『景観経済』時代の到来。自然の恵みを生かした”驚きと感動のエクステリア空間を創る。
筆者は「景観経済」をテーマに普段は取材活動をしている。それは住宅であれ非住宅であれ、〝心地よく過ごせる建物の外部空間〟を探す旅でもある。
ただし、〝心地よい〟という定義は主観的なものである。
緑豊かな森の中は、空気もきれいで健康には良さそうだが、実際には虫が飛び気温も不安定だ。そこにいるよりも、冷暖房完備の魔法瓶のような室内にいる方が快適で心地よいと感じる人は多いだろう。
しかし自然界の動植物にとっては、原生林のような環境が心地よいのかもしれない。また魚にとっては、海や川などの水中が快適であり、とりわけ川魚などは、渓流の激しい流れの横にある岩陰が心地よい空間なのかもしれない。
心地よさの定義付けが難しい理由の一つには、このように人間にとっての〝心地よさ〟は、動植物にとっての心地よさとはイコールではないということだ。人間が快適性と心地よさを求めて、自然界にどこまで介入(開発)していくべきか、ということが、「景観経済」の大きなポイントとなって来る。
自然を壊して冷暖房の魔法瓶の中で心地よさが得られても、それは景観経済にとってはマイナスである。一方で、人間が原生林の中に入り、服を着ないで動植物と共存しようとすれば、それは自然保護にはなるが、快適性や心地よさは生まれない。
有名な軽井沢の星野エリアにある「ハルニレテラス」は、自然林と人工で作られた空間が、バランスよく両立している快適空間である。簡単に言うと、自然林の散策路を歩いていても、靴が泥だらけにならない。森の中を歩くという行為だけを見れば、ちょっとした山登りと変わらないが、登山靴や非常食がいらないということは、重要なポイントだ。
自然の恵みを〝良いとこ取り〟しながら、不快な要素は取り除き、建築や構造物(エクステリア)で快適性を担保する―これがハルニレテラス設計のポイントである。
東京・日本橋の福徳神社を再開発した「福徳の森」(三井不動産)なども、神社でありながら、周辺にレストランや休憩所が設けられた都会のオアシスとしてデザインされている。この場所もデザインがなければ、単なる「取り壊せない神社」が仕方なく存在している場所として、都会人からは敬遠されてしまう場所だったかもしれない。
日本中にこのような空間を愚直に作って行けば、超有名な観光地や名所、景勝地ではない場所を、驚きと感動を伴って発見することができる。
かつての地域の再生や街づくりは、その多くは官主導による補助金頼みの再生事業であった。例えば工業団地や大手企業の誘致、そして大型ショッピングモールの整備によって必要となる街道の整備や自動車道の新設など、土木開発をメインとしてマクロ効果を見込む産業界主導の地域再開発プロジェクトであった。
しかし、このような事例が多数出て来て、多くの人々が景観の心地よさを体感するに従い、億単位のお金をかけて再開発した場所であっても、決して魅力的であるかどうかは関係ないことに気づき始めて来た。
ポストコロナがいつ訪れるかは未だ不明だが、多くの人々の関心が外部空間に向いている今だからこそ、エクステリア関連産業としては、しっかりと種をまいて本格的な景観経済時代の到来に備えたい。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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