【前編】「営みと暮らしを支える場」のランドスケープ【中長期滞在型の住宅リノベーション事例】

目次

Q御社のホームページによれば、営みと暮らしを支える場/営みの場/暮らしの場のデザインというカテゴリーがありますが、これはどのような考えなのですか。

風景は、人の暮らしや営みとの関係がとても密接だと考えています。

ホームページ上では、あえて分けたカテゴリーとしていますが、もっとその境界は曖昧になる事が理想だと考えています。感染症拡大の影響を受け、リモートワークで仕事する機会が増え、職住の領域が曖昧になりつつあります。人々は自分の居場所や生き方について真剣に考えるようになったように思います。

ランドスケープデザインを通して、人と土地が接点を持てるような場づくりを行いたいと思っています。(石井さま)

 

Qなぜそのような発想になったのでしょうか?境界が曖昧化されていて、境界を一方で乗り越えたりこちら側から乗り越えたり、場づくりにおいて非常に大きな要素だと感じました。

場づくりの際に、日常と非日常のシーンを考えるようにしています。

例えば、ホテルやホールの様な非日常の場は、日常の延長にあるからこそ、ときめくような時間や体験が得ることができるのだと思っています。

日常と非日常は、分断されているものではなくて、色々な体験がつながり蓄積することで、記憶の中に残ったり、心の拠り所となる風景となっていきます。私たちは、人のつくりだした境界や概念を見つめ直し、一つの連続した風景をつくりだしたいと考えています。(石井さま)

 

Qスタジオテラを設立されたのはいつぐらいですか。

2011年の東日本大震災をきっかけに2013年に設立しました。2015年から野田さんがパートナーとして参画して、来年2023年で10年を迎えます。

私は、日本で建築の大学を卒業し、オランダにて都市計画の勉強をしました。今でも、建築や都市計画が大好きで、その可能性を広げたいと考えています。都市や建築を取り繋いでいきながら、人と自然が渾然一体となった風景を生み出せる職能として、ランドスケープデザインに可能性を感じたのです。(石井さま)

私も建築学科出身ですが、在学中からランドスケープの研究室に配属していまして、まちづくり等、いろいろなことに取り組んでいる研究室でした。公園、道路、川など屋外空間がさまざまな場所を繋いでいたり、人が行き交う事でハードに限らない、つながりが生まれることがあります。場づくりの中で、「ものごとの繋がり方」に興味を持ちはじめ学生時代からランドスケープデザインに対して、魅力的に感じていました。(野田さま)

 

Q都市計画、再開発といった都市型整備の際、どの様にランドスケープのテーマをつくりだしているのでしょうか?

テーマは必ず、規模や施設のカテゴリーに関わらず、その土地の個性を軸足に置きながら提案します。ですので、毎回異なるテーマとなります。さらに、その土地の個性に対して、事業者、設計事務所など関わる人の思いが掛け合わさるため、唯一無二の空間が生まれます。  

その際に私たちが注意していることは、人と土地の関わり方として、程よい距離感や、場に対する適切な物量とは何かを考え、あるべき姿(風景像)を掲げる事です。

プロジェクト関係者の中でやりたいことが2つあったら、僕らも加えて3つにするではなく、土地にすっと溶け込ませるよう場のデザインを行います。時に、建物の位置、ボリューム感などにも言及し、何か諦めたりするような引き算の考え方も大切だと考えています。(石井さま)

 

Q土地の読み方とは、どのようなことでしょうか?

土地の個性を理解する上でさまざまな視点がありますが、分かりやすいのは「地形」です。私たち人間は、必ず地形と何らかの関係性を持ちながら生きています。

例えば、私たちの事務所の向かいには、緑に覆われた武蔵野台地が見えます。そこには、日蓮宗の大本山池上本門寺があり、その台地の裾には複数のお寺が取り囲みまちが広がっています。この地形とお寺が生み出す風景は、まちの個性となっているのは言うまでもありません。台地は、粘性の層や火山層が降りなし構成されており、すぐに地下浸透できないため、時間を経て余水や湧水が周囲のお寺の池や、側溝に流れ込んでいます。表面的な起伏のある土地と、一見して目に見えない水脈があることは、動植物の様相に影響し、まちの独自の空気感を生み出します。

風景というのは、いろいろな要素が連動し、レイヤー状に重なっています。ですので、丁寧にその土地の個性を読み解きながらデザインします。(石井さま)

私たちの中でも、計画する前の状態でも、どの場所が気持ち良いのか、どこに人がいるかなどを注意深く調査して、でき上がった後でもそれらの選択肢を失わないよう計画するようにしています。(野田さま)

土地の個性を理解する上で、敷地調査はとても重要です。中でも雨の日が調査にはお勧めです。雨水の流れを見ることで、その土地の微地形を読み解いたりできます。さらに、水溜りがある場所を見ると、地表面に現れない課題(浸透や埋設物の有無など)を見つけ出す事ができます。

毎回土地の個性が異なるので、調査の時は先入観をも持たないように気をつけます。(野田さま)

 

Q建築家とは、どのような話をしますか?

先ほどのような話をします。

まずどのような土地であり、あるべき姿がなんであるか?事業者も交えて対話します。関係者が土地の個性を根っこから理解し合ってからでないとプロジェクトがブレてしまうと考えるからです。そのように土地の理解を深めた後、建築家の方々を含めた関係者と建物やランドスケープ空間について具体的な議論をはじめます。その中で、建物を少し高い位置に据えた方がいいのか、浮き床がいいのかなど、領域を超えた提案をしながら進めていきます。対話を重ねることで、土地の個性とつながりをもったランドスケープ、建築空間が生まれると信じているからです。(石井さま)

 

Q建築物は人工的なもので、この地域にとって異物に感じますよね。
自然とか地形までも変えてしまうかもしれない。それぞれの会話っていうのはなかなかランドスケープの視点から見ると、難しいところもあるのかなと思いますが。建築家とぶつかることなどもあるのでしょうか?

ぶつかることは、ほとんどありません。

僕らランドスケープアーキテクトとのコラボレーションを選択されている時点で、土地への関わり方に関心があるからだと思います。

しかしながら本意でないものの、建築の条件が優先せざるを得なくなり、土地の個性が崩れてしまうようなシーンもあります。ランドスケープデザインは、新しいものをつくるだけでなく残すことも選択肢にある稀有なデザインです。そういった状況に置かれても、元々あった敷地内の木々、腐葉化した土、人の痕跡など何か痕跡を残すことを考えます。新しいものばかりでなく、過去を紡ぎながら時間を超えた風景づくりをおこないます。(石井さま)

 

Q最近手掛けられたプロジェクトをご紹介いただけますか?

東京都渋谷区幡ヶ谷にある賃貸住宅のリノベーションプロジェクトです。

かつて、長期滞在型賃貸住宅として造られ、共用部の面積が全体の床面積の3割を占める珍しい建物でした。そこで、事業者からランドスケープ空間だけではなく、インテリアも含めた共用部の総合デザインを監修するお仕事の依頼を頂きました。

計画では、バイオフィリックデザインを導入し、自然を感じながら暮らし、働くこともできる賃貸住宅を目指しました。バイオフィリックデザインとは、緑をはじめとする自然の力を受け、幸福度や生産効率を上げるという思想です。

はじめに土地の個性を読み取りました。かつてこの土地は、玉川上水側に下る斜面地にできた窪地だったことがわかりました。地下につながるコートヤード型の建物は、土地の成り立ちに寄り添って造られていることを理解しました。

私たちはこの土地と建物の個性から、「GREEN CAVE」と名付け緑に包まれた中で暮らし、働くことができる空間を目指しました。

共用部のプログラムは、多岐にわたります。1階には中庭ラウンジ、居住者向けカフェ、B1階には共用のワークスペース、個室の打ち合わせスペース(3ヶ所)、ジムとヨガスペースを設け、豊かな床面積を最大化する試みがなされました。プログラムやレイアウトについては、事業者とアイデアを交わしながら一緒に進めていきました。賃貸住宅において、これほど共用部の過ごし方が豊かな物件は、ないのではないかと思います。

エントランスの正面に立つと、緑豊かな中庭が目に入ります。上層階の廊下の立ち上がりにプランターを設けてつる植物が下垂しています。中央には緑に囲まれながら、思い思いに佇むことができるソファ席を計画しました。かつては、ホテルのロビーのようなサンルームがあり、見る庭として緑が植わっていました。リニューアルでは、そのような見る庭から自然を体験する場所づくりを大切にしました。どの場所にいても緑や人の気配を感じる事ができます。いずれ植物で覆われていき、まさに緑の谷地のような風景となっていくでしょう。

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

緑に囲まれて佇む場所となった中庭
(撮影:篠澤建築写真事務所)

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

緑に囲まれて佇む場所となった中庭
(撮影:篠澤建築写真事務所)

特に地下のワークスペースでは、人間優先ではなく、植物の生育に適した環境づくりを行いました。植物たちが元気よく育つことで、初めて人間がエネルギーを得る事ができるのだと考え、人と自然が共生できるハードとソフトの工夫を行っています。

湿潤状態を保つためのミストと潅水設備、植物に直接当たらないように人のための空調設備の調整、気流を生み出すサーキュレーターの設置、植物の成長に必要な照明計画を行なっています。特に照明計画は、年間と1日の時間で照度が変わるようになっています。朝方になり植物の成長を促す赤と青の光を当て、お昼から夜にかけて徐々に照度を落としていきます。21時頃になると真っ暗になり、植物を休ませるようにしています。その時間は利用を控えて頂くようになっています。人が植物の成長と休息の時間に合わせていくと、結果的に人間も人間らしい生活になっていくのだと思います。そのようにハードだけでなく利用時間や過ごし方などのソフトに対しても提案をさせて頂きながら計画を進めました。(石井さま)

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

緑を囲む地下のワークスペース
(撮影:篠澤建築写真事務所)

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

時間により異なる照明をプログラミング
(撮影:篠澤建築写真事務所)

 

Q今回、居住部分となる専有部は、リニューアルされたのでしょうか?

専有部は他の方々が担当しています。今回のプロジェクトの根幹にある、緑と共に暮らして、働ける場所をつくるというプロジェクトの根っこの部分が共有されていたため、棲み分けがあっても一体的な体験ができる場になったのだと思います。

内外の体験がシームレスにつながったり、選択肢が増える事が大切で、本質的な暮らしと働く環境づくりの発見がありました。(石井さま)

 

Qそれは石井さんや野田さんの今後の方向性もある程度示すプロジェクトなのでしょうか。ランドスケープの領域に止まらず、インテリアなど他分野の境界を乗り越えながら、お仕事をしようとしているのでしょうか?

当初、事業者に対してインテリアは、専門の方に入って頂いた方が良いとお願いしていました。事業者の方からは、私たちにデザイン監修として、領域を超えて一体的に考えて欲しいと依頼がありました。基本設計の終盤からジークさんに入って頂いたことで、インテリア空間をより具現化することができました。

インテリア空間の設計は、初めての経験でどこから手をつけるべきかわかりませんでした。しかし、やりながら徐々にわかり始めたことは、建物のリノベーションはランドスケープデザインに通ずるものがあるということです。

建物の構造、避難経路などの法規などを読み解きながら設計する行為は、ランドスケープデザインをする上で地形、水脈、気流を読み解きながら進めるのと似ています。既にあるものを活かしながらデザインすることが共通していて、建物のリノベーションも面白いなと感じました。

チャンスあればまた境界を越えた場づくりに挑戦したいとおもいますが、本業のランドスケープデザインでも、まだまだ求めたいことが沢山あるので、自分の持ってる命の長さを考えると足りないなと思っています。ランドスケープデザインの可能性を追い求めたいです。今興味があることは、動植物にとってあるべき環境とは何かということです。これまで人優先につくられすぎている都市やまちのあり方を、もう少し他者の目線で考えたいと思っています。(石井さま)

 

「ランドスケープは営みと暮らしを支える場のデザイン」を極める。

石井秀幸
株式会社スタジオテラ・代表取締役
略歴 :ベルラーへインスティチュート修了。株式会社スタジオテラ設立。2015年より、パートナーの野田亜木子氏と共同運営。
登録ランドスケープアーキテクト。一級造園施工管理技士。自然再生士。雨水活用施設設計士。

野田亜木子
株式会社スタジオテラ・パートナー
略歴 :関東学院大学工学研究科修了。2015年より、代表の石井秀幸氏と株式会社スタジオテラを共同運営。
登録ランドスケープアーキテクト。一級造園施工管理技士。自然再生士。

 

「終わらない場づくり」「自分ごと化する場づくり」を掲げ、人の原風景づくりに取り組んでいる。

ランドスケープデザインを軸足においた設計活動およびプロジェクトディレクションを全国で行っている。町田薬師池公園西園四季彩の杜ウエルカムゲートにて造園学会賞(作品部門)を受賞、石巻・川の上プロジェクト、能作新工場・社屋、那須塩原市図書館みるる+駅前広場、さいき城山さくらホール周辺地区にてグッドデザイン賞を受賞、近作は大阪中之島美術館、リーフコートプラス他