【前編】場当たり的なリノベーションではなく、年数が経つごとに格が上がり、資産価値が上がる、費用対効果を高めたランドスケープデザインを目指す。
【設計事例:長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画】

──古谷デザイン建築設計事務所や仕事の特徴から教えてください。

古谷デザイン建築設計事務所は、設立してから15年目を迎えます。建築の設計事務所ですが、緑を扱うことを得意としており、独立当初は集合住宅の外構計画や造園、インテリアコーディネートの仕事が大半でした。計画のなかでランドスケープや緑を扱う際にも外注ではなく、社内でできる体制があるのが強みとなっています。独立時から絵を描くことを得意とするスタッフがいて、クライアントやつくり手とイメージを共有しながらプロジェクトを一緒に考えて検討を重ねることが事務所の特徴となっています。

長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
企画内容を伝えるイラスト。人々の活動と環境を一体に描き情景を伝える

私は大学を卒業後、IDÉE(イデー)という家具店に勤めました。今でいうライフスタイルショップの走りで、建築やインテリアとともに、ガーデンデザインや植栽が居心地の良い場づくりに欠かせないと早くから注目し、空間提案をしていました。
IDÉEの次には都市デザインシステムという会社に移りました。当初はコーポラティブハウスを手掛けていた会社です。集合住宅の住まい手の方々が建設組合をつくり発注をする形態なのですが、住民だけでは素人の集まりになってしまうので、コーディネーターが必要となります。都市デザインシステムはコーディネート業務を活かして商業施設やホテルなどを手掛けていく会社と発展していて、独立した方々とは今でも仕事をしています。

── 具体的な事例を教えていただけますか?

国内有数の別荘地として知られる長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」(東急不動産)のリニューアル計画も、都市デザインシステム在籍時にお世話になった方からの声がけで協働しているプロジェクトです。
デベロッパーが開発した別荘地で、経年で文化の移り変わりもあり変革していきたいというオーダーがあり、別荘地を今後どうしていくかに立ち返った、抜本的な見直しが求められていたように思います。

長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
コンビニ利用のお客さんを中心とした駐車場だった南面を芝生の広場に刷新したプラン

開発されてから数十年が経っていた別荘地の敷地では、樹木が大きく成長し根元に日が届かなくなるような状況が見られました。私たちとしても、場当たり的なリノベーションするよりは、今後のこの施設にとってどれだけ投資効果のあることをしていけるかを考えたいと思いました。
全体のなかで別荘の管理事務所がある付近が中心的な存在といえましたが、駐車場のアスファルトで占められていました。そこで道路側の駐車場部分を思い切って大きな広場にして別荘地としての顔を刷新したうえ、別荘管理事務所を全体のリビングとしてリノベーションし、建物に連続するように多目的に使えるデッキと広場をつくる計画としました。

長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
閉塞感のあった天井を取り払い、森の中の開放的なスペースになることを目指した (撮影・山内紀人)

設計事務所がこうしたプロジェクトに関わるとき、ただ綺麗で格好良くなったというだけでは、少し物足りません。
「地域環境」と「自然環境」に向き合い共創するという「TENOHA 蓼科」の広場では長野県産の間伐材や木材を使用し、地産地消の環境貢献に根差した計画を行っています。広場の入り口ゲートは石造橋のように自重で締まって成り立つ構造としています。また地域の石材や、建物の解体工事の際に出たガラス廃材をアップサイクルしてつくったガラスブロックをあしらい、潜る人々の目線に留まることを意識しています。

長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
エントランスゲートとして機能するループテラス (撮影・山内紀人)
長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
地元の間伐材や石材、解体工事で発生したガラスを再生したブロックを使用 (撮影・山内紀人)

ゲートから繋がり広場を囲む「ループテラス」はTENOHA蓼科の世界を表現し、テラスの上には桟敷状のベンチを連続して設けています。広場にはファイヤープレイスを設置したほか、木陰に入り込めるネット状のベンチを設けました。自然に親しんでゆったりしたいという要望にこたえるもので、芝生広場ではミニコンサートなども開催されているようです。

長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
駐車スペースが芝生のスペースに生まれ変わった (撮影・山内紀人)
長野・蓼科の「TENOHA 蓼科」のリニューアル計画
森の樹冠に身を投げ出すような感覚で佇めるネットベンチ (撮影・山内紀人)

できるだけデザインの良いものを作りたいと考えますが、その場の利益に供与しないデザインはすべきではないと考えています。できた時が一番で徐々に価値が目減りしてくようなデザインではなく使い込まれるたびに価値が増すようなデザインを目指しています。ランドスケープデザインで緑のことがきちんと考えられ、外構と建築のバランスが良ければ、2年後、3年後も当初の雰囲気が保たれ、むしろ年数が経つごとにどんどん良くなっていきます。格が上がり、資産価値が上がる。ランドスケープのデザインは、費用対効果が高い分クライアントにとって投資効果が高いといえるでしょう。

古谷俊一

古谷デザイン建築設計事務所
代表 古谷俊一

1974年東京都生まれ。1997年明治大学理工学部建築学科卒業、2001年早稲田大学大学院理工学研究科建築学専攻 修士課程修了。IDÉE、都市デザインシステムを経て、2009年 古谷デザイン建築設計事務所 設立、2022年みどりの空間工作所 設立。現在、京都芸術大学環境デザイン学科客員教授。主な受賞に「東京建築士会 住宅建築賞」(大森ロッヂ新棟 笑門の家)、「日本空間デザイン賞大賞」(深大寺ガーデン)、「日本建築士会連合会 建築作品賞 優秀賞」(スイシャハウス・スイシャオフィス)など
著書に『みどりの空間学』(学芸出版社)、『みどりの建築術』(枻出版)など

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