【後編】 建築家と協働して、現代建築や現代デザインの流れと一致する、「モダンランドスケープデザイン」と呼べるような環境を作りたい。
Q日本でデザインするときの設計ポイントなどを教えてください。
日本のランドスケープデザインでは、建築家のコンクリート打ち放しなどのモダンなデザインの建物の外構を担当させていただく場合が多いので、建築のデザインに合うシンプルな外構を心がけています。建築物と同様に外構もシンプルにすることで、植物が豊かに浮かび上がってくるようなデザインです。
シンプルな建築物と外構の環境の中では、植物一本一本の形や色が強調されて、より美しく見えてきます。
建築家の建物の場合、外構の構造物は概ね建築設計者が決めている場合も多く、特に植栽設計に期待されている部分が大きいと感じます。こちらから構造物の提案を出す場合は、やはり建築設計者に共感してもらえるような、建物に合うデザインというのが強く求められていると感じます。
Q作品例はホームページでみられますか?
下の写真は、コンクリート造のマンションの外構の事例です。シンプルなキューブ状の建築に合わせ、外構もコンクリートやモルタルの質感で統一することで、植栽だけが浮かび上がってきます。植物は日本の植物を主として、株立ちの繊細なイメージで樹形や葉の形や色を楽しめる樹種を選定しました。
建築と植物がお互いを引き立て合い、シンプルながら環境の豊かさを強く感じられる計画となりました。
Q建築家とのマッチングというか、どう共同してコラボして作っていくかという視点がないとなかなかできない。ぶつかりあうことなどもあるのでしょうか?
建築家の側も現在は豊かな緑を建築空間に取り込みたいと考えている方が多くなっていると感じています。私も建築学科出身のため、緑豊かな現代建築という方向性は一致することが多く、ぶつかり合うというよりは、協働して緑を取り込んだ現代建築を作っている感覚です。
建築家と協働して、現代建築や現代デザインの流れと一致する、「モダンランドスケープデザイン」と呼べるような環境を作りたいと考えています。
日本の伝統的な造園というよりは、アメリカの伝統からくるモダンランドスケープに連なるデザインをやりたいと考えています。
少し日本の伝統造園文化とは切り離された、モダンデザインの流れの範疇に入るようなエクステリアを実現したいのです。
Qモダンランドスケープの視点で壁やゲート、玄関へのアプローチ空間を考えると、従来の商品と違ってこういう視点がというのはどういうふうに考えていますか?
モダンデザインという観点でみると、使いたいエクステリア商品というのは少なく、それであまり使っていないという側面もあります。それはデザインにこだわる建築家たちも同じような考えを持っているのではないかと思います。他のメーカーについても同じです。アルミだから使いたくないというのではなくて、アルミ製等の既製品の中に使いたいデザインのものが少なかったように思います。最近では各社格段にデザインや素材感が良くなって来ていると感じます。アルミのフェンスやハンドレールの場合、やはり端部にはキャップや支持部材がついています。アルミの部材自体はきれいでも、何かデザインを妨げるものが副資材として結構目立っているものが多いように感じます。そのような物が一切無く、フェンスの桟や手摺のレールだけが見えるような形のデザインがあれば使いたくなると思うのです。
エクステリアの既製品の多くは、設計者に選ばれるというよりは、一般的な消費者の方に選んでもらうための商品が多いようにも見えます。設計しゃであれば、アルミならばアルミのシルバーの素材感のまま、ものすごく細く見えるようなフェンスや、何も飾り気のない丸鋼を並べたようなフェンスが商品としてあれば、すごく使いたくなるかと思います。耐久性を考えると難しいのかもしれませんが。
Qエクステリア商品でよく用いられるアルミの素材についてはどう評価されていますか?
エクステリア製品の場合、本物の素材感の良さを感じられるような商品が少なく、アルミならアルミに見え、木目調のものなら本当の木に見えるような製品がもっと出てくるといいなと思います。例えばプロダクトの世界では、無印良品の製品のアルミやステンレスの使い方は素材感が強く感じられるようなデザインとなっています。
アルミそのものシルバーの素材感は好きです。また最近では、木目調のアルミフェンスにも魅力を感じます。素材感が感じられ、ディテールの少ないシンプルなデザインの製品を使いたくなります。機能的にはアルミが一番コストパフォーマンスと耐久性とでニーズとしては一番大きいので、デザインと機能性の両立がさらに進むと良いと思います。
Qこういうデザインが面白いというがあれば教えてください。
つい最近良くなってきているのですが、エクステリア関係の商品のデザインは、ヨーロッパのエクステリア商品と比べ、日本の製品はあまりデザインが良くなかったように感じます。ずっともう少し何とかならないかなと感じ続けていました。これまで輸入品ならば使いたいものがたくさんありましたが、国内に限ると急に無くなってしまっていました。ただコストは輸入品だと国内製品の何倍もするので、それもそれでなかなか使えませんでした。ヨーロッパの製品は、やはり現地の古い街並みに置いても相応しいデザインのものが多く、エクステリア製品にかける意気込みが異なると感じていました。
また、街に緑を増やすためのエクステリア商品が増えると良いなと思います。
特に緑化フェンスに多様なデザインのものが増えると面白くなるのではないでしょうか。植物を絡ませて緑化できるフェンスや門・ポスト柱等のバリエーションが増えたら良いなと考えています。
エクステリア商品の素材自体は木目調の質感の可能性がとても広がってきて、すごく大きく変わってきたと感じています。
Q実際、フェンスはどのように採用が決まるのでしょうか?
やはり長大な境界部分を何かで仕切らなければならない場合、既製品のフェンスが最もコストパフォーマンスの良い選択枝となります。
Qエクステリアの意味について教えてください。
エクステリアの価値は、建築物のように明確な形のあるものと異なり、体験して初めて感じられる種類の価値で、はっきりとは感じにくいものかと思います。しかしエクステリアがきちんとデザインされている施設は、建物全体が美しく見えたり、中に入った時に安らぎや安心感を感じられる空間となり、環境全体のグレードが上がるような感覚があります。
特に建築設計者がデザインした建物に我々が外構設計者として関わり、敷地の隅々までデザインされた環境が出来上がった時、最も環境全体の価値が上がっているように感じます。姿の良い草木をたくさん植え、建物と調和するデザインのフェンスや構造物も全部揃えると、全体の体験として全然違うのです。
もっとエクステリア設計者があらゆる施設の設計に関わるようになると、街全体が良くなってゆくと考えています。
Q開発フローを考えるときに、古川さんが入っていくのは、本体の建築の設計ができ、実施もだいたい出来上がっていて、そこから外構を考えてということになるのでしょうか?
初めての建築家の方との仕事の場合、建築の設計ができていて、最後に外構をデザインさせていただく場合がほとんどですが、2回目からは、建築の最初の提案を出す時点から関わらせていただける場合が多いです。最初の提案から関わらせていただけると、庭を密接に組み込んだ建築のプランが実現できます。
Qニュータウンのようなものだと、外構の費用は何十万単位だと何もできないですよね。
分譲住宅のプロジェクトの場合は、ディベロッパーがやはり建築も外構も力を入れたいプロジェクトの場合に関わらせていただいています。
Qエクステリア商品、製品を選ぶときには、それでも既存のものを使ってみようと考えるときがあるのではないかと思いますが。性能とかデザインとか施工性とか価格とか、何で選んでいますか?
エクステリア商品は、やはり価格の魅力が大きいです。そしてデザインが最もシンプルなものを好んで使わせていただいています。また、最近ではシンプルな木目調のフェンス等の商品に魅力を感じています。
Qメーカーの評価を教えてください。
YKKはエクステリアメーカーの中では、デザインが良いイメージがあります。戸建て用のカーポート、小さなマンション用のフェンスなどを使わせていただいています。
エクステリア商品の中では、特にメッシュフェンスは非常に多く使われていますが、各社似たデザインのものが多いので、メッシュフェンスのバリエーションが増えたり、デザインが良くなれば、日本全体の景観が良くなると感じます。
Q防火、防災、防犯という視点からみたエクステリア商品の評価を教えてください。
防犯性と言っても、全く入れなくするというよりは、フェンスがあることによる安心感が求められていると感じます。
また、入れないが見通せるという、住宅周りで求められる微妙な防犯性を実現するには、アルミフェンスは最適と思われます。
Q建物と一体、街並みと一体、シンプルデザイン、全体で考えるときに大事なことは?
体験した人が、建築から庭や街まで繋がっていると実感できる環境をつくることが重要だと考えています。
内から外までデザインが全部繋がっていると感じられるためには、一つは建物内から庭までの素材感やデザインが統一されていることが大切だと感じています。
建物やランドスケープ・インテリア等、様々なタイプの物件を手掛けているのですが、建物だけ・ランドスケープだけを設計する場合と、環境全体の全てをデザインできる場合とで、何が違うのかということをよく考えます。建物の中から外まで全部統一したデザインで繋げるというのは、イメージとしては簡単なのですが、実際に繋がっていると感じさせるのはすごく難しいことだと思います。全部一緒にデザインしていれば繋がるわけではなく、中から外まで素材感やデザインのすべてが関連を持って設計されていないと、訪れた人が繋がっていると感じられないのではないでしょうか。
環境全体繋がっていると感じられるためには、一つは構造物のデザインと材料が全部繋がっていること、建物のインテリアから外までの素材感が全部統一される必要があります。
もう一つは、やはり植物が重要だと考えています。植物を敷地内に可能な限りたくさん取り込むことで、安らぎを感じられる空間を実現することができます。建物内部からは豊かな庭を眺め、外観でも緑が建物と庭や街を繋ぎ、環境全体が調和した一体のものだと感じさせてくれるのです。
コンクリートの建築物だけだと、建物と周辺環境が繋がっているようにはまるで感じないのですが、周囲に木が植わっていて建物が緑の間から見え隠れして、中からは緑を眺めて楽しむことができて、しかも植物がインテリアの方まで入り込んですぐ近くまで緑に囲まれていると、ようやく環境全体が中から外までつながっていると感じられるのではないかと思います。
最新は商業施設などでも緑をたくさん取り込んだ施設が増えてきていて、とても良い傾向だと感じます。これまでは豊かな環境だと感じる施設は少なかったため、緑を入れれば入れるほど、これまでにあまりなかった新鮮な感覚の施設だと感じられます。
緑豊かな環境を少しづつでも増やしてゆくことで、街全体を豊かで心和むより良い環境に変えていけると思います。
古川亮太郎
株式会社フルカワデザインオフィス一級建築士事務所 代表
略歴:
1998 早稲田大学理工学部建築学科卒業
2000 早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了
(建設工学都市計画専攻戸沼研究室)
2000-2007 ㈱日本総合計画研究所
建築設計・ランドスケープデザイン・都市計画を手がける
2007 フルカワデザインオフィス一級建築士事務所設立
2013 株式会社フルカワデザインオフィス設立
著者プロフィール
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