設計に於けるエクステリアデザインのポジションを考える。第1回(全2回)

前編 設計プロセスでの調査の重要性とエクステリア商品素材の選択基準

1.こどもホスピスの取組み

Q.津嶋さんが最近やられていること、関心を持っていることについて教えて下さい。

いま、岡田新一設計事務所の業務比率は公共事業が6割、民間事業が4割です。公共の場合は教育事業、学校関連、特に小中学校の建替えが多いです。小中学校を統合しての移転、新築を中心として、図書館、美術館などの生涯学習・文化施設です。また民間事業では医療機関の移転、新築という建替え事業が主な業務です。

 

Q.最近、取り組んでいるテーマについて教えてください。

会社としての取り組みは、学校レベルの1万㎡クラスから、約500㎡のこどもホスピスという特殊な環境の作り込みまで、両極端をやっています。敢えてニッチな部門に取り組んでいるのは、社会制度から外れたところ、制度が及ばないところに対してどういった取組みをしていけるか、社会に対してどのようなものを提供できるのかは、建築家の使命だろうと考えるからです。新しいことに、幅広くチャレンジしていこうと取り組んでいます。

もう一方で、弊社は今年53年目を迎えますが、昔の建物の建替えや長寿命化のお問合せを多くいただいています。都市の財産として公共財をどう維持していくかという意味でのリニューアル、内装改修、構造補強、設備改修など、公共の仕事のなかの3割くらいはそのような仕事です。ちょうど環境持続研究や100年建築というテーマに同じ意義を感じています。

 

Q.こどもホスピスについて教えてください。

今、横浜市金沢八景でこどもホスピスを建設しています。皆さんにご説明するとき、子どものホスピスとは何ぞやというところでまず躓くのですが、きっかけとして取り上げるのは医療ドラマ「コウノドリ」です。神奈川県立こども医療センターのNICUを舞台にしたドラマです。もちろんフィクションですが、今何が病院で起きているのか興味を持っていただけます。横浜こどもホスピスプロジェクト(※注1)で目指しているのは、病児とそのきょうだいや親、家族、そういったものの全部を環境として捉え、地域に支えられた場所を作ろうというコンセプトです。

横浜こどもホスピスプロジェクト 建物外観イメージ

それはお医者さんが充実している急性期の医療機関でも治療方法のない難病、特に小児がんが多いのですが、これ以上治療を望まない、あるいは余命宣告をせざるを得ない何もできない状態の子どもと家族の居場所がどこにあるのかという問題です。退院してしまうと自宅しかないのですが、でも自宅では、特にお母さんはわが子のことに一所懸命で、もう疲労困憊してしまって、家族と一緒に過ごす余裕がないんです。それが現実なんですね。そこで、家族と一緒に過ごせる場所を作りましょう、居場所を作りましょうというプロジェクトです。

もうひとつは、病気の子どもでも他の子どもと一緒に生きたい、暮らしたい、学校にも行きもうひとつは、病気の子どもでも他の子どもと一緒に生きたい、暮らしたい、学校にも行きたいし、一緒に遊びたい、だけどできない。よく、学校の先生に相談に行くと「そうだね、元気になってから行きましょうね、今は病気をしっかり治そうね」と言われるらしいです。(※注2)それは、いまじゃなきゃできないことなのに、元気になることをまずやりましょうといって、結局学校に行けないという、それはやっぱり違うんじゃないのかなと。大人のホスピスは、もう60年、70年生きた方が最期を迎えるという場所でいいかもしれませんけど、2歳、3歳の子どもにとっては最期を迎えるという場所ではなくて、生きる場所そのものなんだという意識の改革が必要だと思います。それは「家」でしょうということなんですけど、家の中だけでは大変です。家族も自分の場所を取り戻す、そういう場所がこのこどもホスピスです。友だちとも遊びたいし、同じ仲間とも知り合いたい。この辺は、行政がまだタッチできていない部分なんです。国の社会保険を使えるわけではないし、治療ができないから。治療ができれば医療保険が使えるのですが、何もしないところにどういう環境を作るのか。今、横浜こどもホスピスプロジェクトが挑戦しようとしているのは、欧米タイプの個人や企業などからの寄付で事業を継続させる仕組みです。認定NPO法人を立ち上げているんですが、そういった事業継続の仕組みづくりをしていくのもこれからの社会への関わり方だと思います。

注文を受けてプロダクトを出すではなくて、同じ方向を向いて、一緒に歩いてゆく姿勢が作り手の方にもなくてはいけない。それは、ものづくりのスタンスとしてニーズに答えて何かを作るというんじゃ、もうそういう時代ではないんじゃないかと思うんですよね。一緒の方向を向いて、ひとつひとつ積み上げていくというのがないと、企業として維持できない。社会的に存続するには、そういうことなんじゃないかな。特に震災のこともありましたけども、今のコロナの話も結局そこに医療というサービスを提供するだけじゃ解決しないわけで、日頃の暮らしを少し犠牲にしてでも、少し我慢してでもやらないと結局共倒れになってしまうように思います。そういう発想を前向きに転換して、一緒に歩む世界を、ともに在る社会を目指すべきじゃないかというきっかけになったのが、ぼくにとってのこどもホスピスです。

大阪に2施設、既に稼働実績があり、こういう居場所づくりが北海道、福岡、東京、長野、福井とか、全国各地に動き初めています。点がたくさん繋がって地域に繋がっていけばいいなって、楽観的に思っていますけれど。イギリスだと、全国で50カ所くらい、ドイツもそのくらいあります。各県に1つはこのような施設がちゃんとあって小児がん拠点病院には必ずくっついているとか。医療制度となるとその制度の仕組み通りにやらなくちゃいけないので、逆に民間資金を活用しながら寄付でやるってことは、逆になにもしなくてもいい、その代わり親と子がゆったり過ごせる場所、とくにサービスを何もしない、でも一緒に安心してすごせますという、そういった場所が求められていると思います。

横浜こどもホスピスプロジェクト 部屋内観イメージ

 

Q.高齢者のホスピスはありますよね

40歳以上であれば介護保険がベースになっています。小児がんの場合は小児慢性特定疾病医療費助成が受けられますが、小児がんでない場合、難病指定を受けない限り助成はない。それと、小児年齢が18歳以上になってしまうと対象外となり、もう一般になってしまうので、全身のケアをしながら国民健康保険の3割負担で治療を続けるというのはとっても大変なことです。

横浜こどもホスピス「うみとそらのおうち」は延べ面積500㎡、2階建ての小さな建物です。横浜市が土地を無償提供し、NPO組織が建設運営する事業です。これを民間でつくるのはできるんですが、維持していくのが課題です。その辺、日本はある意味未熟で、どうしても制度に頼りがちです。要は税金を使うということです。弱いものを助けるには税金でやって然るべきという雰囲気が何となくあるので、法律を作りましょうという方向になるんですけれど、法律を作るとそれ以外のことができなくなってしまうのが実は難点で、並立できるような新しいしくみをつくることを考えて欲しいと思います。

海外の場合、視察にいったイギリスでは、民間組織なので、地域の慈善基金で年間7憶円くらいの運営資金を集めて、3割は国からの医療保険で賄われるんですけれど、運営資金のベースはそうやって作ります。それをクリスマスボールでのオークションやビンゴ大会などで、例えば地元サッカーチームマンチェスターユナイテッドのユニフォームやボールをオークションに掛けて、一晩で3000万円くらいの売上をつくっています。そういう文化とはなかなか一緒には語れないなとは思いながらも、そういうことって今日本でもできると思うんですよ。江戸時代の富士講みたいな。いまこういうコロナ渦のなか、経済は動いていて株価は上がっているけれど、みなさん何となく元気がないというか、不透明感というか、コロナで閉じ込められてみたいなアンバランスなところがあると思います。じゃあ株価が上がって資産が増えても、さらなる投資のための投資をしているだけで、もうちょっと違う使い道を考えるべきじゃないか。そういうことを認める社会にしていかないと、寄付文化は根付かない。そこの仕組みづくりの方が本当は大切だと思う。よくニーズはあるのかと言われます。ニーズは、要は人数。子どもで生命予後が悪いと言われるような医療的ケア児は約2万人はいるけれども、相対的には僅かな人数です。希少がんとか小児がんというのはニーズと言ってしまったら、そこに税金を投入するの?新薬開発にお金を掛けるの?といわれちゃうようなしくみに今はなってしまっています。ニーズという言葉は嫌いですけれど、逆にそういう環境をつくること自体が使命だと思わないと、社会は成り立たないのではないか、最近、特に感じています。

 

2.設計プロセスのスタート地点―計画地―

Q.何か開発していこうと、設計していこうというと、土地、計画地がまず決まっている。まず設計の仕事というと、計画地の持っている情報が何かというところから始まるのでしょうか。

そうですね。どんな物件でも同じなのですが、岡田新一が私たちに教えてきたやりかたというのは、建築というのはその場所に建つ以上、その場所のもっている魅力や力をいかに汲み取るかというところが設計だと教わりました。それを常々気をつけています。その場所の歴史やそれまでにそこに何が建っていたのか、なんでその場所が候補に選ばれたのか、政治的な話、歴史的な過去の話はとっかかりになります。逆にそれを舞台に小説を書いている人がいれば、何故そこを舞台に小説を書こうと思ったのかとか、いろんなことを集めてからようやく出てくるものを考えるというやり方なので、やりたいことがまず頭の中にあって、それを形にするやり方はあまりやっていないように思います。

 

Q.岡田先生も基本的にそのようなお考えてですか。

そうでしたね。岡田所長と一緒に敷地の下見、調査に行くと、自分の足でずっと歩きまわって、写真をとにかく撮りまくって、その場でメモを作るという作業が最初なんです。それを今も心掛けてやっています。

 

3.外部空間と内部空間

Q.エクステリアというと、内部の空間と外部の空間に切り分けていくような気がしますが、そのときに外部空間はどのような位置づけになりますか。

あまり、そのように分けて考えていないです。敷地があれば、敷地の外も視野に入れて見える風景と考える。そこから何が見えますかとか、奥行きある風景を考えた中で、たまたまここに屋根がかかっているのがインテリアなので、エクステリアを別にデザインするということはまずない。日本の庭のつくりかたは、そうですよね。書院からみて、庭があって借景があって、あの空間性を引き継いでいるのかもしれません。建築をやっている人はみんなそうじゃないのかな。あまり分けて考えていないんじゃないかなと思います。

 

Q.どちらを重視するというのはないとは思いますが。

ないですけど、ただどうしても予算というのはあるので、予算上はここまでとどうしてもなりますよね。そうすると、外まわりは、予算の時には切り分けられることが多くなります。そうすると建築の方で使ってしまうと、外構は残りのお金でなんとかしましょうとなるんですけれど。だからまあ、植物は伸びてくれるので、その場所に育つ植物を植えて、それを10年かけて育てましょうと。そこまでの時間のスパンを考えて環境を作っていくという方が馴染みやすいです。いまは、そういうものに関心を持っている方もたくさんいらっしゃるし、そういうことをやるとワークショップとか、特に小学校の子どもなど、地元のおじいちゃん、おばあちゃんが関わりやすくなります。私たちも参加したんだ、自分達で学校を作るんだ、苗を植えて10年後に学校に来たら苗が5mくらいに成長していたとか。ワークショップはそういう機会を作ってくれます。

 

Q.岡田新一設計事務所は、博物館や文化施設など、実績が多いのでしょうか。

ここ15,6年はそうです。プロポーザル方式が多いというのもありますが、プロポーザルの時の条件にもワークショップがあったり、逆にそれがセールスポイントになったりしています。やはり地域と一緒になるというのは、最近の流れではありますし、建物に愛着を持ってもらうことは必要なことだと思います。

 

Q.津嶋さんはエクステリアとインテリアは同時成立だというお考えでしょうけれど、標準的な手順などはあるのでしょうか。どのようにつくって、何を考えて、何を決めていってというような手順です。例えば、配置というのは、どのように決めるのでしょうか。

配置は人の流れですよね。人と物の流れです。どのように人が流れていって、人が動くには何か目的があって動くので。例えば学校ならば、勉強する場所って実はいろんなことをするんですよね。先生の方ばかり向いているのではなくて。その活動する状況をいかにイメージできるかというところに一番エネルギーを注ぎます。学校の教室は居間みたいなもので、何でも出来る場所=オープンスペースと言えますが、もうちょっと広げると、どこでもできるという考え方ができる。そうすると、全部同じ場所、同じ作り方でいいかというとそうではなくて、自分が選べる場所を作ってあげるというのもひとつの教育だと私は思います。教育の空間というのは、自分の気に入った場所を見つけて、私はここで本を読むとか、同じ教室の中でも日当たりの良い場所だったら何故か捗るとかワイワイできるとか、だけど隅っこで薄暗がりだけれども気持ちいい場所というのが必ずどこかにあって、ある子どもはそこに入り浸りになるような場所ってやっぱりあって、そういうのがいろんなところに沢山見つけられる場所をつくるのが教育の場所だと思うんです。だから子どもがどうやって動くのかと考えるときには、自分が子どもの気持ちにならなくてはならないのですが、そういう感覚をいかに忘れないで持っていられるか。それはどんな種類の建物でも同じです。例えば工場だとしても、物をどうやってつくるのかというところから始まって、ものの流れがどっちから来てどう動くのか考える。そこが一番大切なのではないかと思います。それに歴史や土地の成り立ちなどから材料が決まってくる。それが手順と言えるかもしれません。

 

Q.それは、病院を設計するときも同じでしょうか。看護師の動きをよく観察して設計しますね。

そうですね。だから私たちにとって調査というのはとても重要です。

 

Q.それは、非住宅、商業建築や病院もそうですけれど、外部空間も人の動きを調査しながら、想像しながらゲートなどの配置が決まり、機能が決まるのでしょうか。

外部空間の方がそうかもしれません。まず人がどこから入ってくるのか、車はどっちにするのかなど。人と車を分けるのか一緒にするのか。それは外部のデザイン方が動線から決まるといえるかもしれません。あとは、風向きとか。一度、日本海側で北向きに作ったら、滅茶苦茶叱られたことがあります。やっぱり、風を避けなくてはいけないので。そこはその土地でちゃんと見て。半日くらい居ればだいたい分かるんですけれど、その周りの民家の造りを見て、玄関がどっち向きだとか、そういうことを調べます。

 

Q.よくお寺なども北向きに作りますよね。庭は光線が入って借景がすごくよく見えるので。

まさにその通りです。日本の家屋は南向きばかりと思ったら、昔の建物は違っていて、南向きは作業場なんです。庭と繋がる作業場で、北向きにお座敷があって、お座敷から見える景色が陽に当たっている庭園が見えるというのがもともとの日本の造り方です。だから北向きの部屋って、もっと見直されていいと思うのですが。

 

Q.いわゆる、外部空間といったときにどのようなものをイメージされますか?

外部空間で一番重要だと思うのは、足触りというか、床面だと思っています。それが土なのか、砂利なのか、石畳なのか、レンガなのかによって使い分けをするので、一番肌が触れているところを常に注意したいと思っています。次はそこから何が見えるのか。それは風景であったり、植物であったり、その場所に必要なものが何なのかによって変わってきますが。そういう意味で肌ざわりというのを一番、重視しています。それはインテリアでも同じですが、でも外の方が変わる変化が大きいので。

今時はなかなか難しいです。バリアフリーっていうと、ごつごつした場所はだめだっていわれてしまうし、平らじゃないといけない、坂があったらだめだとか、段差があってはだめだとか。ある意味空間体験がつまらなくなっているのかもしれないです。でもユニバーサルデザインとかいいながら、真っ平な外部空間というのはないので、そこは、そういうひとでも歩けるような構造をつくってあげればよいだろうと思います。真っ平じゃないといけないという発想じゃだめだろうなと思います。

今逆に、建物の中に斜めの部分があって、それが土地とつながっているとか、伊東豊雄さんの図書館だとかいろいろありますけれど、そういう発想がユニバーサルデザインには逆に必要なのかもしれません。

 

4.エクステリア商品の選択の基準

Q.外構の商品、エクステリアの商品とはどのように選ぶのでしょうか。

エクステリアはやはり耐久性ですね。耐久性が一番重要なファクターになって、あとは維持メンテナンスがどのくらい必要なのかというところです。我々の事務所では、石という素材を使うことが多いですが、それはメンテナンスフリーで塗装を塗り替えるような必要がないので。石でなくて木材でも、コンクリートの塊でもいいんですが、部材を構成する部品を組立ていくようなものは極力避けたいとか、そういうことはあるかもしれません。

 

Q.それは何かお考えがあるのでしょうか。耐久性、対候性ですね。

出光美術館門司 外観

地面からつながっているものという、極端なことをいうと地面が盛り上がってイスになっていたり、テーブルになっていたりしてもいいような環境をつくる方が、何かポンと置くよりは、私たちの設計には馴染むかなと思います。いつのまにかイスになっているとか。そのようなものを目指したいのですが、なかなか実現できないですけれどね。アイデアはそういうところはあります。

先日、ベンチの話をしましたが、いまデザイン的にいいベンチがあまりなくて、いままであるのは、コンクリート系でつくるもの、FRPでつくるもの、最近は木に樹脂を含侵させて耐久性を持たせたものとかというのはあるのですが、アルミに拘れば、割と簡単に押出し成型できるし、材料は軽くて持ち運び可能で作業性も良いという、そういうメリットを使ったものがあってもいいんじゃないかなと思います。まあ、脚はコンクリートで作っても、上に載せるものを非常にシンプルなものが、バーンとあるというのはデザインとしては可能性があるのかなと思います。手摺とか、フェンスはアルミ商品が多いですけれども、他の材料、スチールで作ったものとどうデザインが違うんだとか、「アルミならではとは何なんだ?」とかもうちょっと考える余地があるんじゃないでしょうか。コストという問題がありますが、もし私たちがアルミを使って何かやるんだとしたら、引抜き材じゃなきゃできないようなものを組み合わせて、シンプルに何か作れないかとか。単板だったら何かできないかとか。そういうのは工場に行くと発見することが多いのです。やはり製造の仕方にあった製品デザインというのは、逆に期待をしています。まあ、別にスチールに置き換えてもいいんじゃないのとなると、コストの安い方ということになってしまいます。

 

Q.アルミに関心を持っていらっしゃるのですが、どういう点でしょうか。さきほどは、軽い、施工性が良いなどいろいろ挙げていただきましたが。

岐阜県図書館 手摺

素材感もいいですよね。うっとうしくない。無垢で使えるというか、素材そのものがみえるというのがいいところだと思います。鉄なども本当は生素材のまま見たいのです。南部鉄のように鉄の表現というのがあるじゃないですか。すごく魅力を感じます。アルミも地金の力というのが魅力だと思うんです。あれを塗装してしまうと何でもいいやということになるんですけれど、色を付けるというよりは、アルミのもっている持ち味が製品になりやすい、そこが魅力じゃないでしょうか。

 

Q.設計者の方だと、アルミのベンチとなると自分で設計したくなる方が多いような気がしますが。

でも、単品で作ると高くなるんですよね。だからそれを匿名にして、製品にしてもらって、数がでなくてはいけないけれど、値段が下がればそれはひとつの製品になるんですけれど。それも岡田所長がずっとやっていたことで、岡田ブランドを作らないんです。名前はでないけれど岡田事務所で作ったデザインのもの、特に手摺や取っ手は結構あるんです。ただ、今は商品の安全性、性能を担保しなくてはならないので、新型になるとなかなか継続していただけない。昔はアルミ型材の普通のサッシのハンドルなどもオリジナル製品のものを作っていただいていました。

 

Q.岡田事務所ブランドというのはどこが違うのでしょうか。

ブランドというものはないです。匿名性を目指しています。どこが違うかというか、やはり手触りとか、実際に触って使うので、現場の意見を入れてつくったりしています。例えば、ドアのレバーハンドル。先をぐっと曲げてつくったのは医療用にデザインされたのですが、消毒した手を使わずに肘で開けようとすると、レバーに袖がひっかかるので、先端を内側に曲げたデザインを東大病院のときに最初につくりました。今はそういうデザインは結構でてきましたが、当時はあまりなくて。例えばそういうことです。引っ掛からないようにするにはどうしたらよいか。それから、手を消毒した後、手術室などに入る時にはどうしたらよいか。肘とか足で開けられるようにするとか。最近は物理的ではなくて、非接触で開けますが、当時はそういうことをやっていました。そういう考え方はずっと生きていて、それは、触るところにデザインを注力するということです。さっき、外構の話で足の感覚の話をしましたが、手も把手やカラン、一番触るところ、これはデザインとしては一番気になるところで、昔から巨匠と言われる建築家は家具などをデザインしていますが、そういうことだと思うのです。

宮﨑県立図書館 手すり

人の肌が触れるところにデザインの一番の要のミソ、楽しいところがあって、そこから発想してデザインを建築にひろげていくという流れはあるのかなと思います。うちもそのようにやっています。

 

Q.設計者の方でも触る感覚がいいと言っている方、いますね。

木も3mmくらいの薄い引き板の木を張った材料と、3cmの杉板では触った感覚が違ういうのは、科学的に分析すると、遠赤外線の反射によるぬくもりが違うらしいのですが、実際に違うんですよね。3cmの杉板というのは、現場で昔から足場で使っていたような材です。あのような材料を床に敷き詰めると、居るだけですごく温かいというか、寝ころびたくなるというような。子どもはよく寝転がるので、床の材料はすごく悩むのですが、ダニのアレルギーとかいろいろあるのでカーペットは使えないとなると、フローリングあるいは、長尺シートなどになりがちです。ただ、フローリングと言っても千差万別で、3cmの厚い杉板のような床をいつかつくりたいなとはずっと思っています。例えば、そういうことです。アルミの0.8mmと、4mmとか6mmの板の厚みでは、素材感って違いますよね。それはすごく大事だし、やっぱり手が触るところだから。天井に張ってあるのであれば、全く構わないんです。だけど、自分の足で触るとか、手で触るとか、そこの感触というのは、厚みに比例すると思ってて、できるだけ厚いものを使いたい。そういう自由度がどれだけあるかっていう意味では、アルミはすごく自由度がある。

 

Q.自由度があるというのは、どういうことでしょうか。

お金は別として、厚みを自由に出しやすいということです。だけど、世の中の流れはできるだけ薄くする方向なので、コスト削減をしなくてはならないので、そこは逆行するんですけれど、でも建築そのものが昔ながらの土をこねてブロックを積む世界なので、ピラミッドの時代からあんまり変わっていないです。だから建築はローテクなんですよ。ローテクはローテクなりの魅力を出せばいいので、高価なもので厚くやるのは無茶なので、安い材料で厚く使ったらどうかとか、同じ石でも高い高級な真っ白い大理石を厚く使うのは高いんだけれど、トラバーチンという一般的な材料だと、これくらい厚くても使えるのではないかとか。大きい材は使えないけれども、サイコロだったら取れるとか。そういうもので表現していくという方法もデザインです。そういうところは工夫のしどころではないのかなと思います。

 

Q.アルミの材質というのは、触った感触がよいということでしょうか。

もちろんデザインの質によりますけれども、厚みのあるものというのは、私はとても好きなんです。金物細工でいうと鋳物が好きなので。それはやはり重量があって、文鎮なども手に載せると重みが感じられて好きなんです。アルミでも軽くてペラペラだと駄目ですが、塊のようなものは感触的には好きです。鉄でも同じです。南部鉄のような酸化させて錆びない工夫をする、鉄そのものというのはすごく好きです。マンホールも昔の鋳鉄のものは、人が毎日通ると錆びない。あれは塗装してもしょうがないので、そういう素材が出ているところというのは、すごく面白いです。

 

Q.素材論から入ったので、素材をもう少しこだわりたいのですが、アルミの素材で単にベンチだけではなくて、例えば子どもの遊具などは、いろんな開発の可能性があると思うのですが。

あると思いますね。例えば、丸っこいものとか。アルミって熱伝導率が高いので、冷たいという感じにならない。触っているうちにあったかく、馴染んでくるので、そういうものにはいいんじゃないのかなあ。今、遊具はみんな木ですが、木であれば誰も文句を言わないようなところがありませんか。北欧のデザインはいいものが沢山あるのですが、木だけではなくて、いろんな手触り感というのは、知った方がいいし、樹脂でもいいと思うのですが、ぐにょぐにょのスライムボールとか子どもが好きですよね。だからあれは手触りが脳の刺激になって面白いんだと思うんですよ。単純にぐにょぐにょしているのが楽しい。そういうのは成長過程にはすごく重要で、変化が、いろいろあるというのはいいと思います。お酒を飲むなら、錫で飲んだら美味しいとか、ガラスでも薄いものがいいとか、重たいのがいいとか、いろいろありますが。あれと同じだと思います。そういう肌で触れるところの感覚をいかに磨けるかっていうのが、人生を楽しくするのかなと思います。

 

Q.岡田事務所はサッシもアルミを多く使われるのでしょうか。

サッシはもう標準でアルミになってしまっているので、性能的に。住宅系の場合には、樹脂サッシも使います。ただ樹脂サッシは大きさがかなり制限されるので、公共建築で使うとしたら、病院の病室は使えますが、大開口ではまだ使えない。住宅のような小さな空間で、そこに結露しない、断熱気密が高いという意味では樹脂サッシの効果はすごく高い。まあ、ベースはやはりアルミですけれどね。でもサッシとして作って面白いのは鉄、スチール。自由度があるということですけれども。

金森赤レンガ倉庫 開口部

 

Q.木という素材については、どのように評価されていますか。あるいは、特に外構の商品のようなものを考えたときに、どうでしょうか。

外構ですか。外構で使うのは耐久性の問題からすごく難しいです。昔の人は、それをどうやってメンテナンスしていくかというところに知恵があったので、それを季節で使い分けて、柵を作り変えるのはお正月だとか、春になったら雪囲いを取るとか、そこで季節感とメンテナンス、文化と一体になって維持管理ができていた。今はそこまで風流ではなくなってしまったので、その辺をクリアしないとなかなか木を使えませんね。5年経ったら腐ってしまったというのは残念です。私も失敗があります。

 

インタビュー

(一級建築士)津嶋功
株式会社岡田新一設計事務所 代表取締役社長

略歴

  • 1958年 熊本生
  • 1980年 早稲田大学理工学部建築学科卒
  • 1982年 早稲田大学大学院理工学研究科修士過程修了
  • 1982年 株式会社岡田新一設計事務所入社
  • 2013年 同社代表取締役社長

現在の活動: 「横浜こどもホスピスプロジェクト」に取り組む。

岡田新一事務所の略歴 岡田新一氏は、最高裁判所庁舎や警視庁本部庁舎・宮崎県立美術館など数多くの公共建築物を手がけた都市建築家。

公共建築物の「密度の高いデザイン」 「機能に即した合理性」「周辺環境と連繋した都市計画」を追求し、建築業界の発展に寄与した。

1957 年に東京大学大学院修士課程修了後、鹿島建設株式会社に入社。

米国 エール大学建築芸術学部大学院を修了したのち、Skidmore Owings and Merrill 設計事務所勤務、鹿島建設株式会社理事・設計部企画課長を経 て、’69 年に岡田新一設計事務所を設立した。

事務所設立の契機となった のは、同年に行われた最高裁判所新庁舎の設計競技だ。丹下健三氏のチームを抑えて 1 等当選したことで注目を集めた。

完成した最高裁判所新庁舎 は’75 年度の日本建築学会賞・建築業協会賞を受賞している。

このほか、’88 年岡山市立オリエント美術館の第 1 回公共建築賞(文化施設 部門)最優秀賞(建設大臣賞)をはじめ、宮崎県立美術館(恩賜賞・日本芸 術院賞/ともに’96 年)、中近東文化センター(BELCA 賞ロングライフ部門 /2003 年)、’08 年春の叙勲旭日中綬章など、多くの誉に輝き、都市計画な どの分野で功績を収めた。