『わたしの経験談』6回シリーズのご案内

「建物からの目線でエクステリアを考える」の6回シリーズを読んでいただきありがとうございました。

今回からは、私が経験から学んだことや気づいたこと上手くいったこと反省が残ることなど、経験談を書かせていただきます。今回も6回シリーズです。

よろしくお願いいたします。

 

1回目
【 ご主人の信頼を得る方法を見つけた日 】

私自身が若かったころ、人生経験を積まれた住まい手への提案は、とても緊張するものでした。いえ、今でも初めてのプレゼンテーションは「住まい手の思いをきちんと汲み取れているか」が露わになるので緊張します。

今ではエクステリア業界も女性がたくさん従事されていますが、当時の仕事場にはまだまだ男性が多く女性は少なかった。住まい手は女性である私が担当で不安ではないだろうか?信頼していただけるだろうか?そう思うこともありました。

まだ、そんな思いがある頃にご縁をいただいた、相続された家の建替え案件。エクステリア計画は、道路に面した外構部分と主庭。庭は和室前に既存庭の素材を残し、生かした和庭を。そして、リビング前にはアウトドアリビングとなる庭を。

この案件でご主人に信頼していただくには何が必要なのか、気づきを得ることになります。

新築される家は、大きな建物なのですが外構部分のスペースに余裕はありません。敷地いっぱいに家が建ち外構のことはあまり考えられていない、ありがちなエクステリアデザイナー泣かせの建物計画です。

玄関扉を開けて外に出る時に道ゆく人と視線が合ってしまいそう。アプローチが窮屈。建物にふさわしい外構を作ることができるのか。住まい手は、いくつかの不安要素を持っていました。

建築の設計士さんは、ポーチ両サイドの柱の間を抜けて玄関の正面から入るアプローチをイメージしていたようです。ですが、そうすると門扉をどこにつけましょう?奥行きが足りません。そこで、しっかり門周りを設けることができる場所にアプローチを繋ぐことにしました。

建物の外壁とポーチ柱の間を抜けるアプローチ。通路幅は900mm程度しかないので狭いです。その狭さを感じさせないように階段を斜めに設けました。階段幅が長くなるので隙間を抜ける感じは意識しなくなります。さらに横に続くラインで花壇を設け長さを強調します。このプランのポイントは、斜めの階段と広げたポーチ形状なのですが、ご主人の反応が一番良かったのは別の部分。

丸で囲んだ部分にある曲線の壁です。玄関扉の前をできるだけ広くゆとりを感じさせる場にしたくて、できるだけ壁の内側に空間を確保しました。その場を囲み、道ゆく人との視線を遮る役目もある壁。曲線は建物の一部を構成する曲面と同じ半径としました。

壁のラインや床仕上げの切り替えなど、図面上に線を引くときはいつも、その線を引く根拠を探します。この計画では建物のデザインを取り入れました。曲線のサイズだけでなく仕上げ材やスリットデザインも合わせています。

この外構計画で目指したのは立派な門構えや注目を引くエクステリアデザインではなく、外構部分が建物と一体となり、どこまでが建物でどこからが外構なのか境目が曖昧なデザインです。この家を素敵に見せるには、それが最適と考えました。

なぜ、この壁になるのか。なぜ、このアプローチになるのか。なぜ、門扉の位置はここなのか。ひとつひとつの理由と共に説明をしていくと「なるほどね」とご主人も納得。最初の提案からほとんどプラン変更もなくスムーズに進みました。

根拠のあるデザインが住まい手の不安を取り除き、信頼していただける一歩になるのだと強く感じた案件でした。

初回打ち合わせの時、ご主人が古い写真を見せてくれました。庭で撮られたモノクロ写真には家族写真や1歳くらいの男の子の姿が。幼い頃の、ご主人の写真です。昔の庭の様子を私に見てもらいたかったのでしょう。そして、ご自身が生まれた時から当たり前にあった庭、灯篭や景石や敷石・樹木・・・それらをできるだけ残したいという思いを伝えたいのだと受け取りました。

和庭のスペースは既存の1/3くらいになってしまうので、全てを再利用することはできませんでしたが、石材は既存の使われ方に関わらず床に敷いたり土留めにしたり、灯篭や景石も少し詰め込み気味にデザインに取り込みました。住まい手の思いを汲み取れたことも信頼へと繋がったのだと思います。

 

現在進行中の新築エクステリアの造園部分だけ携わることになった物件では、外構業者との調整が多発したのですが、住まい手から「根拠と意図が明確な冨田さんの案で」と言っていただき、その大切さを改めて実感しています。

こんな反応をされるのは大抵、ご主人です。男性は雰囲気やイメージだけでなく「根拠と意図」に納得される方が多いです。

奥様と進める打ち合わせと、ご主人と進める打ち合わせで大きく内容が異なるわけではないのですが、話の広がり方が女性と男性では違いますね。

次回は奥様との関係性について書いてみたいと思います。

著者プロフィール

冨田ちなみ
冨田ちなみGokansha(ゴカンシャ)
個人住宅の庭・外構や店舗のエントランスガーデンなど、あなたのライフスタイルに調和する外空間のデザインするGokansha(ゴカンシャ)代表。
二級建築士、インテリアコーディネーター、二級造園施工管理技士、福祉住環境コーディネーター、園芸療法リーダー二級、ハーブコーディネーターなど様々な資格を持ち、建築士でもあるため住宅目線・エクステリア目線・ガーデン目線、それぞれの記事を発信いたします。

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