複合施設の「屋上緑化や壁面緑化」導入フェーズは、省エネ環境問題から人の癒し追求ステージに移行している。

世界的に成長する人工植物市場

この数年、日本では地球温暖化対策を意識した複合施設やオフィスビルの緑化が進んでいる。特に無機質な空間を「屋上庭園化」「壁面緑化」する動きは活発だ。そしてこの傾向は世界的なものだということも分かってきた。

民間調査会社のグローバルインフォメーションによる市場調査レポート「人工植物市場:現状分析と予測(2021年~2027年)」によると、世界の人工植物市場は、2020年に7億ドル規模に達したという。また2021年から2027年にかけて、市場は年平均5%の成長率で推移すると予測されている。この背景には、共働き夫婦の増加や核家族化などによる可処分所得の増加に伴うインテリアデザイン重視の傾向があるとの分析だ。

年々進化する壁面緑化(写真提供:㈱グリーンフィールド)

背景に人工植物の施工性、耐久性、デザイン性の進化

日本でも最近は商業施設やホテルなどで「壁面緑化」が多く取り入れられるようになっている。自然素材では「ヘデラヘリックス」や「へデラカナリエシス」など環境適応能力の高い植物や、つる植物などが採用されることが多く、自由度の高い表現をすることが可能になる。

その一方で、市場をけん引するのは、多種多様な人工植物の進化である。基本的にノーメンテナンスであることや施工性、耐久性といった面から、室内のみならず屋外の壁面でもかなり見られるようになってきた。

壁面や側面の緑化は、これまでホテルやカフェなど商業施設を中心におこなわれてきた手法だった。しかし最近では、簡易的な施工性や商品バリエーションの増加などによって、一般的なオフィスや病院、公共施設などでも導入される事例が増えている。

最新の人工芝には抗菌性が含まれており、細菌やバクテリアの拡散を防ぐことができる。さらに天然芝とは異なり、有害な農薬にさらされていないため、子供にもペットにも優しい製品であることが支持されている。

 

緑化の実力―〝夜景〟よりも〝緑〟の方がストレス減の調査結果も

複合施設の緑化は当初、ヒートアイランド現象の抑制や断熱保湿効果によって施設自体の省エネ化を促進するという環境対応的なことが第一義として進められてきた。そのため自然素材を中心に苦心が重ねられてきたもののきて、枯れ問題やメンテナンス対応の面倒くささから爆発的な普及が進まなかった面もある。

しかし現在は、環境問題的な側面よりも、むしろ緑の色彩そのものが視覚に与える影響や、「訪れた人の心を豊かにする」といった人間の快適性に重きを置いた導入モチベーションの方へとフェーズが移行している。人工植物の進化、そして工法の進化があり、コロナ禍において屋上緑化・壁面緑化は次のステージへと移ったと言える。

2019年10月に発表された(公社)日本都市計画学会・都市計画論文集に、「二子玉川ライズ・ルーフガーデン」の屋上緑化空間が人々に与える整理・心理的効果についての研究論文がある※。

それによると、同施設にて被験者(20歳〜32歳)に一定のストレスを与え、その後ストレスがどのように軽減するのかを観察する実験がおこなわれた。同施設は夜景が見渡せる「展望デッキ」、芝生の原っぱ広場、めだか池の観察できる「めだか池」、植栽が植えられたビオトープ的な要素のある「青空デッキ」の4つのエリアが売りの施設である。

被験者にストレスを与える実験の後、この4つのエリアを散策してもらった。その結果、ストレスに関する数値を特定すると、緑の立体的なビオトープのある「青空デッキ」は、「展望デッキ」に比べストレスを軽減する効果があることが分かった。4つのエリアはどれもリラックスできる空間であるが、その中でも、とりわけ〝植栽の多い空間〟が〝夜景を見渡せる空間〟よりも、よりストレスを緩和させることが判明したという。

※「14 複合再開発に伴い整備された屋上緑化空間のゾーンに応じた夜間利用が利用者に与える生理・心理的効果―二子玉川ライズ・ルーフガーデンを対象として」(公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集Vol.54№3 2019年10月 横田樹広)

 

緑化単発ではなく、空間を立体的なゾーン配置することが重要

実験結果では、屋上緑化が抑うつ効果に影響を与えていただけではない。環境をゾーニングすることで、複合的な効果があることも判明している。

二子玉川ライズ・ルーフガーデンでは、ビオトーブ空間と植栽された通路デッキを繋ぎ合わせ、池のエリアへとつなぎ合わせている。空間スケールを意識した庭園の設計が、結果的に人々に安らぎを与え、さらに、ストレス緩和につなげることができたと評価されている。

つまり、緑化は単発で実施するのではなく、他のスペースとの複合的な関係性を作り、人の動線を考えるデザインを計画することで、より効果的になるということだ。そうなると当然、人が寛げる場所に日除けやファニチャーを設置するといったエクステリアデザインの重要性も高まってくる。

最近はエクステリア業界にも扱いやすく施工性の良い人工植物、ビオトープの他、ファニチャー、ライティング(照明)等の周辺商材などが多様な選択肢として用意されている。これらを様々な商業施設や無機質なビル空間などで複合的に用いデザインしていくことも、今後のエクステリア業界のビジネスの種になるのではないかと思う。

著者プロフィール

株式会社住宅環境社
株式会社住宅環境社佐倉慎二郎
佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。