【後編】「街への貢献」を理念に、ランドスケープだけでなく、 ファザードデザインやインテリアデザインでも「リバーサイドテラス」という コンセプトを踏襲した。 タワーマンション2棟と商業棟の建物で構成する街区の第一弾。
【設計事例:Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE】
Q. 次に「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE」の説明を、遠洞さんにお願いできますか。
「Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE」プロジェクトは、タワーマンション2棟、商業棟の建物で構成する街区の第一弾です。
東西方向に細長い街区の東側に今回のタワー棟が位置しています。敷地は北側を多摩川に、南側を聖蹟桜ヶ丘駅に面しています。もし多摩川が氾濫しても、敷地が堤防の役割を果たすように、敷地全体に勾配が付いており、敷地内で高低差が約1.8mあるという条件が一番の課題となりました。その高低差をどのように活用して人の居場所をデザインするかがポイントとなりました。 このプロジェクトのコンセプトは、「リバーサイドテラス」としました。川沿いのテラス空間で、人々が集まって楽しめる場所をつくりたいという思いが込められています。多摩川沿いはランニングや散歩をする以外は人があまり来ないエリアだったので、街全体のための広場として活用できるようにしたいと考えました。
弊社は「街への貢献」を理念に、緑や広場の在り方をデザインしています。ここでは総合設計制度を用いて計画し、芝生広場を一定の面積で確保しました。芝生広場は、街の横軸と縦軸に沿ってゾーニングをしました。街区の右側には住宅街があり、左側には保育園などがあるエリアになっています。芝生広場は、タワーの西側に大きく配置されています。当初は、敷地全体を広場として計画する案もありましたが、スケールを大きく逸脱した広過ぎる空間になってしまうと思いました。そこで、駅前にすでにある「お祭り広場」のスケールを参考にして、円形の芝生広場の大きさを決めました。街の人のための広場として、お祭りの際にサテライトステージとしても使えるようにもしています。街の持つポテンシャルを探りながら、ランドスケープのデザインをしていきました。(遠洞さま)
Q. ランドスケープと建築を一体で考えることは、このプロジェクトでどのようにされましたか。
「リバーサイドテラス」というコンセプトは、ランドスケープだけでなく、ファザードデザインやインテリアデザインでも踏襲しています。建築計画の特長の一つは、エントランスラウンジが2階にあるということです。高低差を活かした構成を外部から内部まで連続してつくりました。住民や来訪者は、コンシェルジュカウンターやラウンジを設けた2階に上がってもらい、このプロジェクトを特長づける多摩川と広場といった景観に包まれる体験をしていただきます。通常では、樹木の枝下を見ながら出入りするエントランスになりますが、高低差を利用して、違った表情をつくり出すことが出来ました。2階のホールからは、敷地内に植えた木々の葉が最も濃く見えます。これは、ランドスケープと建築の共同作業で実現した構成です。
今回ご紹介したのは街区を構成する3つの敷地の内、東側敷地の計画ですが、今後は、他の2敷地でも計画が進んでいます。西側敷地では、街の桜並木をランドスケープに取り入れる予定です。敷地から見える北側の景観も桜並木になり、将来的には、駅まで桜のトンネルができるでしょう。
インテリアにも、「リバーサイドテラス」の要素を取り入れています。キッズルームには、樹木をモチーフにした本棚や遊具を設置しました。また、地名にも入っているこの地の重要な桜の要素は、インテリアにも取り入れています。宇宙に運び戻ってきた桜は花びらが1枚増えることがある、というエピソードから、6弁花のモチーフをインテリアデザインに展開しました。(遠洞さま)
私たちは植物を扱うので、聖蹟桜ヶ丘のように植物の名前が入っている地名には興味がありますね。そうした地名の由来や歴史を調べてみたり、植物の特徴や役割を考えたりすることで、デザインに活かしていきたいと思っています。(松本さま)
Q. 再び、芝生広場について教えてください。広場は具体的に、どのように考えてつくられたのでしょうか?
この場所は本当に開かれていて、民間主導とはいえ公園をつくっている感覚に近いものでした。(遠洞さま)
こうした外部空間は、住民にとっても、地域にとっても有益なものであることが大切です。このプロジェクトくらいの広さがあれば、見る庭にすることもできれば、使う芝生広場にすることもできるし、畑であったり運動場とすることもでき、いろんな用途が考えられます。用途を設定するために、どのように使われるといいかといったところから紐解いていきます。そのためには、周辺のリサーチが非常に重要になります。また、今回住まう方々のマンションの購買のターゲットがファミリー世帯なのか、DINKS(ディンクス)なのかにもよって、使われ方が変わります。
さらにコロナ禍を通して屋外で過ごす需要が高まり、リモートワークを屋外で行うことも増えました。コロナ禍はソーシャルディスタンスを考慮してベンチの配置や人々の座る距離を決めていましたが、最近はそのような話題は減っています。時代のニーズに合わせて柔軟に対応する姿勢
が大切ではないかと思います。デザインの前段階で用途を決めることは、その場所の特性や付加価値を考慮しながら提案することが求められています。(松本さま)
外部のファニチャーでは、美しい色や形状は大切ですが、やはり使い方のイメージや具体的な活用方法を考えながら進めています。例えば、影をつくるパーゴラのルーバー材の間隔を調整し、下で過ごす人への風の影響を最小限に抑える工夫をしました。また、防風スクリーンを設置していますが、コンクリートの基礎は地上面から上げて、ベンチとして活用できるようにしました。結果として、日常的に利用される憩いの場所となっています。
デザインイメージをクライアントと共有するためのツールとして、私たちは3DのCGを活用しています。実際のスケール感を伝えるために、3Dで実際の樹種のデータを入れてデザイン提案をするのです。その上で、現場フェーズに入る前に、そのCGと同じように見える実際の場所に立ってもらい、「これぐらいの木の大きさになります」という説明を行い、自身のスケールで感じていただきます。このプロジェクトでは、30分の1の勾配がどのように見えるのかについて、3Dで確認して高低差を確かめていただきました。(遠洞さま)
Q. タワー棟は33階建てですが、屋上テラスが設けられています。屋上テラスをつくられた経緯や特徴を教えてください。
最近のマンションではコスト面や利用の想定によって、事業者の判断で屋上テラスをつくらないことも多くありますね。屋上テラスをつくることが入居者へ訴求ポイントとなり価値が高まるという判断で設ける場合は、事業者の企画に対して提案を行ったり、我々から企画を考えたりすることもあります。(松本さま)
今回のタワー棟の屋上も、我々がデザインを提案しています。広がる多摩丘陵の景色を楽しむために、テラスの高さを調整しました。また、川側には高い建物が建つことがなく視線が遮られないため、多摩川の花火大会を鑑賞できるテラスとしています。屋上には小さな子ども向けのテラスもつくりましたが、足音が下に伝わらないように柔らかい舗装材を使用しています。その他、夏の暑さなども考慮しながら、安全で快適な屋外空間を提供することが大切です。(遠洞さま)
Q. 外構やエクステリアの製品については、どのように見ておられますか?
戸建て住宅のエクステリアの場合は、ある程度限られたサイズ感と使用状況の範囲で製品を選択して納めやすいと思います。ランドスケープという広い領域では、「この場はどうあるべきか」ということに時間をかけて考えるため、製品の最終的な選択はデザインスケジュールの最後の期間で行うことになります。
ランドスケープのデザインでももちろん、外構やエクステリアのメーカー製品を活用することはあります。フェンスなどのエクステリア商品を使うことが多いですね。ただ、オリジナル性を重視する場合、メーカーの既製品はあまり使用していません。H.U. Bioness Complexのプロジェクトでは、既存で設置されていたフェンスを活用しつつ、門扉や門柱、門塀などはオリジナルで作成しました。
屋外用のファニチャーは、既製品を選ぶことが多くあります。私たちは常にコンセプトやデザインを重視しているため、コンセプトに合ったデザインの製品があれば選びたいと思っています。例えば、曲線のベンチやツールが合うプロジェクトもあるでしょう。既製品であっても、メーカーが持っている既成の寸法を活用しつつ、材料や組み合わせを変えてセミオーダーのようなファニチャーを作成することもあります。例えば、ベンチの座面の仕様を変えたり、安全性をさらに高めるために補強をしたりといったことです。
個人的な意見としては、形で主張しないデザインの製品が使いやすいと思います。ボラードやフェンスなどで、本当にシンプルな製品があればいいですね。製品のデザインでは細かい要素の微妙なバランスが求められるはずなので、なかなか難しいとは思いますが。例えば、ルーバーフェンスで横つなぎの材がないように見える製品などがあれば、使ってみたいです。
最近気になっているのは、複合的な機能を持つファニチャーなどです。例えば、今回の芝生広場に設置した防風スクリーンとベンチが一体化したもの、アッパーライトとフットライトが一体になった照明器具などです。また、新宿では「スマートポール」の実証実験が行われています。これは、サイネージや防犯カメラが付いていたり、さらに街のWi-Fiスポットになっているような多くの要素がまとまったポールです。照明器具、防犯カメラ、案内サインなどが乱立しなくて済みますから、スマートフォンのようにスッキリとまとまっていきます。それがさらに洗練される方向になっていけばいいなと思います。(松本さま)
樹木周りの地上支柱も、ハイテーブルなどと一体化できないかと考えることがありますね。樹木は、根がしっかりと活着して安定するまでは、支えが必要となります。斜めの支柱に足が引っかかってしまうとか、樹木が根付いて支柱が必要なくなったのにずっと残っていることを見かけます。支柱も取り込んで綺麗なファニチャーになれば、邪魔者扱いされることはないでしょう。外構に必要な設備がファニチャーに変換されている製品が、私としては欲しいです。土留のためのコンクリートブロックも、笠木が座面に使える材質になっているとか。そうした製品があれば、街の風景が良くなっていくと思います。(遠洞さま)
災害時には「かまど」として使える「かまどベンチ」のような製品はすでにあります。防災的な観点のほかにも、環境負荷を低減する話もあり、そうした多様な視点で物事を見ていくと、まだ開発の余地があるかと思います。
樹木の支柱にハイテーブルがあり、その天板やフレームには液晶フィルムのソーラー発電が貼ってあり、テーブルにデバイスを置くと自動的に充電されていくようになる。そのような、少し前には想像もしていなかったことがどんどん実現していますし、いま想像出来ていることはほとんど実現すると思います。(松本さま)
Q. これからの展望や目指すべき姿は、どう見ておられますか?
弊社ではデザインを通じて、社会貢献をしていきたいと考えています。エンドユーザーや顧客の満足度が高いことはもちろん大切ですが、同時に環境負荷の低減や生物多様性の保護、温暖化による増水や氾濫が起こる中での雨水流出抑制などによる社会貢献も重要だと考えています。
また最近では、幅広い人が遊びやすいインクルーシブ遊具などが増え始めていますが、使う人に合った誰もが利用しやすい場所をつくり、風景に優しいものをつくることによる社会貢献ができればと思っています。子供たちが誇りに思える、次世代に渡せるようなものづくりを続けたいと考えています。(松本さま) そうしたランドスケープデザイン室のビジョンに、それぞれの個性が加わって弊社のデザインとなっていくと思います。ランドスケープのデザインは、誰でも使えて誰の目にも触れるものですから、街に貢献するものをつくっていきたいですね。(遠洞さま)
光井純アンドアソシエーツ建築設計事務所
松本 賢・・・まつもと さとし
ランドスケープデザイン室 室長
1977年神奈川県生まれ。2000年関東学院大学工学部建築学科卒業。2015年に光井純&アソシエーツ建築設計事務所入社。現在、同社ランドスケープデザイン室室長として業務を行う。
主な実績
●H.U. Bioness Complex
●ナゴヤ ザ タワー
●ブランズシティあざみ野
●Tsunashima SST
●三井ガーデンホテル六本木プレミア
光井純アンドアソシエーツ建築設計事務所
遠洞 躍斗・・・えんどう やくと
ランドスケープデザイン室 アソシエイト
1991年岩手県生まれ。2016年日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学専攻修了。同年に光井純&アソシエーツ建築設計事務所入社。現在、同社ランドスケープデザイン室アソシエイトとして業務を行う。
主な実績
●白金ザ・スカイ
●Brillia Tower 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING RESIDENCE
●Brillia 聖蹟桜ヶ丘 BLOOMING TERRACE|サクテラスモール
●プレミスト有明ガーデンズ
●プレミスト松山二番町
著者プロフィール
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