【前編】大学や自治体などとのプロジェクトほか、建築家と強いパートナー関係をもって取り組んでいるランドスケープデザイン事務所に聞く。
Q まず、「リソルの森」のコンセプトや展開計画などを教えてください。
(三谷さま)
「リソルの森」は、グランヴォースパヴィレッジとしてホームページに掲載していますが、鈴木と三谷とでプロジェクトを進めています。
リソルの森は、もともと千葉大学のコミュニティー・イノベーションオフィスが中心となったCCRC(Continuing Care Retirement Community)高齢者対応環境創生、高齢者が健康寿命を延ばせるような街づくりという研究に端を発していて、リソルの森もひとつの対象です。大きな森、いい環境を持っているので、それを活用した住空間を作りましょうという大きな研究プロジェクトと実施プロジェクトが進んでいました。
CCRCの研究プロジェクトの一環として、旧来のリゾート的宿泊施設としてリゾートで自然の中に出ていくというよりも、緑の多いところの中で暮らし、暮らし方や生活スタイルを体験学習する、そういうことを楽しんで自分たちの家にもちょっと緑がある方が元気になるなとか、庭で園芸をやってみたいなと思ってもらう、そういう動機づけを含んだ宿泊体験ができるリゾート施設です。
(鈴木さま)
リソルの森自体は千葉県長柄町と茂原市にまたがっていて、大半は長柄町に位置しています。2つのゴルフ場とリソルの森の敷地全体をスポーツ系の宿泊施設として、色々な学校が合宿などで利用している場所でした。その一角で、合宿所として使っていたコテージが何棟か建っていた「もみじの里」という名前のエリアがありました。それが計画地のエリアです。広さは1.7haくらいでしょうか。リソルの森自体は30haと大きいですが、このエリアはプールまで含めると3~3.5haほどの広さです。以前からここには「トリニティ書斎」というホテルが別にあって、そこと一緒に宿泊者もプールを利用でき、夏は町民にも開放されています。CCRCを展開する前に、そこに温泉を掘った温泉を利用して、温浴施設と共にまずはこの場所でグランピングと最近呼ばれているグラマラス(魅惑的な)キャンプができるような場所を作って欲しいということでプロジェクトが始まりました。
(三谷さま)
リソルの森の事業計画として、もともと古いコテージが沢山あったのですが、それを全部、建て直す代わりに改修はするけれども、ランドスケープのほうを良くすることで付加価値を高めたいというお話でした。外空間を魅力的にしていい宿泊になるというのは、大学の研究プロジェクトとしても合致したし、我々の設計理念としてもランドスケープが頑張ることで価値が上がるということはいい形だと思って始めたプロジェクトです。
古い建物はそのままで、何棟か撤去したところにグランピングのテントを2種類つくりました。
(鈴木さま)
考え方として、3つの柱があります。ひとつはプライベートなコテージの前に、今までパブリックな場所だけだった部分に、提案としてセミパブリックを間に挟見込むことで、客室、ゲストが過ごせる場所を外にも広げます。
2つ目は、つつじ等が生えていてあまり人が入れない雑木林に、人が入れるようにすることで、アクティビティが展開できるような場所をつくるということ。
3つ目は既存のプールを景色になるようにして活用し、これはまだできていませんが、冬も池として見ながら過ごせる場所をつくっていったらいいのではないかと提案させていただいています。
さらには地域の連携のようなものも提案しています。グランヴォーの公道に面した広場に、朝市や花のマーケット、パン工房をつくったりして地元の花卉栽培農家や、野菜を生産している農家などとも連携して地域自体も盛り上げていこうという提案もしています。それを使ってここで過ごす人達がその食材を使ってBBQなどを展開するということも提案していましたが、この中で花とハーブの展開は実現することできました。それは千葉大学の岩崎寛(いわさきゆたか)先生という園芸療法などを研究なさっている方がいますが、その先生と一緒に動いています。ハーブはチェックイン時に自分の好きなハーブを選び、それをチェックイン後にゲストルームに移動したときに指定したハーブが備え付けられていて、それを取って食べたり持ち帰ったりして活用できるような展開をしたら面白いんじゃないかと。そういう滞在を盛り上げるソフトと組み合わさった提案をいろいろやっています。
(三谷さま)
自分で選択したり活動したり、ちょっとクッキングしたり、クリエイティビティが人間を元気にするのだという、そのプログラムがないと空間だけ良くしてもしょうがない。享受型、消費型の空間ではなくて、自分で働きかける能動型にできないかというのがコンセプトです。
(鈴木さま)
今まではつつじと雑木林しかなかったランドスケープで、どんな活動をしたら楽しくなるのかというあたりも提案させていただいています。共同キッチンを作って調理したり、ブックカフェのようなライブラリーを作って森の中で本を読んだり、ハンモックでお茶したり、芝生でヨガをしたり、いろんな事ができる仕掛けをここに作っていったら滞在自体が魅力的になっていくということで提案させて頂きました。
この中で実現したのと、これからまだ作らなくてはいけないものとありますが。実現したものとしてはタワーキッチン、ブックカフェ、ハンモックカフェ、ヨガステーションです。広場のパン工房やプールとセットの温浴ステーション、足湯は将来計画となっています。温泉は掘ったら出たのでバーと併設された温浴施設も作っています。グランピングがテーマなので、各部屋に水場は作らず、あってもシャワーのみとし、大きな温浴施設を楽しみながら利用できるようになっています。
(鈴木さま)
白い屋根がテントです。既存のログハウスがあったところに、宿泊形態としてテントで過ごせる場所を作りました。中央に見えるのはタワーキッチンです。このテント自体、弊社で建築設計まで行い、特許まで取っています。クライアントからも台風になったら普通のテントはたたまないといけない。それは大変なので、なんとか台風でも建っていられるテントを設計して欲しいという要望でつくりました。
写真はタワーキッチンで、キッチンの中から大テーブルが伸びています。上にはタープが張ってあります。この横には火がくべられるところがあって、焚火も楽しめます。普段はタワーキッチンの扉は開いていますが台風時には閉めることもできます。
下の写真はタワーキッチンが右側にあって、隣接する谷側に向いて過ごせるカウンターやデッキが仕込まれています。
もう少し奥にいくと林の中にまたテントが展開していきます。
ここはハーブを中で栽培できるようになっているフラワーベッドです。
奥のログハウスでは、外に部屋に接続する自分たちの空間としての庭をつくり、そこでバーベキューをしている様子です。ここが先ほどお話ししたセミプライベート空間です。
(三谷さま)
改修前はこのような感じで木がうっそうとしていました。ここが部屋の入口ですが、もう部屋に入ったらそこだけが宿泊スペースみたいな。誰も外にでてこないので、そこの前に庭を作ったらいいのではないかと考えました。入口を出たら庭だと。現場で1棟1棟見ながらこのくらいの大きさにしようと決めていきました。屋外の座敷のようにして、屋外で過ごせる場所を設定して、きちんとしたアプローチも飛び石で作ってあげました。すると、同じ宿泊料でここも自分の領域という感じです。全体の風景としても庭が連続している。人が出てきて、そこでバーベキューをしたり、ちょっと座っている、人がいる風景、人がいる場所にするという設計としました。
あるエリアでは、お互いに部屋が向かい合って、プライバシーを保ちたいがために樹木で一生懸命にふさいでいたのです。それを整理してしまって、どうせ向いあっているなら、みんなで出てきて使う場所にしましょうとデッキを張ったのが大デッキのエリアです。根太を組んで、主要な樹木は残し、タープをかけてその木陰で過ごす。するとみんな出てくる。この辺の家具が、ちょっと工夫されていて、わざと四角ではないテーブルを組み合わせるといろんな形になるようなものを試したりしました。
(鈴木さま)
そんな感じで、外の価値をどう高めて過ごせる場所を作れるかというのは、我々はいつも課題にしているところです。そのようなことをいつも考えながら設計しています。
これは、長期滞在というのも目的の一つになっていて、企業がコテージ自体を何棟か借り、森の中で仕事ができる空間として使えるようにしました。例えばここはログハウスで、客室前の空間に、タープを張って外で過ごせる場所を作っています。その向こうには、会議が展開できるような場をしつらえ、台形のテーブルを四角にレイアウトしたり、長方形にレイアウトしたり、いろんな座り方や会議の仕方を展開できるようにしました。
Q 家具はほとんど御社で作られるのですか?
(鈴木さま)
そうです。うちはランドスケープ事務所ですが、外で過ごせる家具などのプロダクトもデザインしています。
Q ある程度メーカーと組んで、量産しているものもありますか?
(鈴木さま)
ときどきやっています。テント自体は1品1品特注でつくっていますが、商品として販売しているようなものは、例えば、黒い鋳鉄のグレーチング側溝蓋とマンホールの蓋です。
(三谷さま)
側溝の蓋で、さりげなくていいのがなかったので、うちで作ってしまったのです。公共のものはお花の柄があったり、字が書いてあったり。他に風で飛ばないように重いベンチなど戸田がデザインしました。プロジェクトごとに必要だと思われるものは、デザインしますが、これは汎用性があるなと思うとメーカーがちょっと商品にしたいという時があります。そうすると他の方も我々がシンプルなものをつくるので、さりげなく使ってくれています。
Q YKK APと商品化したことはありますか?
(戸田さま)
YKKAPさんとはまだありませんね。
YKKAPさんは(株)プランツアソシエイツの宮崎浩さんがいろいろとずっと製品を作られていました。一時期良い製品があったのだけれど、最近カタログからなくなってしまいました。
(三谷さま)
千葉大学環境健康学の岩崎先生の指導で、ハーブを自由に摘める畑を作って、そこで摘んでハンモックで寝そべる場所をつくりました。ハンモックは使わないときもあるので、ハンモックラック自体が使わずに置いてあっても、風景になるようなものがなかなかないのです。結構、ジョイントが煩雑で不格好なものが多いです。これも今回我々がデザインしています。さりげなくパイプだけで作っています。
Q 先ほどのテントも常設になっているのでしょうか?
(三谷さま)
そうです。テントなのに台風に耐えるようにしてくれと言われました。
Q どのような形で持たせているのでしょうか?
(鈴木さま)
結論からいうと建築にせざるを得なかったです。基礎の上に、柱を木で組んでいます。テントの膜で覆いました。張力で持っています。
(三谷さま)
幕を張ったら、木の影がとてもきれいで。外が見えない分、逆に外界の動きを感じます。これはいい空間ができたなと思いました。
(鈴木さま)
建築的には、窓をつけなくてはいけなかったので、天窓をつけて寝転がったら、星も見えるという形にしました。
(三谷さま)
先ほど話しましたように、大学と継続していたので、園路を舗装するときに、ここにいる動物の勉強をしてもらうため、いろんな鳥や動物の足跡をわざとスタンプで押すワークショップを学生とやりました。これは狸の足跡ですが、ある日、同じところに本物の狸が歩いて足跡をつけたハプニングもありました。
鈴木裕治
オンサイト計画設計事務所取締役パートナー/管理建築士
略歴 :関東学院大学建築学科環境デザインクラス卒業。ササキ・エンバイロメント・デザイン・オフィスに従事後オンサイト計画設計事務所設立。首都大学東京、明治大学兼任講師を経て、現在東京電機大学、千葉大学で非常勤講師として教鞭をとる。「星のや」、「横浜市役所」「あべのハルカス」などで「土木学会デザイン賞」「屋上・壁面・特殊緑化技術コンクール」「グッドデザイン賞」など他多数受賞。登録ランドスケープアーキテクト/RLA、一級建築士、自然再生士、一級造園施工管理技師などの資格をもつ。
現在の活動:現在は設計活動と教育のほか、一般社団法人日本ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU)の常任理事としてランドスケープの認知度を高め技術を向上する活動に取り組んでいる。
三谷徹(登録ランドスケープアーキテクト)
東京大学建築学専攻教授/オンサイト計画設計事務所アドバイザー
略歴:ハーバード大学GSDランドスケープアーキテクチュア修士、東京大学博士(工学)。オンサイト計画設計事務所設立後、滋賀県立大学、千葉大学、現職東京大学にて教鞭を執る。「風の丘」、「品川セントラルガーデン」、「柏の葉キャンパスシティー駅前広場」などで、グッドデザイン賞、日本造園学会作品賞、都市緑化機構賞など受賞。
現在の活動:設計活動とともに、大学にてランドスケープ学教育の研究室を開き、造園系、建築系の若い世代に、ランドスケープ設計論の教育を行う。
戸田知佐(登録ランドスケープアーキテクト・技術士)
オンサイト計画設計事務所取締役パートナー/多摩美術大学非常勤講師
略歴:東京造形大学美術学科卒業、ハーバード大学GSDランドスケープアーキテクチュア修士。オンサイト計画設計事務所設立後、「品川セントラルガーデン」、「諏訪2丁目建替計画Brillia多摩ニュータウンL A」「長野県立美術館」などで、グッドデザイン賞、日本造園学会作品賞、長野市景観賞など受賞。
現在の活動:都市広場、庭のデザイン、サイトプランニング、地域の森づくり、まちづくりなど、幅広いスケールのランドスケープデザインの実現に取り組んでいる。
著者プロフィール
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