【後編】建物以上にランドスケープ主体で、何もない中庭の芝生の空間を大学の象徴空間としてデザインすることを日本で試みた。
設計事例:桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト

── もう一つの事例について、教えてください。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」は、桜美林大学の芸術文化学群のための新キャンパスの計画です。校舎の建物は東西方向に細長く計画され、全長200mの中庭が予定されていました。当初の建築計画では中庭にケヤキ並木とする計画でしたが、その段階で計画に参画しました。

大学のキャンパスデザインといえば、シンボルとしてユニークな時計台や講堂、図書館などを設けることが一般的で、建築が主体です。今回はそうした建築のシンボル施設ではなく、ランドスケープ主体でシンボル性をもたせる提案をしました。

建築計画で進められた南北の建物を、キャンパスの伝統的建築様式のクアドラングルQuadrangle として考え、この200mのクアドラングルの中庭を大学の象徴空間として設計提案しました。

クアドラングルは英国やアメリカの古い大学に見られる中庭を持つ四角形の建築で、そのルーツは英米の古い大学が元は聖職者育成の大学であったが故の、修道院にあります。修道院も大学のクアドラングルも、建物も象徴的な空間ではありますが、オックスフォード大学やケンブリッジ大学では、建物以上に、何もない中庭のボイドの空間、そこに広がる芝生の空間が、大学を象徴する空間として捉えられています。ケンブリッジ大学では不文律で、教授連は芝生広場を横切って歩いてもよいのですが、学生や観光客は芝生に入ることはできず神聖な存在とされています。

桜美林大学のキャンパスでは、この200mの中庭を単なる芝生の象徴として見るだけの空間としてではなく、人が入って憩うことのできる、また眺めて四季の移り変わりが感じられる庭的な新たなクアドラングルの象徴空間としてデザインすることを試みました。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
200mの中庭空間、中央はエントランス空間。東側には芝生の広場。

敷地中央にはクアドラングルの中庭を作る2列の長い建物の一部、南側建物が無い部分があります。この正面の中央部分はホールと建物が面して、キャンパスの中心の広場としても位置付けられます。

この広場には、ホールのあることから緊急車両やイベント時にバスが入る事もあり、中央の象徴としての芝生空間は、長方形の四隅を取って楕円の芝生の広場として、もう一つの象徴空間としました。

アメリカのスタンフォード大学にはキャンパスのエントランス部に「The Oval(楕円形)」と呼ばれる大きな芝生広場があり、キャンパスの象徴となっています。このランドスケープを19世紀に設計したのは、ニューヨークのセントラルパークの設計者として有名な、フレデリック・ロー・オルムステッドです。桜美林大学新キャンパスは少し小さな規模ですが、オルムステッドのThe Ovalへのオマージュでもあり、誰もがキャンパスの中心として意識しうる空間としました。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
中央の楕円の芝生には大学の銘板とシートベンチ。

南北を建物に囲まれた新しいタイプのクアドラングルの中庭は、北側に桜の列植と芝生、南側には隣接する建物により日陰の空間となることを配慮し、モミジと芝生に変えて白川砂利、低木類も耐陰性のある樹種を選定しました。白川砂利は日本庭園の枯山水れる材料ですが、洋風な庭に和の要素を入れたり、直線的な庭の中に砂利と芝の境界部分には曲線を入れるなど、敢えて異なる要素を取り込みながら調和する風景の創出を試みました。

計画段階ではスケッチでイメージを固めてそれから平面図を検討。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
白川砂利の「和」の要素と芝生の「洋」の共存。
桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
建物の日影を考慮した結果のデザイン。
桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
花や紅葉で季節感も感じる事ができる新しいタイプにクアドラングルの中庭。

中庭は緑の中で、人が入り込んで憩いや語らいの場となる様にスクエアなベンチを配置しました。このベンチ自体が庭を修景するインスタレーションでもあり、芸術系の大学である事を考慮して、テンポラリーにアート作品を展示するベースの存在になる事も想定しました。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
幾何学性の、「直線」と「曲線」が融合する庭のデザイン
桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
緑の中、大きなスツールで語らう学生たち。

── エクステリア製品はどのようなものを見て検討されていますか?

屋上緑化の場合、目隠しのフェンスはよく探しますね。ビルの屋上には、設備関連の機械が大半を占めています。その中でオフィスワーカーが過ごせるスペースをつくろうとするとき、目隠しが必要となりますが、なかなか洒落た製品が見つかりません。しかたなく植栽などで目線を遮るものをつくろうとするのですが、スペースが限られるので苦労しています。

くつろげる場所を想定した場合、ウッドデッキは視覚的にも歩行感としても柔らかく、よく使う素材です。ウッド材同士の溝には、食事や飲料の食べこぼしが落ち、デッキ下に小動物が侵入したりすることもあり、スリットにステンレス板を設けるなどして工夫する場合もあります。天然木のウッドデッキとして硬い南洋材が普及しましたが、経年変化でささくれて痛んできます。プラスチック廃材の再利用による人工木の製品は、20年前の初期の材料は経年変化が早く、滑り止めなどスリットが摩耗により失われて、新たに滑り止めのシールを貼るなどの対応が必要でしたが、最近の製品は質感や耐久性も大幅に改良され、ランドスケープのデザインに使われる材料の急速な進歩を感じています。   

舗装については、屋外の床面に使われる材料として磁器質タイルの使用が減少しています。これは割れる、欠けるといった強度の問題、時間が経過し補修が必要になった場合に、同じ材料が製品として製造が継続しているか、同じ材料での補修が困難になってしまうのではという問題もあります。近年、アルゼンチン斑岩に代表される強度や耐久性に優れた石材が、磁器質タイルと同等程度のコストで入手できる様になったので、床面のデザインに使用する素材の選択肢も時代によって変わることを実感しています。

あとは、プランターも良いのがないかと、いつも見ていますね。特に、大きなサイズの製品です。ベルサイユ宮殿に代表される「オランジェリー」という施設があります。これはもともとオレンジなどの温暖な気候で育つ果樹を寒い季節の間養成するためにつくられた温室的な施設です。ガラス張りの温室が生まれるのは、もう少し時代が経って産業革命によって、鉄とガラスが大量生産される様になってからの話になります。「オランジェリー」では、寒さに弱い樹木をプランターに植えて、冬はオランジェリーの中に移動していたのですね。今でもパリ市内の公園では大きなプランターに、パームツリーやオレンジを植えて、夏場は屋外の公園に移動、冬場は温室や「オランジェリー」的な施設に戻すという光景を見ることができます。現代のランドスケープ空間においても、大きくてデザイン性に優れたプランターがあれば、広場の中に移動可能な高木の導入が可能になると考えます。

都市の広場空間の設計で悩むのは、通常は広場に高木の緑の木陰があって休息スペースを作りたいけれど、イベント時には高木の緑は不要というか邪魔な存在であり、両立はしません。移動可能な、可動式の緑があればその問題は解決すると考えます。そのためにも、高木植栽に耐えうる大きなプランター、フォークリフトで持ち上げて移動する事を考慮した、しかもデザイン性の高いプランターがあればと思っています。

── エクステリア製品には、どのような期待がありますか?

外で仕事をして快適に過ごすための製品があればと思います。例えば、屋外でゆったりとリラックスしながら仕事もできる、ベンチのようなものがあればいいと思います。今は、私も活用していますがタブレットを膝の上に載せ、読書したりスケッチを描いたりできます。オンラインでミーティングをすることも容易になりました。天気の良い時には外に出て、タブレットを膝にのせてリラックスしながら読書や仕事もできる、そんなデッキチェアがあれば、公園自体の利用形態も時代に追いついて変わっていくと思います。

都市公園法改正で公園にもカフェが出店するようになりましたが、商業だけでなく業務の一部、例えば緑の中での貸し会議室とかがあれば、より面白い発想が生まれるといったように、公園の機能と、全く異なる機能、ミスマッチとでも思えるものを公園に持ち込むことができると、公園だけでなく、都市におけるランドスケープ空間はより豊かで面白くなる可能性があると思います。エクステリア製品も、新しい技術、例えば映像とか通信といった今の時代をキャッチアップする技術を持った製品の開発によるハイテクノロジーと、従来の緑や自然に代表されるローテクノロジーとの融合で、もっとランドスケープ空間が進化すると思っています。

── これからのランドスケープデザインは、どのようになっていくと考えていますか?

都市でのランドスケープの役割は、さらに重要になると思います。中国の地方で大規模な住宅開発とショッピングセンターをつくるプロジェクトに関わったことがあったのですが、オーナー社長はその計画地の中央に博物館と公園をつくる計画を立てていました。博物館は社長自身の秘蔵コレクションを見せるため、公園は良い環境であることをアピールするためです。

日本では公園や緑地は、計画の一番最後に造る場合が多いのですが、この中国の場合は、計画地の敷地、当初は何も無い畑の真ん中、計画の中心に博物館と公園を造り、この地域がまず環境も良いし、魅力的な施設があることをアピールして、それから住宅を作り出して人を呼び込むという順番で計画が実現していきます。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
中国鄭州の大規模開発計画の模型
桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
鄭州の開発計画中央にオープンした博物館とオープン間際の公園施設

アメリカでも近年、ニューヨークのブルックリン地区ウィリアムズ橋のたもとに住宅の再開発計画が進められていますが、肝心の住宅を作る前に、まず再開発の最初に「ドミノ・パーク」(設計:ジェームズ・コーナー)というイーストリバー沿いの公園を造って、オープンさせ、この地域の環境が良くて住みたくなる様な地区ですということを十分にアピールしたうえで、本体の住宅の工事に取り掛かるといった前述の中国に似た様な順番で計画を進める事例もあります。

桜美林大学「東京ひなたやまキャンパス」ほか、中国とアメリカのプロジェクト
ニューヨーク、イーストリバー沿いに住宅に先んじて作られたドミノ・パーク

日本でもつい最近、「グラングリーン大阪」(設計:米国GGN、日建設計)で商業施設とともに緑地を整備して、かつての大きな梅田の貨物駅跡地といった印象を払拭して梅田全体のイメージを変え、大阪のシンボル的な緑地を創りだしつつあります。これらの例は、公園や都市の緑地には、地域の環境を変えるだけでなく、イメージを刷新して人が近くに住みたくなる様な環境と魅力を作り出す力があることを示していると思います。

ランドスケープのデザインに関わる人は、私が学生のころから比べれば増えていると実感しますが、昔ながらのランドスケープの仕事だけではなく、もっと広い意味での環境を扱うことまで広げていかなければならないと思います。現在の都市計画では、テーマとして環境が挙げられることが必須です。そのときに、土木から建築まで横断して、都市の最終形の姿を描ける能力が求められています。

私がアメリカ留学で学んだ時の恩師であるイアン・マクハーグ教授は、自然との調和を土地の中でいかに組み込むかをいつも念頭に置いて計画やデザインを提唱していました。彼は、人と自然が対立するのではなく、お互いが入り組んで組み合わされて融合していくこと、彼流の言葉「Inter-Fingeringが大切である」と、指と指を組み合わせるようなジェスチャーをしながら口癖の様に語っていました。

日本はもともと、自然と人間を二項対立で捉える西洋の考え方とは異なり、いかに自然と調和するかに重きを置いていました。それは伝統的な庭園を見ても分かります。日本庭園の多くは、テーマとしていかに自然と融合し、調和した世界を作るかを意図している一方、ベルサイユ宮殿に代表される西洋庭園では、自然を全て幾何学的にデザインしコントロールするという自然観の相違を見ることができます。この様に古い庭園といえども、そこには現代にも通用する自然観や技法、デザインのヒントとなるものが多く隠されています。それを見出すには、ものを設計者の観点から見る事が大切だと思います。これからも、さまざまな街を歩いて体験、体感しながら「よりよい風景と環境」をつくり続けていきたいと思います。

西田正徳

株式会社 N.L.A.(西田正徳ランドスケープ・デザイン・アトリエ)
代表 西田正徳

技術士・ランドスケープアーキテクト。
千葉大大学院修了、ペンシルベニア大大学院修了(MLA)。元・株式会社日建設計ランドスケープ設計室室長。「NEC玉川ルネサンスシティ」「青山学院大学相模原キャンパス」などを担当。「晴海アイランド・トリトンスクエア」にて2005年日本造園学会賞作品賞を受賞。2006年独立、「沖縄大学院大学」「テラススクエア」「伊勢志摩サミット報道センターの庭」などに参画。東京農業大学客員教授、桜美林大学非常勤講師、国士舘大学非常勤講師。

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