「人と環境」の双方の心地よさを創造するシェアサイクルが快適空間デザインを発展させる。
脱炭素社会の実現に向けて、公共空間や商業施設での外部空間が貢献できる箇所は想像以上に大きい。これまで紹介してきた「公園」や建物の「庭空間」、さらには街中の休憩スペースなどは、人の快適性を実現するだけでなく、地球環境にも優しい空間であることも特徴だ。快適な景観を構成する要素として、共通するキーワードは、「人と環境」の双方に心地よさが成立するということであろう。このバランスを保つことが、今後の景観経済の発展に向けた重要なポイントとなる。
さて、今回はそんな中でもう一つ、「人と環境」の快適性を両立させる景観アイテムとして、「シェアサイクル」に注目してみたい。
シェアサイクルは電動バッテリーを使用しているものの、環境負荷に関しては自動車と比較にならないくらい低い。また使用者が各々の自転車を所有することに比べて、自転車の製造量が削減でき廃棄自転車やロスもなく、放置自転車の数も減るので環境負荷はとても軽減される。
国土交通省の2019年調査によると、北米・欧州・中国を中心に2300都市でシェアサイクルが導入されている。その中でも日本の導入都市数は225都市に及び、これは中国、米国に続き世界3位であるという。
ただし、この急速な普及が日本でも多くの課題を露呈することとなった。それはシェアサイクルがポートに収まり切らずに無秩序に駐輪されてしまう「あふれ」問題だ。日本の多くのシェアサイクルは、自転車それぞれのタイヤが一つの場所に収まるポートはあるが、スマホなどの認証が得られれば、ポート外であっても返却可能という〝利便性〟がある。この利便性が、時としてニーズの多い場所で「あふれ」を生んでしまう。これは景観的にも良くない状況だ。したがって、これを解決するためには、ポートをしっかりと整備し、「あふれ」が起きないような空間デザインが必要となるわけだ。
ちなみに東京で一番多いポートの設置場所は「私有地」(31%)で、2番目に「公共公園の敷地内」(17%)、「コンビニ敷地内」(12%)と続く。海外では「道路」が一番多いのだが、日本は道路法などの規制もあり、5%程度に過ぎない。ただし、こうした数字も今後はそれぞれがエリア拡大とともに変化を見せていく可能性がある。それはいま、全国的に急ピッチでポート設置が進んでいるからだ。
例えば民間では埼玉県和光市の大型ショッピングセンター「the market Place和光」の「ダイチャリ」、名古屋PARCOの「Charichari(チャリチャリ)」の他、公共空間ではつくば市シェアサイクル実証実験「つくチャリ」、大阪府豊中市の「HELLO CYCLING」などが、ここ1~2ヶ月でサービスを開始している。
この中で象徴的なのは、「Charichari」を運営するneuet㈱の取り組みだ。同社は「こうした取り組みは自転車を地域全体でシェアすることによるクリーンなまちづくりや放置自転車対策としても効果があり、SDGsの達成や景観向上に繋がるものと考えている」としており、この提案が商業施設のPARCOを動かす形となった。同社はPARCOに続き今後もポートオーナーを募集していき、地域経済への貢献に寄与したいとしている。
現在、日本のシェアサイクル事業者は259社(国土交通省調査、※うちドコモ・バイクシェアとOpenStreetの2社で50%のシェア)ある。さらに今後、各エリア、各事業者がこれらのシェアサイクルを導入していけば、だんだんと自転車と歩行者が中心の街になっていく。今までの自動車が中心の道路文化は変化をしていかざるを得ず、歩行者に優しい広場も出現していくはずだ。
シェアサイクルの普及を景観経済の視点で見ていくと、この分野は空間デザイン的にはまだまだ未発達である。それだけに、ポートオーナーに対しては環境対応訴求と共に快適デザイン創造の実現による他の施設との差別化提案が有力だ。ここには非常に大きな伸びしろが存在している。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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