前編 『エクステリア業界の教育を通し、お客さまの希望に応じる住空間を提案したい』

Q1.吉田さんがお考えになる現在のエクステリア業界の課題には、どのようなものがあるのでしょうか?

エクステリアの定義は立場(建築、土木、造園、都市計画等)により異なります。エクステリアとは何か、分からないとそれを攻めるのにもどこをせめて良いのかわからない。もともとエクステリアの教育がないのです。高校も、専門学校も、大学もない。だから、エクステリアとは何なのかというのはとても曖昧なのです。この業界全体のコンセンサスとは、公益社団法人日本エクステリア建設業協会が国交省との話の中で、「エクステリアとはこのようなもの」という提案をしていると聞いています。国交省の「建設キャリアアップシステム」の中にエクステリアプランナーの資格を持った人のスキルを認める様になりました。公益社団法人日本エクステリア建設業協会の会員は、施工を中心とした業者の方が多いこともあり、国交省、役所などは、発注したものをきちんと作ってくれという理解だと思われます。

「登録エクステリア基幹技能者」という、現場管理者の資格がありますが、それも日本エクステリア建設業協会で資格試験を実施し、その資格を取りなさいとなっています。エクステリア工事の塀工事では、その多くは建築用コンクリートブロックを積んで造ってきたことから、ブロック積工事には、公益社団法人日本エクステリア建設業協会が実施している「ブロック塀診断士」や「建築コンクリートブロック工事士」という技能の資格があります。「建築コンクリートブロック工事士」は実は建築分野の資格でしたが、先年、大阪府高槻のブロック塀の倒壊事故があったときに建築の人は、ブロック積の塀のことに関心が無かったと言うか、わからない方が多く見られました。そこで安全なブロック積の塀を作るための技能資格として国家資格(ブロック建築技能士)になりました。

エクステリア業界として、早急にエクステリアの定義を明確にすることが重要になります。また、ブロック工事に限らず、エクステリア工事全般に渡り、無資格で設計、施工が出来てしまう環境が、様々なクレームや問題に繋がっていると思います。

 

Q2.エクステリアの何が問題なのでしょうか?

エクステリア業界にはきちんとした教育が無いために、見様見真似でやってきたと言うところがあります。やはり、きちんとした知識がないと思います。ブロック積の塀では、  建築基準法では、ブロック壁体内に鉄筋を入れる間隔や塀の高さ、控壁、基礎形状などについて7項目の規定があります。規定以外の構造を用いる場合には基礎などの構造計算が必要です。建築学会も基準を出していますが、建築基準法の内容と少し異なっています。それで、どれが正しいのか、まずは建築基準法を守ろうということになります。

例えば、ブロック積の塀の基礎形状がL形ないしは逆T形の場合、建築学会が出しているのは、ブロック積の塀の高さが1600㎜以下ならば控壁は不要としています。ところが、建築基準法では、ブロック積の塀の高さが1200㎜以上(6段積)なら控壁を設けなければならないとしています。新しく建物を建てた時に、同時に門や塀を造るときには、一緒に確認申請を出すようにという指導が言われてきています。

ここのところは、私は住宅メーカーにいたときに、門扉を造れと言われたけれど、門塀と言う言葉や内容を学校で習っていないし、庭を造るために入社したのに、何をいっているんだと思いました。でも現場に打合せいったら、お客さんに何処から入るんですか、何処に車を入れて止めるのかという話になる。庭を造る前にまず囲障、外構を造らなければならない。それでエクステリアという分野をきちんとしなければと思いました。それから、私の在籍した住宅メーカーにはエクステリアの基準書がなかったので作りました。また、退社後独立をして設計事務所を設立し、(一社)日本エクステリア学会を立ち上げました。もう9年くらいになります。そこで、エクステリアの出版物を出して、書店に並べようと考えました。本屋にいってもエクステリアという本はなく、ガーデンとか庭とか草花が載っているものばかりです。きちんとした本をつくり、一般ユーザーにエクステリアを知ってもらおうと思い、いま本を作っているのです。業界向けも作ってみましたが、だめでした。業界からは今、作っている本が難しいので、講習をして欲しいと言われています。

また、エクステリア商材メーカーさんにお客さんは誰かと聞いてみると業者さん、販工店さんと答えました。施工業者や販工店がお客さんだなんていうメーカーがどこにいるのかと不思議に思いました。車や家電、その他メーカーにしても、誰が使っているのか、誰がお金を出しているのか。その人に向かってカタログを出している。お客はエンドユーザーであって、お金を出す人であって、買いたいと思っている人です。この人たちに売らなくちゃ、どこに売るのと。そこを変えなければと思います。一方で、施工業者や販工店の方が商材メーカーさんからの仕入れ値を値切るのを目にしますが、業者ですから安いものを求めるのは当然ですが、施工で稼げと思っている。いまだにエクステリア商材メーカーのお客さんは販工店とか業者です。

【個人住宅の外構】建物の外壁意匠の□(四角)を基本にして、モザイクタイル張りの塀と駐車空間シャッターボックスに□のスリットを意匠した。

 

【個人住宅の外構】アプローチ空間・御影板石敷舗装の園路、駐車空間と庭に間を斜めに横切る。

 

Q3.エクステリアの教育機関の整備が重要なのですね。

私が一番残念に思うのはエクステリアには学校がないことです。しかし、最近(一社)日本エクステリア学会で本を作ったら、それを教科書にしようという学校がでてきて嬉しく感じました。そこでは、2019年に出した「エクステリアの植栽」を教科書に使うと聞きました。また、エクステリアの内容については(公社)日本エクステリア建設業協会で作っている「エクステリアプランナーハンドブック」があります。エクステリア関連の法規や構造材料、土木の範囲に絞り込んで記載されています。このハンドブックだけ読んで覚えてくれればちゃんとした仕事をするのではと思います。お客さんはこの工事が手抜きされているかどうか分からないわけです。誰がそれを見るのかなって思うけれど、教育がないもんですから分からないのです。

さらに設計図書(契約図書)がしっかりと作られていないことが多く見られます。「エクステリアの図面は絵図面だよね」と言われます。設計図書としてちゃんとした体系を作っている人には殆ど会わないです。

国交省の「建設キャリアアップシステム」というのをみていただきますと、レベル1から4までありまして、保有資格によってどのレベルが取れるのか分かります。

これ等のエクステリア全般にわたる、きちんとした設計や施工の教育が問題の無い安全で住まい手に喜んで頂けるエクステリアの実現には欠かせないと考えます。

 

Q4.エクステリアの技術資格はどのようなものがありますか?

エクステリアの設計の資格としては、唯一、公益社団法人日本エクステリア建設業協会が認定しているエクステリアプランナーしかありません。まだ国家資格ではありませんが。この試験の運営については国交省に指導も受けているように聞いています。いずれ国家試験になるかもしれないと期待しています。この資格には、1級、2級がある。その他に(公社)日本エクステリア建設業協会の実施している資格には「ブロック塀診断士」、「建築コンクリートブロック工事士」、「登録エクステリア基幹技能者」がある。 あと造園施工管理技士というのが近いのですが、これは造園工事の施工管理の資格で、建築士でいう設計の資格としての造園士というのは見当たりません。造園には設計資格というのがないとも言えます。

 

Q5.エクステリアプランナー1級はかなりレベルが高いと伺いました。建築士の資格をお持ちの方にとっても少し難しいかもしれないのでしょうか?

エクステリアプランナーの1級は、製図の試験があり、建築士の方の力からすれば1級を取りやすいのですが、例年25%程度の合格率の様です。だから、けっこう難しいのかも知れません。エクステリの方は、建築的な知識や製図が難しく感じると思います。

特に最近ではCAD製図が中心になって来ており、手で描くことが苦手になってきています。さらに断面図などの施工図の作成にも慣れていないように感じます。

 

Q6.勉強方法はどのようにするのでしょうか?

エクステリアプランナー2級の受験対策講座をYKKAPの社員を対象に、4年程前から毎年お手伝いさせて頂いております。また、E&Gアカデミー、日本エクステリア建設業協会でも同様の受験対策講座をお手伝いさせて頂いております。私は、受験のために「エクステリアプランナーハンドブック」を読み込むことやエクステリアの資格を持つ人が増えることがエクステリアのボトムアップになると考えています。

CADのソフトは、従来私たちが使っていたT定規やドラフターと同じで、CADは何も考えてはくれません。作図の器具と考えられます。作図時間は早くなるわけでもありません。しかし、CAD図面は、誰が書いても差が付きません、図面の位置や縮尺、完成予想図の作りも簡単で豊富です、作図用紙もいりません。図面の構成やレイアウト、図面の着彩等もとても楽です。作図の保存も場所が必要なく、修正も簡単で、早く作図出来、資料として同じようなものを使う場合には特に便利です。

また、CADソフトはドラフターや製図台などよりも高価ですし、コンピューターの

仕様(スペック)やOS、バージョンアップ、プリンター、必要に応じてオペレーター等費用が掛ります。そこで、製図をする場合には、オペレーターを別に用意しないで設計者が、ドラフターを使って作図するように、CAD操作が出来る様になることが求められます。

つまり、CADソフトを利用して設計者が作図操作をするようにするには、CADソフトの習熟と計画や設計の作図や知識や提案が出来る事が条件になります。しかし、CADは道具ですので、計画やアイデアは提供してくれません。したがって、計画や発想は人の知識と能力です。そこで、計画や設計の知識、技能を作り出すのが、「エクステリアプランナー」の資格を勉強して獲得する必要がある事になります。

いずれにしてもCADソフトは作図の道具で、計画の発想はしないので、設計者はCADを使いこなし、CADに期待しすぎ、使われないことが重要です。

 

 

Q7.エクステリア業界の問題点は何でしょうか?

業界の人たち、社員の方たちが基礎教育を受けてきていないのです。建築のように建築教育を受けてきて建築の資格を持った人が社員として雇われるという関係ではないのです。資格を持っている人がほとんどいないのです。ですから、エクステリア業界なかなかボトムアップしないのではないかと考えています。

今の時代は、商品をネットで買えるでしょう。エンドユーザーが自分で見ていいなあと思ったこの商品を買おうとしたら、買って現場に届けてこれで取り付けてということが可能です。私は、お客さんは将来ネットで買うようになると確信しています。家電メーカーなどは直接、お客さんには売らないけれど、量販店の電気屋さんのようなところへ卸しているだけ。その仕組みをエクステリアでもやればいいのかなあと。そのためにはお客さん向けにカタログをつくらないといけないと思います。そこに携わる人たちのスキルとか資質が十分ではないと思うんです。ここを教育すると同時に、売りの仕組みを考えないと、誰に、何処に売るのかということです。建築の設計事務所に売ればいいんじゃないかとかいう意見もありましたが、それは考え方が建築の方のほうが理論的なので、資格を持った方が説得しないといけないと思います。

エクステリアプランナー2級の実地試験内容はゾーニングについてですが、図面ではなくて考え方をつくらせる目的で問題が作ってあります。計画、設計の意図を描くようにした試験です。考え方があれば、どんな商品が必要かと決まってきます。値段で選ぶのか、考えで選ぶのか、そういう意味では設計事務所(建築や造園、エクステリア)の方が図面の中に設計意図により選択した商品を織り込んでもらえるのでいい。

エクステリア商材メーカーの商品名をみんなが使うから標準語のようになり、エクステリア商材メーカーの努力のたまものかもしれませんが、図面にも書き込んでしまう。商品が良いことも有るのですが、考えないで簡単で便利だから使ってしまうことになっています。

だから、いまの販工店にものを売ると言う現状の他に、お客さんにまず売る、お客さんに商品を知ってもらうということと、少なくても図面を計画する側に商品を知らしめる、先ほどいったように、私が図面に商品を入れようとしたときに寸法がわからないようなことがおこる。どうして、我々設計事務所にそういうカタログを出さないのか。

細かい所では、エクステリアで言われている図面が一般に言う図面とだいぶ違いますね。

エクステリアの平面図の多くは、図面名称や仕様を引き出し線を用いて描いており、他の建築関連の図面などに比べ異なっています。引き出し線は記入スペースが小さいので、仕様を十分に記入できません。一般に図の仕様などは仕上表を用いて下地材や仕上材、メーカー名や型番などをかきます。建築の設計図書には仕上げ表がありますが、エクステリアや造園では公共物件以外で仕上げ表を見ることは稀です。設計図法の法律に則ったような契約図書がないのです。仕様が曖昧になっているために、施工や積算等に大きな問題が生じます。そこにも問題があるのです。言い出したらきりがないのですが。だからレベルアップしたいと考えているのです。

エクステリア業界には様々な問題がありますが、一朝一夕には解決しそうにないかと思います。一番の原因は教育だと思っています。そして、エクステリアの業界に教育が必要だと思わせるのは、エクステリアの仕事の良し悪しを受けるエンドユーザーや、社会だと思います。社会がこのような人たちを育ててこういうと、こういう設計資格を持った人たちが計画したものを私たちに与えてくれないと私達の生活は旧態依然として良くならない。 それは、大正期に生活改善同盟で建築の方たちが描いた健全で快適な文化的生活を営むための計画図面があります。建物があって廻りにテラスやパゴーラ、砂場、壁線、藤棚、物置、物干し場等が設けられた生活。文化的な生活ってこういうもんだっていうものを100年前に出してるんですね。

それは庭だけじゃないんです。外廻りの囲障とか、門とか、アプローチとか。そういうの全部当たり前なんです。そこをやっぱり考えて、その人の住む価値観もあるし、趣味嗜好もあるでしょうから、この住まい手がここに住むことによって、いかに快適になれるのかっていう、その外部住空間をどういうふうに考えるかっていうのが、私はクステリアだと思っています。庭だけ考えればいいとか、門だけ考えればいいとか、車を入れるとこで考えればいいじゃ駄目なのです。それは建築の方でも家だけ建てたら、ここの家族は幸せになるとは思ってない。やっぱり外廻りもきちんと設計する。住むところもそうですね。これだけ色々な所での災害を見てくると、今まで何もなかったからよいではなく、ここに住むのがいいのかと考えないといけないわけです。だから住むところは、建物ではなくてまず環境であろう、その環境は住空間であるわけですね。このように教育のことや設計のこと、計画の主体は誰か等の様々な問題があります

 

Q8.E&Gアカデミー設立の狙いについて

エクステリア全般の教育をすることが狙いです。私は設立から講師としてお手伝いさせて頂いています。E&Gアカデミーの授業内容は、全日制の1年間で社会人が多く学ばれています。みんな優秀でやる気がありました。講師達に「遅刻しないでくれ」、「休まないでくれ」と言ってきます。私は今までそんなこと言われたことが無かったので面くらいました。自分はこれだけのやる気になっているのだからと。だから質問攻めで中々教室から帰れない。人間ってすごいなあと思いました。勉強しようと思って入ってきたのと、親に行けと言われて入ったきたのではまるで違う。卒業生は今まででの学生生活の中で一番勉強したという。科目は沢山あります。すべて新しく勉強することだから、みんな混乱で徹夜したりしていました。

E&Gアカデミーは私塾のようなものなので、資格が取れないのです。学割もないです。でも、ここの卒業生は相当優秀ですね。

 

Q9.果たした役割は大きかったですね。

昔、私が学校に入るときに、造園科があったのは、千葉大(25名)と東京農業大学(100名)だけでした。卒業生の数は圧倒的に少ないものでした。やはり数が少ないと大きな力にならないのです。

あるE&Gアカデミーの卒業生がいうには、頑張って勉強したけれど、入社したところはいい加減な仕事をしていたのを指摘したらこれでいいと言われ、こんな会社に勤められませんと退社したといっていました。勉強すると何が正しく何が間違っているかがはっきりと理解され、意識も高まるようです。

私はE&Gアカデミーをお手伝いしてもう二十数年になります。もとは、大阪と名古屋と東京にありましたが、ずっと赤字の様で、現在は東京校と短縮の大阪校だけになっています。今は株式会社ユニマットリックが経営しています。スポンサーなしでこのよう教育機関を運営していくのは大変なようです。練習や講習場所の確保、いろんな機材や教材も必要です。でも唯一、エクステリアの全般を教えているようなのはE&Gアカデミーしかないと思います。こういうところで勉強した人たちが社会にでて啓蒙していくしかないかなと思っています。

エクステリアデザイン技術とプランナー制度については、先ほどお話しました。

ただ、エクステリアの技術についてもきちんとした書き物が残っていかないといけないと考えています。設計図書や施工方法について、建築学会が作っている標準仕様書のようなものが、140年の歴史の中で10冊、20冊と出来てくると業界の標準的なものができてくるのかなと思います。まだ、日本エクステリア学会で出している書き物は7冊くらいで、続けていこうと思っています。毎年1冊作成しようと、各関連委員会に発破かけています。委員会に入らないのならば会員になるなといったら、ハードルが高いと会員が入らなくなったと言う苦い経験もしました。いまは個人会員が40名、賛助会員が8社です。ですから、年間で1冊本が出せるかどうかです。みんな手弁当です。執筆料も、理事もお金がでない。事務局にかかるけど。かかるお金は発表会と出版費用です。日本エクステリア学会は、今は高円寺にある(株)住宅環境社というところに置かせてもらっています。

 

インタビュー

吉田 克己 (一般社団法人)日本エクステリア学会 代表理事

略歴

  • 1943年 千葉県に生まれる
  • 1965年 東京農業大学農学部造園学科卒業
  • 1965年 殖産住宅相互株式会社入社
  • 1995年 吉田造園設計工房設立
  • 1998年 E&Gアカデミー東京校講師

資格

  • 一級エクステリアプランナー
  • 一級造園施工管理技士
  • 一級土木施工管理技士