭へ植物へとつながりも確保できています。デッキと車の間に庭と呼べる空間が生まれました。(上記のレイアウトBです)

【南入り敷地、二台駐車のレイアウト例-C】

建物の形状違い。敷地間口は同じです。建物が建っていない部分の広さもA,Bとほぼ同じです。ワンボックスと軽自動車の二台をL形に駐車。南入りの住宅は道路に向けて窓が設けられることが多く室内のプライバシーを保ちにくく、カーテンや雨戸を閉めっぱなしになることも多い。

玄関を奥に下げ庭を通って入るプランにすると室内と外の一体感を重視した計画が可能になりました。隣地境界に目隠しウォールやパーゴラを設けることで室内と庭のプライバシーがより保たれます。道路から距離をとって確保された庭は安心して過ごせる場所になります。(上記のレイアウトCです)

 

これらよりも、もっと狭小地で全く庭を確保する余裕のない敷地でも植物を育てる場所を見つけることは可能です。10センチほどの隙間があれば様々な植物を育てることが出来ます。

駐車スペースの草目地といえば「タマリュウ」を多く見かけますが、もっと多様な植物を楽しめることを住まい手にも広く知って欲しいと思っています。

駐車スペースの隣地境界沿いに確保した10センチの土部分に灌木や草花など様々な植物を植えました。成長した植物は土間との境界を消し、10センチの隙間に植えただけだとは思えない豊かな表情を作ります。

さらに空間を立体的に捉え植物を上へと誘引していけるようゲートを設けると、大きな樹木を植えるスペースがなくても高さのある緑をデザインすることも可能です。

小さな土のスペースでも植物が育ち、季節ごとに咲く花や春を知らせる新緑を楽しみ、時折のお手入れで癒される時間が生まれてきます。それはもう、庭を持っているのと同じような豊かさを住まい手の暮らしにプラスすることに繋がっているはずです。

駐車場を車を停めるだけの場所に留めず、小さなスペースも見逃さずに土を残し植物を植える。そんなガレージ庭空間が増えれば狭小地が並ぶ街なみも変わり始めると思うのです。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。

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