市場を拡大するためには開拓の手本を見せる。
千葉県で年商160億円の住宅関連ビジネスを手掛ける会社「A社」があります。この会社は、戦後まもなく「材木店」としてスタートし、その後は木造住宅の乾式化と工法の合理化に伴い新建材を取り扱う「建材販売店」となりました。木材と建材を同時に扱うことで、販売先である工務店との関係性を緊密にしていきました。
その後、A社は時代に合わせて業態を変化させていきます。販売先を地域の工務店だけでなく大手ハウスメーカーにも広げました。大手ハウスメーカーは自社の構造体に使う木材の加工を依頼するようになり、販売量の増加を見込んだA社は、近代的な木材プレカット専用の自社工場を設立し、ここで大手ハウスメーカーが使用する柱や梁、造作材などを大量加工して、さらにキッチン・バスなどの水回り、そしてさらにはドア、フローリングなどの木質建材をセットにして販売するようになりました。住宅の構造体と内装建材のセット納材という方式が定着したのでした。
今度は、プレカット工場が稼働し始めると、A社は次に木材を加工する際の「加工データ」に注目するようになります。まず木材をプレカット加工するには、その住宅で使用される木材の量を把握する必要があります。いかに歩留まり良く加工して端材を出さないかが利益を出すポイントですので次第に柱や梁が構造体として正しく配置されているかをチェックすることも行うようになりました。加工データをCADで拾うと、木造住宅の場合は耐震性の目安となる「偏芯率」が計算されます。これによって、開口部の配置や間柱、階段の位置などが割り出せます。こうした建物の素性をプレカット工場が握ることで、住宅の生産性は大きく向上することができました。
流通業態に位置するA社のような建材販売店が、住宅の設計情報を握ることで次に何ができるようになるのか。それは住宅製造と販売です。A社は約15年前に住宅販売の元請に参入します。販売先の工務店とは違うテイストの住宅ブランドを立ち上げて従来の関係にも配慮しました。一部の工務店への売掛金もかなりありましたが、その一部を損切りにしました。一方で工務店に対して様々な受注支援を展開します。現在では「住まいと暮らしの総合企業」として千葉で屈指の総合住宅会社になるまで成長しました。
この事例は、販売先支援と同時に自社での受注確保の仕組みを進めて業容を拡大したものです。餅屋は餅屋という言葉もあるし、既存の業態の殻を破るには大きな勇気も必要です。しかし市場を拡大するためには販売先の尻を叩きながらも開拓の手本を見せるということも必要です。
これは憶測にすぎませんが、もしもA社が「材木店」として頑なに工務店に掛け売りし続けていれば、やがて回収に悩み共倒れする可能性もあったかもしれません。しかし販売先とのバッティングをうまく切り抜けて、大手から合理化手法を学び、それを最終的に自社のノウハウとしてアウトプットしたのが、A社の事例だと思います。規模や業種の違いはあるにせよ、我々エクステリア業界においても、学べる点が大いにあるのではないでしょうか?自社の強みと優位性は何なのか。そしてこれからどういう付加価値が生み出せるのか・・・そんなことを事業を進めて忙しい中、日々検証しておきたいものです。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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