建築家の持つエクステリアの考え方を探る「空間デザイナー」探訪の本当の狙いとは?
建築家の持つエクステリアの考え方を探る
「空間デザイナー」探訪の本当の狙いとは?
『富裕層が求め、それを受注するだけではエクステリア市場は広がらない』
全国で活躍する建築家を空間デザイナーが訪ね歩くという企画が、月刊エクステリア・
ワークにて始まった。一見すると、建築家の世界は、エクステリア業界とは関係のないものとして認識されるかもしれない。なのにどうしてそんな企画を始めたのか。それは、「新しい時代の建物とエクステリアの関係性」を探り、建築家の先生方が現在のエクステリアについてどのような知見を持っているかを探るためというのが表向きの理由だ。しかし、本当は〝隠された〟理由があるので、今回はそれについて触れてみよう。
敷地を塀で囲み、門を構えるために土を掘り、基礎を固めるという土木工事をメインと
する職人は年々減少している。一方で、ホームページや写真、動画などの撮影技術は進化し続けており、受注機能は〝見せ方〟によるところが大きい。いまやエクステリア業界では、美しいホームページが作れれば、立派な事務所がなくたって、「エクステリア専門店」としてたった一人でも独立できる。またエクステリアは建築のように設計やデザインの瑕疵が人命に直結するような世界でもない。したがって新規参入も容易である。
そして最近では新築外構の下請けばかりではなく、富裕層から「庭を作って欲しい」と
いう受注も来るから、そこそこ儲かる。建築家が2000万円の物件を受注するのにビルダー・工務店とのプレゼン競争で四苦八苦している間に、ホームページ経由で「3000万円のガーデンリフォーム」などの注文が入る。世の中から中間所得者層が消えて、富裕層と貧困層へと二極化した現在、エクステリアのビジネスは富裕層バブルに支えられていると言っても良い。経済社会の中間が地盤沈下する状態で、富裕層の消費行動が、次の時代のビジネス社会の大きな関心事となっている。
社会的使命感や学術的根拠といった社会性が欠落していても、そんな状況とは関係なく
経済が活性化するというのは、空洞の物体の表面をメッキで何度も塗り変えて、その中身がぎっしり詰まっているように見せかけるようなものだ。しかし住宅建築という世界は、自然環境や人々の健康や快適性、居住文化、コミュニティといった、人間が生きるうえでの思想的根拠は大切にされるべきものではなかったか。そして社会という物体の中身に詰まっているのは、現場を支える優秀な大工、職人という土壌であろう。
ビルダー・工務店が新築着工戸数の減少によって失うボリュームゾーンの代わりに、美
しく装飾したホームページからキラキラしたエクステリアの存在感が高まる。フェラーリを買うのに哲学はいらなく、富裕層はそれを買うように庭を買う。そこに野暮な建築家による耳が痛い教養などは邪魔なのだ。職人不足という空洞もどんどん大きくなりメッキだけが厚くなる。やがて空洞の表面はメッキを塗る人の重みに耐えかねて、風穴があくだろう。建築家がニーズの強い富裕層だけではなく、もっと幅広い層にエクステリアを普及させる役割を演じてほしい。
そんな時代の「建物とエクステリアとの関係性」を探る―というのが、建築家を訪ね歩く企画の〝隠された〟趣旨である。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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