【前編】街の記憶と風景を継承し、こどもたちの記憶に残る新しい風景を創るー意図的に「余白」を残して設計することで、柔らかい空気感を創出する。 【設計事例】愛知県「N保育園」の公設の保育園を民営化し新築するプロジェクト
Q. ariadesignのフィロソフィーと大切にされていることについて、教えてください。
(村上)
ariadesignは「時を経て完成する、余白のある建築」を提案しています。
建物は完成した後に使い手が10年、20年と使い込むことで完成していくもの、どんな用途の建物でも、使い手が心地よく使えることを目指しています。
「アリア」というのは、イタリア語で「空気」や「雰囲気」「空気感」といった意味があります。
ariadesignの設立は、7年ほど前になります。それ以前から保育施設や医療施設等の福祉設計の仕事が増えてきて、事務所を設立し直したという経緯です。
女性の設計者2人による事務所が当時は珍しかったのもあると思うのですが、待機児童が多かったという社会的な背景もありました。
建築の設計では、敷地の分析をして与条件から整理し、あるべき姿を見出していきます。
同時に、その場でパズルのように合致する要素を探しながら、立ち上がる建築の姿を求めているように思います。
(磯山)
曖昧な部分を残しながら、あえて説明がつかないような部屋をつくることを心がけています。
子どもたちは、設計者が思いもよらない使い方をすることもあります。もちろん、安全面では最大の注意を払いますが。
子ども向けの施設では、登ってほしくないところをよじ登るといったこともありますね。
でも、そうした場所が子どもにとっては記憶に残り、価値になったりするものです。
年齢が小さな子どもたちの施設では、安全面での基準や要求が年々厳しくなっています。
加えて、それぞれの園の考え方があり、伝統やルールがあり、地域性があり、保護者の方の希望があり…。
設計ではすごく気を使います。
ただ、それらを遵守しているだけではつまらないものになってしまうので、安全性は担保しつつ、余白や遊びの部分を考えて設計して提案しています。
Q. 最近手掛けられた保育施設について、プロジェクトの背景と設計の内容を教えてください。
(村上)
愛知県の半田市に建つ 「N保育園」は、公設の保育園を民営化し新築するプロジェクトで、設計者の指名コンペで選ばれました。
半田市は、レンガ倉庫や蔵の町として美しい町並を一部に残しています。反して保育園の計画された敷地は、歴史的文脈からやや孤立した、新しい都市計画の中に位置していました。
そこで私たちは、「ふるさと」の自然の地形や街並みを、室内外に積極的に織りなす試みをしています。
既存園は典型的な「ハーモニカ型」と呼ばれる、保育室群を廊下でつなぐ形式でRC造の四角いつくりでした。
大きくて広々してはいたのですが、人間味に欠けるように思い、ヒューマンスケールのある設計提案をし、また、外部とも内部ともつかない曖昧な空間を意図的につくりました。
例えば、内部に外部のランドスケープのように階段をつくったり、逆に子ども用ベンチのようなすごく小さな設えを外につくったり。
内部と外部に現れる共通言語をあえて混ぜて、内部だけど外部にいるときのようなことができる、外部だけど内部にいるようなことができる、ということを考えて設計しました。
(村上)
園舎は2階建てで、1階に低年齢の児童、2階に高年齢の児童の部屋があります。
全体のプランは基本的に、保育室の周りを回廊のように巡る縁側があり、その縁側は2段階として、内部の室内としての縁側、その外側に外部としての縁側を設けています。
それが先ほど言った、外部であり内部でもある曖昧な場所になっていることを設計しているということです。
ダイアグラム的には単純で、保育室、室内の縁側、室外の縁側、ウッドデッキと、同心円状に構成されていて、室内の縁側でも外の縁側でも、隣の保育室とつながって移動できるように計画しました。
(磯山)
規模の大きな保育園ですので、子どもたちと保育士が、その時々の場所を自由に選べるようにしたらいいのではと考えました。
そうした場所は、南側であればいいというものでもありません。
夏は暑いので、日差しを避けるように東側や北側に移動できるといい。
また、この園では裸足の保育をされているので、子どもたちが室内から園庭に出たり、園庭からそのまま上って部屋に入ったり、おおらかに使えるようになっています。
幼稚園や保育園の設計では、どういう空気感がいいとか、どういう余白があるといいかということからも発想しています。N保育園は結果として、裸足でこどもたちが室内外をシームレスに駆け巡る、のびのびとした園舎になりました。
(村上)
児童にとって、園は一日の大半を過ごす場所です。一つの保育所の中で、いろんなことができる場所があるといいと考えています。
子どもたちの動きを見ていると、バラバラなんです。踊りに没頭している子がいると思えば、そのそばで本を静かに読んでいる子がいる。
いろんな子どもたちが楽しめるように、さまざまな場所を設けたいと思います。
ariadesign(アリアデザイン)
村上佐恵子
早稲田大学大学院 建築学科 修士課程修了。Domus Academy / University of Walesにて学ぶ。組織事務所勤務を経て、2015年ariadesignを設立、代表取締役。子ども空間デザイン、建築設計、インテリアデザイン、空間アートを手がける。
磯山 恵
東京大学大学院 建築学科 修士課程修了。組織事務所勤務を経て、2015年ariadesignを設立、取締役。
著者プロフィール
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