モールからパークへ、これが新しい商業空間だ!!
2019年11月、東京郊外の町田市に巨大な商業施設「グランベリーパーク」がオープンした。駅名も「南町田」から「南町田グランベリーパーク」に変わり、町田市、東京急行電鉄、ソニー・クリエイティブプロダクツの協業によるまちづくりの一環である。町田市は「みんなとつくる新しいパークライフ」をコンセプトに、公園と商業施設・文化施設を「南町田グランベリーパーク」として一体的に開発し、地域全体にみどりを広げ、みどりの発信源とすることで、景観からまちを変えて行くことを目指している。今回は、「グランベリーパーク」の施設デザインを通じて、コントラクト市場の今後を探って見たい。
公園と商業・文化施設で新たな住民を呼び込む!
東急田園都市線「南町田」駅前のアウトレット「グランベリーモール」が2017年に閉鎖、その跡地の再整備に向け、町田市、東京急行電鉄、ソニー・クリエイティブプロダクツによる官民連携プロジェクトが発足、「南町田グランベリーパーク」に生まれ変わりつつある。本事業は、新たな住民の流入や交流を促し、世代間の循環によるまちづくりを目指すもので、沿線まちづくりの観点からも注目される。
「南町田グランベリーパーク」は「鶴間公園」と「商業施設・文化施設」を一体化させるもので、敷地は約22ha。商業施設「グランベリーパーク」は郊外ならではの緑豊かな環境を活かし、7つの屋外広場と6つの建物で構成され、多世代が楽しめる「食」と「アウトドアライフ」を軸に、体験型エンターテイメントと個性豊かな店舗を約240集積した。当施設は、アウトレット比率を4割に抑え、飲食・食物販が3割、残りを物販店が占め、店舗面積は53,000㎡(敷地面積約83,000㎡、延床面積約151,000㎡、駐車場約2,000台)で、従前の倍となる360億円の売上と、年間来場者1400万人を目標としている。
植栽と広場、景観からまちづくりが始まった
南町田駅で電車を降りると、大きな犬の「スヌーピー」に迎えられ、ホームからすでにテーマパークに入ったような感覚だ。そして、改札を出た外は、いきなり商業施設「グランベリーパーク」となり、そのまま商業建築に囲まれたモールを進むと、中央の「グランベリープラザ」に突き当たる。そこから動線は左右に分かれ、円を一周するモールとなっていて、巨大な円の中心部に駐車場棟を配し、外から駐車場の建物が見えない構造となっており、景観への配慮が行き届いている。また、周囲を歩いて行くと至る所に広場があり、各ゾーンと主動線との“つなぎ(溜まり)”となっていて、植栽とベンチが落ち着いた雰囲気を醸し、来場者が公園にいるようにくつろいでいるのが印象的だ。
町田市は、南町田駅周辺地区の景観形成に、「みどりに包まれたにぎわいと交流の景観」「ゆったり時間を過ごせる景観」「子育てがしやすく健康的に暮らすための景観」の3つの方針を掲げている。本計画のロゴデザインである「大きな樹」は、駅と商業施設と公園を有機的につなぎ、自然とにぎわいを両立させるまちづくりを象徴している。
今回、計画の柱となっているのが、商業施設と公園をつなぐ中間領域となる「パークライフ・サイト」の存在である。2つの建物、丘の上の広場、遊歩道で構成され、これは、エクステリアでも提案している家と庭をつなぐ“縁側”効果や、建物と道路の中間領域をにぎわい創出として利用する公共空間の活用にも通じるものだ。
また、施設内には郊外立地ならではのグリーン&ガーデニングショップが多く、「the Farm UNIVERSAL」や「Green Living」などが出店、緑ある豊かな暮らしを提案している。
カヤックとクライミング体験ができる、アーバンアウトドア
集客の目玉は、広場の一角に設置された人工池とクライミングウォールだろう。カヤックやクライミングをファミリーで体験できるのが早くも話題だ。筆者も含め、大勢の見物客が「ちゃんと登れるだろうか」とハラハラする様子が見て取れ、共に体験したような気分となり、イベント的にもねらいは的中である。この企画は、アウトドアスポーツ業界大手「モンベル」の仕掛けによるが、彼らは国内最大級の店舗面積となる2250㎡の「モンベルビレッジ」を投入、市場拡大への本気度が表れている。
また、“グランピング”ブームの火付け役となったアウトドアー&キャンピング用品メーカー「スノーピーク」も、レストラン併設店舗を国内で初展開し、レストランの什器類は自社のキャンピング用の椅子やテーブル、食器を使用、メニューも野趣にあふれ、グランピングの雰囲気が味わえる。
「スヌーピーミュージアム」で、子どもと愛犬家の聖地に!!
「南町田グランベリーパーク」のもう一つの話題は、「スヌーピーミュージアム」
だろう。カリフォルニア州のシュルツ美術館の公式サテライトミュージアムとして、今月14日に開設されるもので、常設展示と企画展示をはじめ、「まちライブラリー」「ピーナッツカフェ」「子どもクラブ(児童館)」「ワークショップスペース」も併設され、キャラクターのかわいさと、犬好きの多い日本ならではの文化施設だ。
また、グランベリーパーク内には子ども向けの店舗やキッズエンターテイメント空間が多く用意され、若いファミリーにとってうれしい場となっている。
スヌーピー人気とも相性が良いペットショップやドッグファッションを扱う店も多く、施設内には犬用ペットトイレや足洗い場が3か所も設置され、犬を連れて歩ける商業施設として注目だ。ご近所の犬の散歩道だけでなく、駐車場にはペットも利用可能なエレベーターも一部設置され、車で犬を連れて来る家族でにぎわうのも、当施設の特徴になる。
グランベリーモールからグランベリーパークへ、商業空間の“公園化”という新たなコンセプトは、郊外立地だからこそ成り立つように思われがちだが、都心エリアでもリアル店舗の小売環境が厳しさを増す中、今後の商業のあり方を示す試みとして、注目に値するのではないか。
「南町田グランベリーパーク」は、エクステリア業界におけるコントラクト市場の今後を図る上で、“体験と景観”がつくりだす“風景”の重要性を示唆しているように思う。
百瀬 伸夫(取材・写真・文)
まちづくりアドバイザー、商店街活性化コーディネーターほか
武蔵野美大建築学科卒 ㈱電通にて環境設計部・スペース開発部長、電通スペースメディア研究会、電通集客装置研究会を主宰、㈱ロッテ専務取締役を経て、一般社団法人IKIGAI プロジェクト理事、NPO法人顧問建築家機構理事、一般社団法人日本ガーデンセラピー協会顧問、テンポロジー未来コンソーシアム㈱代表取締役。著書に『新・集客力』、『Showroom& Exhibition Display Ⅰ・II 』他がある。
【出典】
月刊エクステリア・ワーク別冊 サードプレイス『庭・快適空間』より
厳選 サードプレイス事例
◎最新事例「サードプレイス『庭・快適空間』2021年秋」(住宅環境社刊)
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