車中心の社会から、いよいよ人が主役の〝道路〟革命、各地で始まる

激しく車が行き交う道路の車道を縮小し、その分人が心地よく過ごせる歩道を増やし、そこを人が快適に過ごせる場所として提供する〝道路革命〟が、各地で産声を上げ始めている。

■大阪市「御堂筋チャレンジ」で道路の側道を歩行者空間化

大阪市では、市の象徴でもあるメインストリート「御堂筋」において、今年10月15日~11月13日の期間、「御堂筋チャレンジ」を掲げ、道路の側道を歩行者空間化する取り組み(社会実験)を実施している。実施主体は、沿道の不動産オーナーらが連携して作った「ミナミ御堂筋の会」、同会は大阪市指定の道路協力団体としてその役割を担っている。

歩道を拡幅し、その空間にベンチや移動式店舗などを設置することで、沿道の店舗の賑わいが創出できる。歩道をひろげる整備は道頓堀川~千日前通の「2期区間」が完成し、長堀通~道頓堀川の「3期区間」まで拡大。そして10月に側道を閉鎖し、工事に向けて影響を検証する運び。

大阪市は「御堂筋将来ビジョン」を2017年より掲げ、〝世界最新モデルとなる、人中心のストリートへ〟〝みちからまちを変えていく〟を宣言している。その後、御堂筋を柔軟に使いこなしていく新たな制度「歩行者利便増進道路」区間として、2017年から沿道の「道路協力団体」による多彩な社会実験を積み重ねてきた。今回の社会実験では、『2025めざして御堂筋のシクミをつくる社会実験』(※2025年は大阪・関西万博)を標榜し、これまでの「御堂筋チャレンジ」からさらに範囲を広げ、整備済区間での将来形・整備予定区間での利活用の実験を通じて、官民連携によるストリート運営のしくみづくりを目指す。

車中心の社会から、いよいよ人が主役の〝道路〟革命、各地で始まる

人が中心のストリートのイメージ(御堂筋 将来ビジョンより)

車中心の社会から、いよいよ人が主役の〝道路〟革命、各地で始まる

 

■東京・お茶の水でも「恒常的な歩行者天国化」の取り組み

昔から日本の〝カルチェラタン〟としての文化を持つ東京・お茶の⽔でも、現在、歩⾏者天国化に向けた実験と調査の実施が始まった。

東京都千代⽥区では2022年にウォーカブルなまちづくりを推進するため、「ウォーカブルまちづくりデザイン」を策定。そして「地域主導のウォーカブルな活動(プレイスメイキング等の実証実験)」を公募。その結果、お茶の⽔茗渓通り会、⽇本⼤学理⼯学部建築学科都市計画研究室(泉⼭ゼミ)及び、⼀般社団法⼈ソトノバによる、茗渓通り(東京都千代⽥区・神⽥駿河台)の恒常的な歩⾏者天国化に向けた検討プロジェクト「ストリートライフお茶の⽔」が採択された。採択を踏まえて、このほど「茗渓通りの⽇常的な歩⾏者天国化の調査検証」(10月15日~16日)、「茗渓通りの歩⾏者天国時の滞留空間の可能性を探る実験」(10月22日~23日)を実施することとなった。

そして現在、茗渓通りでは恒常的な歩⾏者天国化を検討しており、ストリートの安全性や滞在性の向上が期待されている。現在、歩⾏者交通量の多い茗渓通りは8時~9時(平⽇のみ)、12時~13時、22時~5時の間、歩⾏者天国(時間帯⼀般⾞規制)にしている。また茗渓通りでは、これまで毎秋・休⽇2⽇間に「お茶の⽔アートピクニック」という商店会と学⽣が連携した野外アートイベントを18回にわたり⾏ってきた。

今回の実証実験の目的は、①茗渓通りで休⽇の⼀般⾞規制(規制時間延⻑)による荷捌き⾞、歩⾏者への影響を検証する、②歩⾏者専⽤道路化による滞留空間の創出する―の2点により、茗渓通りの課題を解決QOSL (Quality Of Street Life) の向上を図り、地域の愛着・ つながりを強化し、千代⽥区都市計画マスタープランで定められている将来像「つながる都⼼」 の実現を⽬指すことにある。

「ストリートライフお茶の⽔」のコンセプトは、〝くつろぎ〟〝ひと休み〟〝気分転換〟の3つ。それぞれ、ベンチやファニチャー、植栽などが配置され、周辺のカフェや飲⾷店からのテイクアウト利用も想定した休憩ができる空間とする。

車中心の社会から、いよいよ人が主役の〝道路〟革命、各地で始まる

「ストリートライフお茶の⽔」のイメージ

 

■東京都中央区で「中央通りベンチ設置検証実験」開始

NPO法人はな街道(東京都中央区、細田眞理事長)は、東京建物㈱と協働して、東京都中央区の「中央通り」(国道15号線)歩道の一部にベンチを設置する検証実験を開始した。同検証実験は中央区の国道上では初の取り組みであり、銀座~京橋・八重洲~日本橋・室町間における歩行者の回遊性を高め、賑わいの一層の向上に寄与することを目的としている。期間は2022年10月12日(水)から11月13日(日)までを予定。

ベンチの設置場所は、中央通り沿いの以下6カ所となる。①東京スクエアガーデン前、②京橋伸和ビル前、③京橋エドグラン前、④ミュージアムタワー京橋前、⑤日本橋髙島屋 S.C.本館前、⑥日本橋髙島屋 S.C.新館前。

検証実験では、明治大学理工学部建築学科・佐々木宏幸専任教授が主宰する建築・アーバンデザイン研究室との共同研究により「ベンチ利用状況観察」、「通行者インタビュー調査」等を実施、ベンチ設置に対するニーズや課題の検証をおこなう。

なお、今回のプロジェクトに携わる東京建物グループは、長期ビジョン「次世代デベロッパーへ」を掲げている。これは事業を通じて「社会課題の解決」と「企業としての成長」をより高い次元で両立させることを目指しているとしている。その重点戦略の一つとして、同社は「社会課題解決に貢献するまちづくり」に取り組んでおり、八重洲・日本橋・京橋(八日京)エリアを拠点として、地域と連携した多様なまちづくり活動を推進してきた。

一方、NPO法人はな街道は、2002年官民パートナーシップの社会実験からスタートし「中央通り」をよりきれいな四季折々の花で飾り、東京のメインストリートにふさわしい「景観の保全」と「さらなる賑わいの創出」を目指し地域美化活動を続けてきている。このほど両者の想いが一致し、関係各所との協議が整ったため、はな街道を実施主体(道路占用者)として歩道部分にベンチを設置する検証実験を行うこととなった。

車中心の社会から、いよいよ人が主役の〝道路〟革命、各地で始まる

「中央通りベンチ設置検証実験」のお披露目会の模様

2020年に〝地域を豊かにする歩行者中心の道路空間の構築〟を含む新道路法が施行されて以降、このような歩道の快適空間化の流れが本格的になってきた。特にここ数年のコロナ禍を経て、人々は街路に安らぎの場を求めるようにもなっている。今後は日本各地で自治体、企業、民間の非営利団体などが協働し、車中心から人中心への〝道路〟革命が盛んになっていきそうだ。いよいよ日本でも欧州のような〝広場〟文化が各地で創出されていくのかもしれない。

著者プロフィール

株式会社住宅環境社
株式会社住宅環境社佐倉慎二郎
佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。